終わらない夢
 〜暗部編〜 by真也







ACT2



 その部屋には暗部に所属する全ての者が集まっていた。
 正面の上座には暗部の長である油女シノ。それと、奴がいた。
 長身。まっすぐ伸びた背。怒り肩。
 黒い目は睨み据えるように前を見つめていた。
「雷と言う。一年の期限つきだが、皆、宜しく頼む」
 シノが紹介する。奴は無言で会釈した。
「もつかねぇ」
 半分つぶれたような声が聞こえた。あれはイチジク。ザクロの兄で図体と馬鹿力だけが取り柄の奴。頭の程度は弟と同じ。甘いものが好物で、汗に蟻がたかるほどだ。
「そんなに細っこい腰でさあ。任務やるよりオレの相手してくれよ。鈴じゃなくても、オマエでいいや」
「ええーっ、アニキ!オレは鈴がいい!」
 ザクロが叫ぶ。おれは眉を顰めた。馬鹿。こっちは嫌だよ。
「ケッ、オマエはしつこいんだよ。いつまでも鈴、鈴ってよう!」
「アニキこそ、鈴に相手にもされないクセにー!」
 兄弟はわいわいと言い合いを始めた。皆、うんざりする。それはいつものことだった。
 気になって、おれは視線を移した。あいつ、あんなこと言われてんのに。
 奴はシノと二言三言話していた。シノが許可するようしぐさで首を縦に振る。それを見届けて、奴はつかつかとイチジクの前までやって来た。
「試してみるか」
 ぼそりと言う。感情の見えない口調で。
「なんだよ。今からオッケーってか」
「ああ」
「じゃ、いこうぜ!」
 肩を抱こうとした右腕が瞬時に取られる。瞬き一つ出来ないあいだに、巨漢が派手な音と共に床へと沈んだ。ぼきり。鈍い音がする。悲鳴とともに、イチジクが右腕を抱えて転がった。
「アニキ!」
 ザクロが血相を変えて駆け寄った。イチジクの腕はあらぬ方向にまがってしまっている。おそらく、中の骨は折れたというよりは砕けているだろう。奴はそれを無感動に見下ろしていた。
 背中を汗が流れた。息を呑む。早い。あの時、殆ど身体の動きが見えなかった。
「困るな」
 シノがやって来た。黒眼鏡のむこうの眉が顰められている。
「すまない。暗部だからと手加減しなかったが、こう簡単に折れるとは思わなかった」
「いや、そのことはいい。自分の言葉には責任を持つものだからな。それより、そいつには今日任務が入っている」
「そうか」
 淡々と言うシノに、奴はちっとも臆していない。何者だ。
「馬鹿だねぇ。『うちは』に手を出すからだよ」
 隣の仲間が呟いた。聞き慣れない単語が耳を掠める。『うちは』だと?
「おい、それって何だ?」
「えっ」
「『うちは』だよ」
オウガですvよろしく〜
 ヒソヒソと訊いてみる。
 そいつはオウガ(黄牙)と言って、おれと同時期にここに来た奴だった。バサバサの黒髪に金色の目。犬塚という一族で、いつも黄丸という犬と行動を共にしている。そいつは一瞬目を丸くした後、小声で話しだした。
「『うちは』ってのはね。木の葉の里でも有名な一族なのよ。あらゆる忍術を使いこなし、強大な能力を持ってるってね。それと、あれも」
「あれ?」
「写輪眼。紅い瞳らしいよ。見たものは生きて帰れないとか言われてる。『うちは』は今、二人しかいないらしい。ま、あいつは弟だな」
「二人だけなのか」
「ああ。ずっと前はたくさんいたらしいけど、ある時点から一人になったんだ。で、最後の生き残りには双子の子供がいたって話。一人は温厚でうけもいい。でも、もう一人は・・・・」
「どうしたんだ?」
「同胞に多大な被害を及ぼした。すごかったらしい」
 視線の先に奴がいた。表情一つ変えずに、暗部の長と話し続けている。
「俺が行こう」
 奴が言った。シノ片眉が上がる。
「まだ早い。お前は暗部の任務内容をよく知らない」
「ごたくを聞くより、身体で覚えたほうが早い。任務内容はなんだ」
「ある一族の暗殺だ。警備も厳重だぞ。誰かつけよう」
「いや、いい」
 ざわり。皆がざわめいた。不審の目が奴に向けられる。
「一人の方がやりやすい。下手に足手まといをつけられたら、任務遂行の妨げになる」
「何!」
 気の短い奴が叫んだ。険悪な空気が流れる。
「雷。郷に入ったのだから、郷に従ってくれないか」
 諭すようにシノが言った。
「お前の噂はここにも届いてきている。だが、ここは暗部だ。これまでお前がこなしてきた任務内容とは違う。だから、最初の何回か、慣れるまでは仲間と行動を共にしてくれ。ここは長としての俺の顔をたててくれないか?」
 シノの提案に奴は考えているようだった。しばらく沈黙が続いた後、『わかった』と返事が投げられた。



 解散の言葉に、皆が部屋へと帰ってゆく。結局、奴には数人の仲間がつけられることとなった。
 暗部での初任務。きっと、仲間に助けてもらうのがおちだ。何もできずに、項垂れて帰ってくるさ。ここは、安全な里とは違うのだから。

『うちは』が何だというんだ。写輪眼などと、ただの脅しに過ぎない。

 帰ってきたらせいぜい笑ってやろう。そんなことを思いながら、おれは自分の任務へと向かった。





ACT3へ続く

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