終わらない夢 〜暗部編〜 by真也
ACT36
夢だと思った。
流れ落ちた血が、あいつの幻覚を見せたのだと。
それ程俺の身体は、弱ってきたのかと思った。
あいつが来る。俺の方へと。結界の僅かな隙間を抜けてくる。
「うわっ!」
もう少しの所で掴まり、力任せに振り切ってきた。クナイがあいつを狙う。身体が動いた。
熱い。
右目の辺りに焼けるような痛み。溢れた血に視界が狭まる。目をやられたか。
「何をしている!」
背中を向けたまま怒鳴った。すぐ後ろに鈴の気。怒ったような声で返事が返る。俺を加勢しに来たと。
いらないと答えた。命令で仕方なく来た奴に、助けてもらいたくはなかった。
「違う!」
強い否定に振り向く。碧い瞳が大きく見開かれた。小さく声が漏れ、あいつの顔が泣きそうに歪む。声が出た。
「気にするな」
そうだ、気にしなくていい。
クナイはお前に当たらなかったのだから。
「命令でないのなら、どうしてここに来た」
わからなくて訊いた。あいつは確かに、俺から離れて行ったのだ。
「俺など関係ないのだろう?」
卑屈な言葉。言わずにはいられなかった。あいつの口が結ばれる。碧眼の奥に、燃える焔。
「そうだよ!」
叫び。耳を劈く。予測はしていた。
「でも仕方ないだろ!そう出来なかったんだからっ!」
あいつの視線。まっすぐ俺に注がれる。止まる思考。言葉を無くした。
知らないぞ。
次にはもう、離せなくなる。
お前を屠れる程に。
言葉が全身を駆け巡る。答えは決まっていた。
信じる。後で何を言おうと、聞いたりしない。
「そうか」
微笑む。今はそれだけでいい。お前の言葉だけで。俺は構えなおした。写輪眼を見開く。敵を見据えた。
倒す。お前となら、できる。
俺は何にでもなれる。お前を得られるのならば、どんなものでも。
凶々しい眼。強大な能力。己の力が、呪わしいと思ったこともあった。
でも今、素直に言える。
『うちは』で、よかったと。
精神を集中する。身体の奥からチャクラを引き出し、気を最大限まで高めた。今こそあの技、『千鳥』で。
「今だ!」
あいつの声に飛び出す。雷撃と焔を繰り出し、次々と動くものを貫き、焼き払ってゆく。
燃え盛る炎。降り注ぐ雷。逃げ惑う者たち。
同じだ。身体を駆け抜ける嵐。激情のままに、全てを滅し尽くしたあの日と。でも。
一つだけ、あの時とは違う。
俺はコントロールしている。己の中の嵐を。
超えた。
ついに、超えることが出来た。
あの日の自分を。
自らを抑えられなかった、弱い俺を。
炎の中、敵の気配が完全になくなったのを確認して、あいつのもとへと戻った。鈴が駆け寄ってくる。
「やったな」
笑顔。活き活きと輝く。俺の好きな表情。
「ああ。・・・・助かった」
感謝する。また見つめ合えることに。精一杯、微笑みを返した。
「覚悟しとけよ。もう、離れないからな」
あいつの言葉。求めていた。物心ついてからずっと、この言葉を。
ああ・・・・・・やっとだ。
やっと、俺は・・・。
身体が傾く。支えられずに倒れてゆくのがわかる。
暗いな。
何でこんなに、暗いのだろう。
片目だからだろうか。
これでは、鈴が見えない。
ようやく見つけたのに。
地面に叩きつけられる瞬間、俺の意識は途切れた。
あいつの声が聞こえた気がした。
ACT37へ続く
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