終わらない夢 〜暗部編〜 by真也
ACT21
息を求めて背中を叩く。びくともしなかった腕がやっと緩んだ。唇が離れる。濡れた音。
「どうすればいい?」
困り切ったように言った。
「なんでもする」
切なそうに訴える。
「お前に、触れたい」
囁く声音。そんな声、初めて聞いた。
いいよ。
おまえなら、いい。だけど。
信じてもらえなかったのは、哀しかったから。
おれはわざと意地悪を言う。
「試して」
緩やかに笑んで言った。
「おれを試して。気に入ったら、見せて欲しいものがあるんだ」
漆黒の目がわずかに見開かれる。少し考えて、薄めの唇が言った。
「写輪眼か」
「いいだろ?」
悪戯っぽく笑んで訊く。さあ、おまえはどうする?
「それならもう、決まっている」
雷が微かに微笑む。両目が閉じられ、紅い眼が現れた。
紅の中に焔が灯る。一つ、二つ、三つ。その向こうに、おれがいる。
「・・・・・奇麗だな」
吐息と共に言葉が漏れた。
「そうか」
「ああ。とても」
雷の目がゆっくりと細められる。口元が、更に奇麗に弧を描いた。
「敵わないさ」
「え?」
「お前には、敵わない」
唇が降りてくる。額に。頬に。瞼に。
そっと、羽根のように落とされる。
焦れて、自分から唇を繋いだ。
何もかも初めてだった。
誰かを求めるのも。応えてもらえるのも。それがひどく嬉しいということも。
流されてしまう。
身体が、心が、おまえを待ち続けていた。
隅々まで、雷が確かめてゆく。
もっと見て。どの部分も言ってるだろう?
欲しいと。
おまえを与えてくれと。
だから、早く。
「ら、雷っ」
堪え切れず、漏れた名前。呼ばずにはいられなかった。
恥ずかしい。ひどく不安になり、そっと見上げる。奇麗すぎる笑みが受け止めてくれた。
呼んでくれ。
黒い瞳がせがむ。
嬉しくて、首に手を回した。
行く先もわからず、やみくもに歩んでいた道が今、大きくおまえへと傾く。
持てる全てをおまえに差し出し、おれはこの身におまえを受けた。
時間だけが流れてゆく。これは夢だ。誰かが言った。信じることを恐れる自分が言ったのだ。
目の前に、おまえがいる。
閉じられた目。睫が長く伸びている。
結ばれた口。熱くて、荒々しい舌を隠している。
微かに揺れる胸。奥では休みなくおまえの生が刻まれている。
いつだったか、同じものを見た。そう。初めて一緒に任務についた時に。
おれを助け、命とも言える気を分け与えてくれた雷。見返りも得ようとせず、ただ、与えてくれたのだ。
嬉しくて、同時に寂しかった。何も返せないことが。
ふと思い出して、苦笑する。
初めて雷に触れた日。身体を使い、愚かにも自分の手中に収めようとしたあの日。
抵抗の消えた雷を見て、おれは思った。『落ちた』と。
そうだ。あの時すでに、落ちていたのだ。
おまえではなく、おれが。
「どうした」
声に目をやると、雷が目を開いていた。起こしてしまったらしい。
「なんでも。・・・・・夢じゃないかと思ってさ」
「夢じゃない」
身体を引き寄せられた。密着する肌。何かを呼び覚ましている。
「だがもう一度、確認してみてもいい」
囁く声。背を震わせる。
「いやか?」
眼差しと共に訊かれる。しばらくの見つめ合いの後、おれはとうとう降参した。
ACT22へ続く
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