終わらない夢 〜暗部編〜 by真也








ACT32



 埋めよう。
 任務と言う名の、感情のない世界に。
 未練がましく、あいつを断ち切れない自分を。
 戦って。戦って。
 生き抜くことに、精一杯な日々をおくろう。
 何も考えられなくなるまで自分を追い詰め続けて、残りの時間をやり過ごすんだ。
 でないと、俺は・・・・。




 目が覚めた。
 今日は任務。単独で雲の国へと向かう。龍髯(りゅうぜん)という小さな砦の内部を探り、密かに配置されたらしい新兵器を確認する。そして、それの破壊。
『おそらく、戦闘任務になるだろう』
 シノの言葉。望むところだ。今、外交任務など振られたら、冷静に駆け引きできるかわからない。それに、どう考えても戦闘の方が俺の性に合っている。
 奴は結界術者が必要だと言っていた。ならば、まさしくこれは鈴と俺にふさわしい任務だったのだろう。確かにあいつの結界は心強い。息さえ合えば、無敵とも言える防御だ。
 やめよう。
 苦笑して首を振った。馬鹿なことを。俺とあいつが組むことは、もうない。あいつが離れ、俺が放ったのだ。
 暗部服を身にまとい、装備を確認する。部屋を出た。
 早朝の静まり返った廊下。仲間は未だ任務から帰らない。俺は集合場所へと向かった。
 受付で任務の最終確認をする。その後すぐに出発して、夜には目的地に着けるだろう。そう思った時、感じた。
 
 
 気。
 集合場所に、鈴がいる。


 気配を完全に殺す。そうすれば、あいつに近づけるだろう。だからと言って、どうにもならないのだが。
 頭ではわかっている。でも、心がそれに従えない。
 細心の注意を払って受付へと進む。
 鈴は荷物を受け取っていた。中身を改め、抱きかかえる。俯いていた背が伸ばされた。さらり。項が金糸で隠れる。
「うちは上忍、おはようございます」
 受付が挨拶する。俺は一歩前にでて、目でそれに応じた。
 すぐ間近に、鈴がいる。
 白い肌。細い首。俺より一回り小さな肩。
 あいつの匂い。鼻孔をくすぐる。
「任務の最終確認書です。目を通してから出発してください」
 受付が巻き物を差し出す。右手を伸ばし、巻き物を受け取った。胸が、あいつの背に触れる。流れてくる体温。びくり。鈴の身体が波打った。
 

 衝動。


 身体中を突き抜ける。
 欲しい。こいつを奪ってしまいたい。
 掠って、何処か誰も来ない所へ行って。俺だけのものにする。
『何したって無駄だ』
 鈴の言葉。それでも。
 心はもらえなくても、身体はこの手に出来る。
 誰にも触らせないで。貪って。
 俺に繋いでしまいたい。


 自制。


 目を閉じて、思い直す。
 確かに聞こえた。ナルトの声。『諦めるな』と言っていた。
 そうだな。まだ全てが終ったわけではない。
 壊して、奪うこと。
 それはとても容易く、いつでも出来る。だから。
 もう少し縋っていよう。ナルトの言葉に。
 あいつ以上の存在など、今はとても考えられないけど。
 諦めなければきっと見つかる。



 最終確認書に目を通す。変更は、ない。
「了解した。今から出発する」
 ぼそりと言い、身体を退いた。踵を返し、足を前へと進める。遠くなってゆく鈴の気配。背筋を伸ばして集合場所を出た。
 出口へと向かう。
 遠くに、鳥の声。辺りも明るくなってきた。任務を終えた仲間がぽつぽつと帰ってきている。集合場所へと向かう奴らとすれ違った。
「な、なあ!」
 声を掛けられた。一瞬、自分とは思っていなくて通り過ぎる。
「アンタ、龍髯の砦に行くんだろ?」
 自分のことだと気付いて、足を止める。振り向けば、土色の顔が見ていた。ぎょろりとした緑の目。あれは確か、以前鈴と一緒にいた男だ。
 眉を顰めて牽制する。なぜ、俺の任務内容を知っている。
「恐い顔、すんなよ〜。何も、アンタに喧嘩売ろうって気、ないよう」
「ならば、何故呼び止める」
「いいじゃねぇかよ。アンタなら、あそこ落とすのくらい、楽勝だよな。頑張ってくれよ」
 不審な言葉。思わず睨み付けた。
「何が言いたい」
「怒るなよう〜。ただ、応援しただけじゃねぇかっ」
 可愛いとは言えない顔が、子供のように歪む。俺は興味をなくし、再び歩きだした。
 奴はしばらく俺を見ていたようだが、諦めたのか、気配が遠ざかっていった。
 解せない。でもいい。
 龍髯の砦に何があろうと、任務を遂行するだけだ。
 一人で考え、一人で戦ってきた。それは、今までもこれからも同じ。任務に集中しよう。
 暗部宿舎を出る。朝の光。これから、龍尾連山の北端へと向かう。


 何も考えるな。今は、全部埋めてしまおう。
 迷いも。未練も。己の感情さえも。


 固く唇を結び、俺は土を蹴った。





ACT33へ続く

戻る