終わらない夢 〜暗部編〜 by真也








LAST ACT



 躊躇わなくていい。
 迷わなくていい。
 誰が何を言おうと、前を向くだけ。
 前を向いて、進んでゆくだけ。 
 おまえと共に。




「せっかくここまで来たんだし、毒物薬物耐性をつけてもらうよ」
 一通り精密検査を雷に施した後、にっこり笑ってナギが言った。
「木の葉の里から正式に要請が出ている。今回のことが、かなり効いてるのかな。でもまあ、今なら鈴が手伝ってくれるし、リスクは少ないと思う」
「どういうことだ」
 怪訝そうにあいつが訊く。
「おれはもともと毒物薬物耐性を持っている。だから、おれから補助物質を取るんだ。で、耐性試験の補助に使う。もっとも、雷の身体に合えばだけど」
「それは大丈夫だと思うよ。適合性は確か、シギ主任が調べていたはず。一応テストはしてみるけど」
 画面を覗きこみながら、ナギ。
「どちらにしても、忍である以上は必要だろうし。うちはサスケ上忍もしたんだよ」
「奴もか」
 雷の口がへの字に曲がる。ナギがくすりと笑った。
「そうだよ。今の雷より、一つ位年下だったかな」
「そうか。・・・・・・・で、いつからするんだ?」
「明日からでも」
「いや。明後日にしてくれ」
「え?いいよ。明後日開始ね。できるだけ、身体に負担の少ない日程を組むから」
 何やらファイルに書きこみながら、ナギが言う。どうやら、血液検査のデータらしい。
「雷は基礎体力が高いから、実際はけっこう早めに終わるだろう。でも、暗部任期の終了まで、しっかりここにいてもらうからね」 
「ナギ、それどういうこと?」 
「つまり、暗部には帰ってくるなということだな」
「ご明答。シノ暗部長から固く言われております。どうぞ、指示にしたがってください」
 苦笑しながらナギが言った。おれは複雑な顔になり、雷は仏頂面になった。  





「結構、冷えてきたな」
 カーテンを閉めながらおれは言った。あいつを振り向く。
「お前と出会った頃は、まだ新緑が出始めたばかりだった」
 雷にしてはぼんやりとした表情。珍しい。
「考え事か?」
 傍まで行ってベッドに腰かける。視線がこちらに向けられた。
「早かった。と、思っていた」
「それにしては、盛り沢山の内容だったぜ。まさに『山あり谷あり』ってとこかな」
 言いながら、ふと思いだす。自然と顔が弛んだ。
「何を笑っている」
 腕が引かれた。目の前につややかな黒眼。僅かに拗ねたような印象を受ける。右目のすぐ下に、斜めに走る傷。
「本当、失明しなくてよかったな。傷、ついちゃったけど」
「誤魔化すな。何故笑っている」
 眼差しが更にきつくなる。苦笑して、白状した。
「思いだしてたんだよ。初めて会った時のおまえ、嫌な奴だったなと」
「お互い様だ」
 項が掴まれ、口を塞がれる。熱い舌。強引に侵入してきては、暴れ回っている。
「・・・う・・・・」
 さすがに苦しくて、腕を掴んだ。かぶりを振ってやっと逃れる。睨みながら息を整えた。
「ったく。わざとやってるだろ」
「さあな」
 しらじらと無表情に返す。このままじゃ、ちょっと悔しい。
「一つだけ、訊いていいか?」
 上目遣いで見上げた。あいつが目で先を促す。
「何故、おれに惹かれたんだ?おれが『うずまきナルト』に似てたから?」
 意地悪だな。我ながら思う。でも聞きたい。おれは誰の代わりでもないから。
 漆黒の瞳が見開かれる。すぐに、普段の大きさになった。形のいい唇が開く。
「正直、最初は同じ顔に目を奪われた。でも、ナルトとお前は違い過ぎていた」
 両脇に手が回された。身体を持ち上げられ、膝を跨がされた形になる。おれは雷の首に手を回した。
「ナルトはこんなことしない。最初お前が俺を襲った時。俺の中で、お前とナルトは全く別のものとなった」
「だから、あれだけやれたんだ」
「違う。加減が効かなかった。怒るのも、他人に自分の感情をぶつけるのも、あの時以来だったから」
「あの時って?」
「昔、同胞を傷つけてしまった。『うちは』が同族殺しの一族だと聞いて、怒りで暴走した」
 オウガから聞いた。そのことが原因で、雷はまわりとの関係を一切断ち切ったと言う。
「俺は『うちは』ではなく、『うちはを抑えられなかった自分』を恐れていた。乗り越えたいと思い、ずっと対峙してきた。そしてついに、俺は俺を超えることができた」
 あいつの腕。おれの身体を抱きしめる。強く。息が詰まるほどに。
「お前のおかげだ」
「雷」
「お前を得て、俺は俺になることができた。だから、もう離せない。分かるか?」
 真摯な目が問う。一旦瞼が閉じられて、紅い瞳が姿を現した。
「お前はもう、俺の一部だ。離れることは許さない。次は殺す。躊躇わないと思う」
 冷たい殺気。本気で言っているのだろう。わかっている。おれも同じだから。
 やんわりと微笑み、口づける。すぐに唇を離し、目の前で言った。
「気が合うな。おれもそう思ってたところだ」
「・・・・そうか」
 不敵に雷が微笑む。この上もなく、奇麗に見えた。



「それにしても、あれは堪えたぞ」
 ぼそりと低音。耳に落とし込まれる。
「・・・・あれって?」 
「とぼけるな。わかっているだろう」
「本当、しつこいな」
「当たり前だ。問答無用で拒絶されたんだからな」
 据わってくる目。まずい。当時の怒りを思い出してるのだろう。仕方ないな。おれは苦笑した。
「どうすれば、いい?」
 上目遣いに伺う。鎖骨に額を押し当てた。頭上の気配が弛む。しばらく、沈黙。
「そうだな」
 肩が押される。瞬時に伸し掛かってきた。あいつの手が肌を彷徨い始める。確実に反応する身体。
「取り合えず、朝まで付き合ってもらおう」
 子供のように笑んだ。敵わない。その顔を見せられてしまったら。


 いいよ。
 おまえだから、いい。
 他には、何もいらない。


 おまえとなら歩んでいける。
 おれ達が作るおれ達の世界を。
 終わらない夢を。





 四ヶ月後、暗部研究所から里に向かって二人の忍が出発した。
 一人は黒髪黒眼の上忍で、もう一人は狐面をした金髪の青年だったと言う。



end




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