じわじわと身体が痺れてくる。
思ったより強力な呪縛、確実に全身が動かなくなりつつある。それと、身を劈く痛み。絶え間なく続いている。
こんな時、闇討ちされたらひとたまりもないな。苦笑する。
専門の解除者は明日の昼に着くといった。それまで、持ちこたえなければ。
『結界術を会得した者なら解除できるかもしれませんが、かなりの能力を要していないと。もし、器が足りなければ、術者の方が危ないですね』
暗部医療班の奴は言った。
鈴なら出来るかもしれない。でももし、この呪印を抑えられなかったら・・・・・。
だめだ。
俺は固く拳を握り、全身を襲う魔物と戦った。
終わらない夢 〜暗部編〜 by真也
ACT18
それは小さな油断だった。
風の代理で要人を雨の国まで護衛した任務の途中、予測通り雲忍の襲撃に合った。道案内役の中忍と要人を先に行かせて、雲忍達を迎え撃つ。どれも中忍クラスで、わけなく仕留められた。二手に分かれた奴らを追い、要人に襲いかかろうとしていた雲忍を倒す。その時。
止めを刺される瞬間、雲忍が印を組んだ。見たことのない印。断末魔を上げる奴の返り血を浴びてしまった。
特に外傷もなかったから、そのまま要人を雨の国まで送り届け、昨夜復命した。
異変が起こったのはそのすぐ後、奴の返り血は肌に染みつき、いくら身体を擦っても落ちることはなかった。その部分が黒く変色しだした時、全身を痺れが襲った。緩やかに、でも確実に強くなってゆく。身体は重くなり、ついに俺は暗部の医務室を訪れた。
「痛縛界印です」
医療班の男は言った。
「主に雲忍が使う術で、血印を介して術をかけられた者を呪縛します。主に捕虜の拷問に使われる呪印で、神経叢に直接作用して痺れと痛みを与えてゆきます。薬が効かないのと苦痛が増大するのが特徴で、最終的には悶死に至ると言われています」
「厄介な印だな。置き土産としては最適だ」
「現実はもっと厄介です。これは解除を想定した術ではなくて、解除者も少ないのが特徴です。結界術を会得した者なら解除できるかもしれませんが、かなりの能力を要していないと。もし、器が足りなければ、術者の方が危ないですね」
「そうか。で、俺はどうすればいい」
「緊急で解除者を呼びます。里ならもっと早く連絡がつくのですが、なにしろここは暗部ですから・・・。でも、明日の昼には着くかと思いますので、それまでこちらで管理します。徐々に動けなくなるので大丈夫だとは思うのですが、痛みで暴れられては困りますので、拘束室に入って頂きます。宜しいですか?」
男が淡々と告げる。首肯くしかなかった。これは俺のミス。害がなくても、里で一度診てもらうべきだったのだ。
滅多に行かない雲方面へ行ったのだ。未知の印に遭遇する確率は大いにある。全ては油断と慢心。自分の力を過信し過ぎていた。
「用事を思いだした。少しの間、ここを離れていいか?」
「今のうちに片づけておいてください。夜には動けなくなりますよ」
言いながら、男が慌ただしく連絡を取りだす。俺は黙って部屋をでた。鈴に会わなくては。今日の午後は確か、鈴と過ごすはず。
俺は鈴の部屋へと向かった。
「どうした?顔色悪いぜ」
偶然廊下ですれちがって第一声、鈴は言った。相変わらず勘がいい。気付かれないようにしなければ。
「ああ。任務明けだからな」
「寝てないのか。じゃ、今日は寝たほうがいいな」
「すまない」
「いや、丁度よかったよ。実はおれも任務が入っちゃって。ただ、シノの護衛するだけなんだどさ」
「そうか」
「夜には帰るよ。里に行くらしいんだ。土産、買ってくるな」
「やめとけ。暗部の面でうろうろするな。里人が怖がる」
「そっか。残念。じゃ、行ってくるわ」
鈴はそう言い、駆けて行った。後ろ姿を見送る。これで大丈夫。医療室に戻ろう。だいぶ苦しくなってきた。
深呼吸して、俺は再び歩きだした。
横たわった姿のまま、俺は天井を睨んでいた。窓に、ドアに鉄格子。寝台と洗面、簡易トイレが一つ。拘束室は地下牢となんら変わりなかった。対拷問訓練みたいだな。働かない頭で必死に考える。何かで気を反らしてないと、痛みと痺れで暴れだしそうだった。
こうしていると、思いだす。『うちは』の血が暴走して拘束された時のことを。自分自身を抑えられなかったのが悔しくて、ひたすら歯を食い縛って耐えた日々。
あの時も苦しかった。自分を責めて、追い詰めて。誰の助けも借りてはいけないと心に決めて。ただひたすら耐えつづけていた。
『諦めるな』
ナルトが言った。その言葉だけを胸に、歩いてきた。ナルトを失った痛みさえも乗り越えて。
諦めなければ、きっと会える。そう信じて来たのだ。
こんなことではいけない。自分の起こしたミスに囚われているようでは。
後悔しない。そのためにここに来たのだ。今まで自分を磨いてきたのだ。
しっかりしなければ。
そう自分に叱咤していたとき、出口が騒がしくなった。誰かが医療班と揉めている。扉が蹴破られた。
「雷!」
鈴が立っていた。つかつかとこちらにやってくる。
「何してんだよ!どうしてこんなとこにいるんだ!」
「俺に・・・・・近づ・・・・くな」
「何言ってんだ!」
怒鳴りながら、俺の腕を取る。目を見張った。
「痛縛界・・・・印」
「そうだ。だから・・・・触る、な。早く、外へ・・・・行け」
鈴が口を結んだ。碧い目が睨み付ける。
「なんでだよ」
低く、押し殺した声で言う。拳がギュッと握られた。
「鈴」
「なんで言わなかった!昼に会った時言ってたら、こんなに悪くならなかったはずだ!」
ギリ。噛み締めた奥歯が鳴る。青白い焔が瞳で燃えた。
「おれはっ、そんなに信用ないのか!」
「違う」
「うるさい!」
言葉と共に頬に衝撃。力一杯殴られた。鈴が指を噛みきる。額に血印を書かれた。
「何を・・・・している」
「解除する」
「やめ・・ろ」
「黙ってろ!」
怒鳴りながら印を組む。口呪を唱えはじめた。気が渦巻く。右手が青白く発光しだした。
「思いっきりいくからな。覚悟しろよ!」
気合いとともに、右手が腹に拳がめり込んだ。鈴の気が全身を駆け巡り、大きく弾けた。キンッと金属音。一瞬、目の前が白くなって、再び世界に色が戻ってきた。
鈴が見下ろしている。消耗を隠せない顔。
ゆっくりと手を動かした。何の抵抗もなく動く。痛みも、ない。
「解けたみたいだな」
俺の様子を見て鈴が言った。そのまま踵を返して、部屋を出てゆく。
「鈴!」
呼んだが鈴は足を止めない。振り返らない。慌てて俺は起き上がった。
「うちは上忍!まだ起き上がってはいけません!きちんと印が解除できたのか、検査しませんと。待ってください!」
医療班の男が叫んでいる。でも、聞いている暇はなかった。ふらつく足で鈴を追う。走りはじめた。
追わなくては。
今、追わなくては、鈴を失う。
上手く動かない手足に苛つきながら、俺は鈴を追いかけた。
ACT19へ続く
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