本気なのか。
本気で俺に、身体を与えるのか。
写輪眼という代償があるにしても。
ナルトに生き写しの、その身体を。
そして俺は、欲しいのだろうか。
終わらない夢 〜暗部編〜 by真也
ACT5
強さと、誰かを探し求めるために、ここに来た。
暗部。
里とは全く違う、隔離された場所。
さぞ強いやつの集団かと思っていた。人を殺すことが主な生業の部所だったから。
どんな奴がいるだろう。
そう思いながら廊下を歩いていた時、俺はそれを見つけた。
土色の肌の男と、一回り小さな金髪の少年。何か言い合いをしているようだった。
通れない。
普段なら有無を言わせず通るのだが、初っぱなから騒ぎを起こすわけにはいかない。せっかく周囲を押し切ってまでここに来たのだ。
「退いてくれ。通行の邪魔だ」
俺の声に、そいつはこちらを見上げた。
空色の瞳。透明度の高いそれに俺が映っている。
顔形も。見上げる表情も。真っ直ぐな視線も。すべてがナルトの、正確には少年のナルトのものだった。
一度だけ見た。あの、森で倒れていたのを見つけた日。二人でラーメンを食べに行った。
大人の姿の時とは違った印象。旨そうにラーメンを食べ、いつもよりいきいきと笑った。間近に見えた碧い目。息づかいまで近くに聞こえた。
ナルトは火影で、心にいつも奴が住んでいた。どんなに求めても、俺のものにはなり得なかった。でもあの日は、俺の近くに降りてきてくれた。あの一瞬だけは、俺と同じ位置でいてくれた。
結局、奴に取り戻されてしまったのだが。
それでもあれは、たった一つ、俺の中の大切な思い出。
だから、そいつから目を反らせなかった。
廊下で。
集合場所と言われる任務受付所のような所で。
金色の頭を見つけるたびに、見つめたい衝動に駆られた。
「おれは、鈴って言うんだ」
ニッコリと輝くように笑って、奴は自分の名を言った。
部屋に近づいてくる者の気配はわかっていた。扉の前に来た時、そいつの纏う気に驚愕した。
覚えのある性質の気。それは、ナルトと同質のものだったから。
扉を開けて、中に入ってくる。姿を見て、妙に納得した。ああ、こいつならわかる、と。
「そっちにいってもいい?」
小首を傾げて訊いてくる。来るのか。ここに。その姿で。
「どんな本なの?」
温かい手が、腕に触れた。目の前に細い首。透けるような白い肌。金糸のような髪が、さらりと音をたてて揺れる。
「礼を、させて欲しいんだ」
囁き。やっと聞こえるような声で言う。早鐘のように打つ心臓。右胸に温もり。小さな頭が押しつけられている。息の音が、微かに響いている。ごくりと息を飲んだ。
信じられない。
手に届かなかったものが、この手の中に飛び込んできている。
「ねえ。おれじゃ、嫌?」
両頬を柔らかい掌が囲む。ナルトの顔が近づいてきた。
「おれを試して。で、気に入ったら、見せて欲しいものがあるんだ」
「写輪眼か」
「いいだろ?」
言いながら、唇が肌を吸う。そこで気付いた。違う。そうだ、こいつはナルトじゃない。
クナイを握り、奴の首に突きつけた。「手を、退けろ」と警告する。
「いいよ」
奴は逃げなかった。命乞いをすることも。ただ、射るように空色の目を俺に向ける。
「おれは礼がしたいだけ。写輪眼だって、あんたの自由だ。信じられないなら、刺して」
奴の目が閉じられた。クナイを握る右手に細い手が添えられ、ゆっくりと力が入れられる。突き刺さった色の薄い皮膚から、紅い血が染み出てきた。思わず、クナイを退く。
本気なのか。
本気で、俺に身体を与えるのか。
写輪眼という代償があるにしても。
ナルトに生き写しの、その身体を。
そして俺は、欲しいのだろうか。
「続けていい?」
言葉が投げられる。確認するような眼差し。
欲しい。
明確に思い知らされる。
そうだ。俺はずっと、欲しかった。
金色の頭に手をやる。そっと、胸に押し当てた。
ACT6へ続く
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