終わらない夢 〜暗部編〜 by真也
ACT17
殺気を放ち、燻り出す。飛びたったところでクナイを投げた。一際甲高い声が上がる。落ちてきた所を捕らえて、首を折った。掴まえた山鳥を目の高さまで上げてみる。
「痩せてるな」
小さく舌打ちした。まあいい。二人分だから、なんとか足りるだろう。
鈴は焼いた鳥が好きだった。三ヶ月前、最初の任務で組んだとき、初めて温かいものを食べたという。固くて岩みたいな団子状のものを、平気で食べていた鈴。それまでの奴の暮らしが、それだけで容易に想像できた。
「美味いよ。本当。温かいものっていいよな」
焼いて塩を振っただけの焼き鳥を、鈴は美味そうに食べる。まるであの人のように。大した料理もできない自分を、これ程はがゆいと思ったことはなかった。
ここのところ、単調な日々が続いている。二人で任務にでて、鈴が術を試し、俺がそれを評価する。任務のない日は俺がチャクラのコントロールを鈴に教え、鈴が俺に結界術を教える。
鈴は飲み込みが早い。一回やって見せただけで、その八割をこなしてみせる。まさに、写輪眼顔負けの洞察力と記憶力だった。
「術を見せてもらうのも閨と交換条件だったんだ。嫌なことは、必要最低限にしたいからね。もともと覚えるのは早かったけど、自然と更に早くなった」
肩を竦め、苦笑しながらそう言った。
細い身体。初めて部屋に来た時のあいつ。潤んだ瞳。妖しいまでに艶っぽい表情。甘ったるい囁き。何もかも必要だったのだ。ここで生き残る為に。
ふと思いだしてしまう。鈴の唇の感覚を。
あの、気を底まで使いはたした時。冷たかったけど、柔らかかった。もしあんな状態ではなく、それこそ事の最中に唇をつないだとしたら、どんな感じがしたのだろう。
触れたい。
ぽつりと頭に落ちてくる。心を揺り動かせる衝動。慌てて頭を振った。鈴は今を楽しんでいる。任務と学ぶことの繰り返しの日々を。
俺も満足している。実際、任務における息もぴったりで、相棒として鈴は申し分なかった。
よそう。今を壊してまで手に入れるものじゃない。鈴だってそれを望んでいるとは考えられない。
自分に言い聞かせた。
そう。鈴は俺からチャクラのコントロールを学ぶ。俺は結界術を鈴に習う。それでいい。お互い満足している取り引きだ。
「雷はこれだけ気とチャクラがあるのに、どうして結界術を習わなかったんだ?」
首をかしげて鈴が訊く。見様見真似だという他の術に比べて、鈴の結界術は本物だった。誰に習ったのだろう。基礎からかなり高度な術まで、様々な種類の結界術を使いこなしている。
結界術。今までそれを自分のものにしようと思わなかった。俺がこの術を習うべきは、ナルトしかいないと思いこんでいたから。もしくは、奴。
紅い髪を靡かせて、俺を完膚なきまでに叩きのめした奴。
セキヤ。
今は二人ともいない。だから敢えて機会を作らなかった。
「すこし、いいか」
目の前に気配。ほんの虫が出しているほどのもの。暗部の長、シノだった。
「何の用だ」
「言っておきたいことがある。鈴のことだ」
「鈴の?」
「そうだ」
木々の中からゆらりと細身の姿が現われる。ゆったりした衣服で被われた姿。その身体の中には契約を交わした数え切れない蟲たちが棲んでいるという。
「聞こう」
俺の答えに、シノはゆっくりと口を開いた。
「お前、鈴をどう思う」
「どうとは?」
意味がわからず、聞き返した。黒眼鏡の奥の目がじっとこちらを見ている。
「言葉どおりの意味だ。お前が思うことを言えばいい」
「自分の力をよく知っている。弱点もだ。それを上手くカバーした戦い方を心得ている。飲み込みも早くて、教え甲斐があるな。任務の相棒として申し分ない。どうして閨の任務ばかりだったのか不思議な位だ」
「そうか」
「ああ」
取り敢えず素直な評価を述べたが、どうしてそんなことを言うのかわからなかった。
「では、お前は鈴を少なからず信頼しているというわけだな」
「他の奴よりはアテになる。それがどうした?」
「お前も気付いているかもしれないが、鈴は忍としての基礎教育を受けていない。もちろん木の葉の里でなく、ある場所で育成されていた。俺が初めて鈴にあった時、彼は基礎的な体術と結界術しか習得していなかった。体力も下忍以下の状態だ」
俺は目を見張る。うすうす感じてはいたが。そんな状態で暗部に来たのか。
「俺はさる方に鈴を頼まれた。鈴を暗部で生き残れるようにしてくれと。生き残る。それが最終的な目標であって、それ以外の危険は自分で対処させた。閨もその中に入っている」
「どうしてあんなことをさせた。お前が皆に言えば、それでよかったはずだ」
「いくら暗部の長でも、四六四中、彼を守りきれるわけがない。常に守られているものが生き残れる程、ここは甘くない。それに、閨での暗殺は比較的生存率が高い任務だ。潜入フォローと護衛を兼ねた人間も着くからな」
シノが淡々と告げる。俺は奥歯を噛み締めた。戦ってきたのだ。あいつも一人で。
「生き残る。それが鈴自身の目的でもあった。だから、彼は自らその任務を選んでいた。そして、鈴は今の位置まで自分の力だけでのし上がった来た。何者にも屈せずに」
出会った頃を思いだす。どんなに痛めつけられても睨み返してきた碧い目。泣き言も、命乞いもせずに引き結ばれていた口元。
「だから、お前が鈴を痛めつけた後、二人で任務へとでた時。俺は正直、奴は帰らないと思った」
「言ってくれるな」
「鈴はなまじでは折れない。だからこそ生き抜いてこれたのだと思う。力づくでは、死んでもお前に従わないと思っていた。でも今、鈴はお前に心を許している。できれば、あいつを裏切らないでやってくれ。たぶん、お前は鈴が初めて信じた人間だろう。奴の生まれた所以外では」
「あいつは何処で生まれた」
「言えない。里でも最高の機密だ。いくらお前が上忍でも、それを言うわけにはいかない。それに」
「それに?」
「今はまだ、その時期ではない」
奴の言葉に、俺は顔を顰めた。感情の見えない黒眼鏡が返す。シノにはそれ以上、言う気はないようだった。
「話は終った。俺はもう行く」
「ああ」
「それと、お前宛に護衛任務が来ている。要人を雨方面に送るらしい。雲に狙われている者だそうだ」
「雲?風の管轄なのにか」
「どうも今、彼は森の国から動けないらしい。おかげで、木の葉の里はごった返している」
「なるほど。それで俺に回ってきたんだな」
「受けるのか?」
「仕方ない。風の代わりだろう?出来る奴は知れているからな」
「では、そう返事しておく。明日の朝、打ち合わせに来てくれ」
言い捨て、音もなくシノが消えた。雲方面は数える程しか行ったことがないのだが。そうも言ってられない。
迷惑掛け通しの兄。ここらで恩返ししておくのも、悪くないだろう。
そう考えて、おれは歩きだした。
鈴の待つ木陰へと。
ACT18へ続く
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