試してやる。
 そんなに大口を叩く程、強いかどうか。
 写輪眼がどんな術か知らない。でも。
 上手く聞き出して、きっと盗んでやる。
 大きく息を吸い込んで、おれはその部屋の前に立った。 







終わらない夢 〜暗部編〜 by真也







ACT4



 奴が集合場所を去った後、おれは急いで報告を済ました。受付で確認して、奴の部屋へと向かう。
 横柄な口調。愛想のかけらもない態度。全てが気に障った。
 試してやる。
 おまえが本当に『うちは』とやらなのか。
 皆が恐れる力を持っているのか。
 おれが、この目で確かめてやる。
 自分でも説明のつかない苛立ちを抱えながら、おれは歩を早めた。
 




 奴の部屋は、集合場所から一番離れた棟の端に配置されていた。丁度空室も多かったから、おれはにやりと口元を歪めた。
 ここなら、多少の声や音を出しても聞こえない。せいぜい、いろんな声を出してやるさ。
 いくらおまえが鳴り物入りだとしても、ここは暗部だ。里とは違う。安穏としていられるところではないのだ。
 その扉の前に立ち、おれは気を張り巡らせた。
 気配は一つ。いる。
 こちらの気配に気付いているだろうに。扉に結界は張っていないし、中から殺気も伺えない。
 おれは扉をそっと開けた。飛んでくるかもしれないクナイを警戒しながら中を見る。
 奴はベッドに足を投げ出して座り、なにかの本を読んでいた。
 やっぱり。
 おれは内心ほくそ笑んだ。なんだかんだ言ったって、こいつは里の人間。安全な場所で暮らしてきたが故、根本的に警戒心が薄いのだ。
「ねえ」
 声を掛けた。奴の目がこちらに向けられる。僅かに見開かれて、再び元の大きさに戻った。
「おれは、鈴って言うんだ」
 取り敢えず自分から名のる。にっこりと微笑んだ。これで、気が緩い奴は半分落ちる。
「何か用か」
 抑揚なくぼそりと言った。警戒はしているみたいだけど、敵意は感じられない。
「さっきのお礼を言いたくて」
「何のことだ」
「廊下で会っただろ?」
 そう言うと、眉に皺を寄せて考えている。嘘つき。あの時、こっちを睨んでたじゃないか。
「あの時、おれ、しつこく言い寄られててさ」
 心持ち悲しそうに言う。さも手だてがなくて、困っているかのように。
「だから、あんたが来てくれて、すごく助かったんだ」
「よかったな」
 興味なさそうに奴は答えた。相変わらずの無表情。



 いいよ。
 今から傍に行くから。
 行って、見てやるからな。
 その、すました顔の裏側を。



「そっちにいってもいい?」
 小首を傾げて訊くと、奴はしばらく考えていた。
「何を読んでるか見たいんだ。それ、里の本なんでしょ?」
 人懐っこい表情で、さらに言葉を継ぐ。本当にその本が見たいように。好奇心旺盛な子供のように。
「ね。いいでしょう?」
 甘い声を出して強請る。ついに、奴は首を縦に振った。
 そっと近寄り、ベッドに腰かける。よく見ると、奴はおれとかわらない位の年に見えた。整いすぎているけど、まだ男というよりは少年に近い顔だち。間近に、つややかな黒い瞳。



 綺麗な目だね。でも、おれが見たいのはそれじゃないよ。



「どんな本なの?」
 そっと、腕に手をかけた。瞬間、奴の身体が強ばる。気付かないフリで手元の本を覗きこんだ。 
「木の葉の・・・歴史だ」
 固い声。首筋にかかる息が熱い。下から奴を見上げて言った。
「歴史?面白そうだね」
「興味があるのか」
「まあ、ね」
 呟きながら、そっと、頬を奴の胸に押し当てる。
 熱い肌。早鐘の鼓動。布ごしでもはっきりとわかった。
 いける。
「何をしている」
 微かに、上ずった声。動揺を隠しきれない。
「礼を、させて欲しいんだ」
 小さな声で、そっと呟く。頭のすぐ上で、息を呑む音。もうすこし。
「ねえ。おれじゃ、嫌?」
 再度上目づかいに見上げた。そして見つける。漆黒の目の中に、微かに燃えようとしているものを。
 腕に置いていた手を、頬へと進めた。両手で端正な顔を囲み、すぐ目の前で見つめる。
 奴もおれを見ている。いいね。あんた綺麗だから、見つめるのも楽だよ。
「おれを試して。気に入ったら、見せて欲しいものがあるんだ」
「写輪眼か」
「いいだろ?」
 囁いて、上衣の襟を緩めた。現れた肌に唇を落とす。きめ細かい肌。すっきりと無駄のない筋肉。おれより低めの体温。
 おれも、楽しめそうだな。
 そう思った時、首筋に何かが押し当てられた。冷たい金属の感覚。
 奴がクナイを突きつけていた。
「手を退けろ」
 低く、唸るように言う。おれは奴の目を見ながら言った。
「いいよ」
 奴の片眉がピクリとあがる。 
「おれは礼がしたいだけ。写輪眼だって、あんたの自由だ。信じられないなら、刺して」
 クナイを持つ奴の手を左手で包み、さらに首へを進めた。小さな痛み。じわじわと広がってゆく。おれは目を閉じた。
 少しずつ首に刺さっていたクナイが止まった。強い力でひき離されてゆく。おれは目を開けた。
「いいの」
 見上げて言う。「ああ」と言葉が落とされた。
「続けていい?」
 首をかしげて確認する。返事のように、頭が胸へと押しつけられた。



 落ちた。
 心の中で確信する。
 もうおれに、危害は成さない。
 おれの勝ちだ。 



 美しいと言っていい程均整のとれた身体を、一つ一つ味わってゆく。指で。唇で。舌で。
 楽しませてあげるよ。おれも少しは、楽しませてもらうけど。
 よくなって。
 緩んで。
 溺れて。
 あんたの警戒がほどけた時、おれはその眼をもらう。



 熱さを伴った部分が、明確にある主張を始める。
 いいよ。
 ちょとだけ、つきあってあげるよ。
 おれの仕事が始まるまではね。
 右手首に仕込んだ針の感覚を確かめながら、おれはそこに舌を這わせた。






ACT5へ続く

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