終わらない夢 〜暗部編〜 by真也
ACT34
龍尾連山の北端、森の国より更に北。
対木の葉防衛の要所とは思いがたい場所に、その砦はあった。砦と言っても規模的には小さく、どちらかと言うと研究施設に近い様式。さしずめ、雲側の暗部研究所と言ったところだろうか。
それが龍髯という砦だった。
暗部の里から終日走り、俺は目的地に着いた。まずは周囲を見渡し、得てきた情報と一致するかを確認する。幸い、情報は比較的新しいようだ。
ここに雲の新兵器が配置されたと言う。兵器、それはどういうものなのか。器物か。術か。それとも人か。真実を見極め、破壊するのが今回の俺の任務。潜入経路、脱出経路を写輪眼で確認し、深夜を待って俺はそこに潜入した。
完全に気配を殺し、内部を伺う。今のところ、取り立てて大きな気は感じられない。殆どが中忍クラス。上忍は数えるほどだ。
解せない。
思わず眉を顰める。これはどういうことだろう。新兵器が配置されているにしては、この砦の警備は薄過ぎた。ふと思う。まさかこの情報自体が怪しいのではと。しかし。
ここにはあらかじめ、情報確認の為に暗部の誰かが来ているはずだ。でないと、こんなに正確な目的地の情報は取れない。
と、いうことは、新兵器は確かにこの砦にあると考えていいのだろう。ならば、見つけるのみ。
俺は写輪眼を見開き、施設内をくまなく探した。だが、特殊な器物らしいものは見当たらない。封印や結界などの術も、砦にかけられた様子もなかった。あとは、人か。
しかし、どこを探してもそれらしい強大な気は感じられなかった。チャクラも然り。
ただ、この規模の砦にしては中忍の配置が多いくらいで。
らちがあかない。
俺は腕を組んだ。このまま潜伏し続けるには時間が惜しい。第一、その新兵器というやつをいつ使用するか見当もつかない。いつわかるか不明なものを待ち続けるほど、俺は暇ではない。
こんな時こそ、陽動が必要だな。
そう思って、あることに思い当たる。相手の出方を見るには、陽動作戦が一番早い。だが、陽動する側と本当の目的を果たす側の息がぴたりと合っていなければならない。特に、陽動する側にはそれ相応の攻撃力と、それを上まる防御力が必要とされる。
シノの考えは正しい。鈴となら申し分ない任務だった。
考えて、自嘲する。無駄なことを。あいつは俺とは組まない。俺のことは関係ないと言ったのだ。命をかけて、囮になどなってくれようはずもない。あいつはあいつの道を選んだ。俺と歩まない道を。
溜め息をつく。一人で、やれないこともない。もともと一人でやれると言ったのは誰でもない、自分だ。チャクラの消耗率は激しいが、分身をいくつか置いて囮にする。それで、相手の動きを見極めるだけの時間は稼げるだろう。いろいろあてなく考えるより、自分のやれることをやる方が建設的だ。
精神集中。分身を五人ほど作り、俺は各場所へと分散した。要所になりそうなところで同時に火遁を放つ。攪乱を開始した。
炎。混乱する敵。いとも容易く破壊できる施設。何もかもが簡単過ぎた。
確かに攻撃は効いている筈。幾人かの上忍は血祭りにあげた。でも、おかしい。
こんな時こそ真っ先にかかってくるはずの、中忍たちがいないのだ。
砦から中忍を逃がしたのか?馬鹿な。それこそ新兵器を先に移動し、中忍たちは侵入者をここに留める捨て駒になるはずだ。だのに、何故。
異変が起こった。放った火遁が効かない。分身も次々と消された。結界。それも強力な。かなり広範囲に張られた。俺を外に出さない為か。
ゆらり。前方に雲忍が一人現われる。上忍クラスだ。そして、その後ろに次々と中忍達が現われた。二十人は下らない。
俺は気付く。どうやらこの結界は、中忍たちがあの上忍を介して張っているようだ。
火遁。炎を放ち結界の強度を確かめる。一部は壊せても、すぐに修復してしまう。結界自体が何層も張られており、一度に全部を壊すことは出来ないようだ。なるほど。弱い中忍でもある者を介して同調し、強力な結界を張る。確かに新しい術の様式だ。
これだけだろうか。疑問が頭を掠める。これでは、中の者を閉じ込めることしか出来ない。その者を上まわるほどの手練れがいれば充分事足りるが。チャクラからして、あの上忍が俺以上の力を内しているとは思えない。
ならば、奴を倒せばいいことだ。
風遁。風を巻き起こす。その時、奴の顔が嗤った。結界が新たに張られる。無駄だ。遅い。俺は真空を放った。
一瞬、何が起こったか分からなかった。
放った刃が術者である俺自身を襲う。とっさに避けたが、何本かくらってしまった。腕が、足が切り裂かれる。鮮血が舞った。
何だと。
確かに俺は真空の刃を放った。奴の結界に跳ね返された様子はない。それどころか、奴の張っている結界は己を守る防御結界ではない。それは、俺を取り囲むように張られている。
火遁。炎は奴へと飛ばず、俺に向かってきた。水遁も然り。
違う。
この結界はただの結界ではない。ここでは術を使った者にその術が跳ね返ってくるようだ。なまじには、術が使えない。
中忍達の一部が外部よりクナイを投げ始めた。次々と降り注いでくる。仕方なく俺はクナイを構え、飛んでくる武器を弾き返した。
結界で動ける範囲が限定されている。避けきれない時もあり、浅い傷が増えてゆく。薄く滲んでゆく血。止まらない。武器にもなにか、細工が成されているようだ。
『イツマデツヅクカナ』
ガラガラとした声が頭の中に響く。遠話で話しかけてきた。唇を噛む。
持久戦だ。
早く活路を見いださなければ。多勢に無勢。このままじわじわと消耗させられたら、疲れが俺の命取りになる。
結界だ。この、未知の結界を何とかしなければ。しかし、手を考える暇がない。息をつく暇さえなく、クナイと千本が襲う。
落ち着け。
落ち着くんだ。
自分に言い聞かせた。
諦めなければ、必ず機会は来る。
長時間結界を張り続けるには限界がある。術者のチャクラが小さければ小さいほど、結界と結界の合間に息をつく瞬間が来るはずだ。
それを見逃さずに叩くんだ。
今は、耐えるしかない。
意を決し、俺はひたすら武器の雨を避け続けた。
ACT35へ続く
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