失う。
 鈴を失ってしまう。
 怖いと思った。
 朱髪の男と戦って以来、初めて。








終わらない夢 〜暗部編〜 by真也








ACT20



「来るな!」
 鈴が針を構えている。あれは毒針。あいつの武器。
 風遁の術で吹き飛ばし、強引に部屋に入った。遮られたら終わりだ。鈴は二度と戻らない。
 俺が悪い。あいつを信じきれていなかった。
 ゆっくりと近づく。鈴の目が大きく見開かれた。
 徐々に距離を詰めてゆく。2メートル程になったとき、鈴が攻撃にでてきた。力一杯、その身体を掴まえる。
 逃れようとあいつがもがいた。両手の力を更に強める。離してはならない。
 鈴の右手が動く。後ろに回って、延髄を針が狙っていた。
「刺せ」
 本心から言った。
「俺のしたことは、それに値する」
 おまえを傷つけてしまった。
「お前なら、構わない」
 失ってしまうのなら、そのほうがいい。


 金属音と共に針が落ちる。


 鈴が俺を睨み付けている。
「きらいだ」
 空色の目の中、揺らめく焔。 
「おまえなんか、きらいだ」
 絞り出された言葉。あいつ自身を切り裂き、出たようなそれ。
「許さない」
 項を掴まれ、ぐいと引き下ろされた。


 時間が止まる。


 俺は今、何をしている。
 熱いものが滑り込んできた。
 何かを求めて、内部を暴れ回っている。


 これは、あいつ。


 いいのか。
 これに触れて、いいのか?
 答えを出す前に身体が動いた。




 止まらない。




 呼吸を忘れて貪りつづける。限界を感じた手が、俺の背中を叩いた。我に返って解放する。湿った音を立てて、唇が離れた。
 間近に鈴がいる。ここに。この手の中に。
 薄く開いた口。紅く色づいた唇。濡れた、瞳。
「どうすればいい?」
 堪え切れなくて訊いた。 
「なんでもする」
 それが叶うのならば。
「お前に、触れたい」
 もう、自分を偽るだけの余裕はなかった。



 鈴が俺を見ている。俺だけを。
 僅かな沈黙の後、悪戯っぽく口元が弧を描いた。言葉が落とされる。
「試して」
 囁き。ひっそりと甘く響く。
「おれを試して。気に入ったら、見せて欲しいものがあるんだ」
 聞いたことのある言葉。これは、あの時の。
「写輪眼か」
「いいだろ?」
 それは関門。お前の中に入る為の問いかけ。
「それならもう、決まっている」
 答えは出ている。俺は目を閉じ、写輪眼を開いた。
 容易いものだ。お前を得られるのならば、こんなもの。
「・・・・奇麗だな」
 吐息と共に、鈴が言う。
「そうか」
「ああ、とても」
 初めて聞いた言葉。この眼を恐れぬ者はいなかった。
 お前に良く似た、あの人以外。
「敵わないさ」
「え?」
「お前には、敵わない」
 俺は緩く笑んで、白い肌に口づけた。





 餓えていたものが充たされてゆく。
 誰からも与えられなかったもの。ナルトでさえ、くれることはなかった。
 くれるのか。
 お前が俺に、待ち続けていたものを。



「ん・・・・・あっ」
 お前の中に手を伸ばして、一つ一つ、集めてくる。
 隅々まで確かめて。ごく僅かなものでも取り残さないように。
 顔。声。汗。
 みんなこの眼に、耳に焼きつける。
 すがりつく手。染まる肌。絡めた足。
 みんな離さず、俺のものにする。
 わななき。喘ぎ。高まり。
 みんな求めて、掴み取る。


「ら、雷っ」
 解放の瞬間、 鈴の口から小さく漏れた。
 耳から鼓膜へ、頭の中へと染みわたってゆく。
 呼んでくれ。もっと。
 お前だけに呼んで欲しい。
 他には誰も、いらない。



 別々に違う場所で伸びていたものが今、一つの場所へと縒り合さってゆく。
 ずっと欲しかったものをお前からもらい、俺は俺のすべてを注ぎ込んだ。





ACT21へ続く

戻る