終わらない夢 〜暗部編〜 by真也
ACT24
不安という名の波紋。
ゆっくりと、確実に心の中を占めてゆく。
答えは既に出ている。それでも。
目の前にある安寧を、手放すどころかしがみついている。
夢だ。
これは夢なのだ。
だから、いつか終わる。
「大丈夫か?」
漆黒の瞳が覗きこんでいる。心配そうな声音。慌てて視線を上げた。
「えっ・・・なに?」
「つらそうな顔をしていた」
「そうか?」
「久し振りだったから、その、きつかったのか?」
戸惑うような視線。おれの身体を心配している。首を振り、背に手を回した。
「大丈夫だよ。ただ、ぼんやりしていただけ」
熱い肌を頬で感じる。遠くに鼓動。止まることなく打ち続けている。
温かい。
波打つ心が静まってゆくのが分かる。
だめだ。
心地よすぎるこの腕。この胸。離せなくなってしまう。
「無理はさせたくない。今日は寝よう」
身体が離された。肌に風が入り込む。寒い。急いで腕を取った。再び身体を密着させる。驚いたような顔が見下ろした。
「鈴」
「違う。違うんだ」
尋ねる眼差しを見つめ返した。無言で先を促され、素直に白状することにする。鎖骨に額をあて言葉を継いだ。
「本当は、足りない。だから・・・・くれよ」
身体の位置をずらしてそこに触れた。ゆっくりと口で育てて・・・・・すぐに応えてきた。それが十分に可能になったのを見計らい、上に乗る。おれの中へと導いた。
おまえだ。
おまえが今、おれの中にいる。
考えたくないんだ。
嫌なことばかり頭に浮かぶ。だから。
奪ってくれ。
考える余裕なんていらない。
おれの中には、おまえだけあればいいんだ。
「いいのか」
ぼそりと確認される。腰を両手で掴まれた。交わりが深まり、自然と背がしなる。
返事の代わりに微笑みを返した。頬を両手で囲って、噛みつくように口づける。それに応えるかのように、身体が揺すられ始めた。
身体も。声も。息も。
一つのものになってゆく。
ただ、おまえを感じるだけのものに。
全てを振り切るようにして、おれはおまえに沈んだ。
乱れた敷布で、一人目覚める。そんな日々が続いていた。
だるい身体を起こしながら、自嘲に顔を歪める。何も考えられなくなるまで求めて、倒れ込むように眠る逢瀬。自分でも何をやっているのかと思う。でも、やめられない。
認めたくないのだ。自分の中にある答えが。
雷は更に多忙になった。『うちは』を指名してくる任務はますます増え、今では殆ど暗部を空けている状態になった。本来、暗部では受けない里の任務。それも皆、外交関係だという。最初は危惧した声も多く聞かれた。しかし、あいつはそつなくこなしていった。
一つ一つ、確実に。
そのうち雷の噂も変わった。明らかにいい方向へと。畏怖されるだけだった上忍の姿は、もうない。
「あいつ、頑張ってるねぇ。よかったじゃん」
オウガが微笑む。おれは笑うしかなかった。
雷が評価される。それは嬉しいはずなのに、喜べない自分がいる。
みんなが雷を求めたら、雷はそちらへと行ってしまう。おれから離れて。
離れたら、終わる。おれの夢が。
「鈴」
廊下の途中で、後ろから呼び止められた。自分で苦笑する。不安定な精神状態。気配を探ることも忘れたか。
「鈴って、無視するなよ〜」
ザクロが近づいてきた。肩に手を置かれる。途端に激しい嫌悪。無言で手を振り払った。
「りん〜」
「触るな」
苛立ちに睨み付ける。嫌だ。おまえになど、触れさせない。
「あのよう。こないだ言ってた結界んことだけどよ」
「それならもういい。どうせ大したことないに決ってる」
「なんだよっ。せっかく教えてやるってぇのに!」
掴み掛かろうとする手を叩き落とす。後ろに回り、首に針を当てた。
「教えるだと?嘘は大概にしろよ。今まで騙してヤりやがったのは、何処の誰だよ」
思い返して、明確な殺意を感じる。過去のみじめな日々。
「信じてくれよ。そりゃ、何度か嘘言ったけど。今度は本当だって!」
ザクロが情けない声で叫ぶ。煽られるように、気持ちが更に苛立った。針を突きたてたくなる衝動を必死で抑える。
「消えろ」
押し殺した声でやっと言った。これ以上奴がここにいたら、本当に殺してしまいそうだった。
「二度とおれに近づくな。いいな」
言いながら、突き飛ばす。ザクロが首をかばいながら転がった。あわてて起き上がり、泣きそうな顔をおれに向ける。
「・・・・鈴じゃねぇよ」
「なんだと」
見目の悪い顔が、くしゃりと歪んだ。殆ど泣き声でザクロが叫ぶ。
「おまえなんか、鈴じゃねぇ!今まで誰にも堕ちなかったくせに、何であいつなんだよ!あいつなんて、あと半年で帰っちまう奴じゃねぇか!」
考える前に身体が動いた。ザクロに近寄り、その腹を蹴り上げる。二回、三回。丸まる身体を蹴った。針を出そうとしたその時。
「やめろっ!」
羽交い締めにされる。オウガが後ろにいた。
「どうしたんだよ!おまえらしくねぇじゃん!」
身を捩り、オウガの手を離れる。一目散に駆け出した。
冷えてゆく。
頭が、感情が冷えてゆく。
半年。
そうだ、半年なのだ。雷がここにいるのは。
半年したらあいつは帰る。
おれの手の届かない場所へ。
全力で走る。
逃げるように、おれは部屋へと向かった。
ACT25へ続く
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