チャクラと気を全部使いきって倒れてゆく時。
ぼんやりとした視界の中、紅い炎を見たような気がした。
終わらない夢 〜暗部編〜 by真也
ACT15
熱いものが流れてくる。
唇を通して、何度も何度も。
その都度、身体の中が温かくなっていくのがわかる。
温かいもの。
雷がくれた鳥の足。とても美味しかった。また、食べたい。
雷となら、食べることが出来るのだろうか。
鳥の声がしている。
目を閉じたまま、辺りの気配を伺う。
古い木と雨。薪だろうか、焦げた匂い。火を熾したらしい。
自分の鼓動。規則正しいことにホッとする。呼吸音も大丈夫。もう一つ聞こえた。深く、ゆっくり続いている。まるで眠っている時みたいな。
誰が?
がばりと身体を起こした。まわりを見渡す。古くて狭い小屋の中。窓の外には木々の緑。葉の上の水滴がきらきらと光る。
おれは目を見張った。
朝の光の中で、雷が眠っている。
壁に上体をもたせかけ、腕を組みながら。静かな寝息。いつもの張り詰めた気は漂っていない。
黒く強い髪。すっきりと通った鼻筋。きりりと結ばれた唇。
おれはそっと腰を上げた。息を殺し、足音をたてずに近寄ってゆく。雷は起きなかった。
おれは首を傾げる。どうしたの?お前らしくないよ。この任務中、ほんの僅かな気配でも気付いてたじゃないか。
疲れているのかな。漠然と思った。
怪我をしているのだろうか。そこまで考えて思いだした。確かおれは、砂忍との戦いで傷を負い、チャクラを使い果たしたはずなのだ。
「起きたのか」
動揺する頭に声が掛かった。驚いて目をやる。雷が目を開けていた。
「起きたって、お前が寝てたんだろ」
「そうだな。少し仮眠をとっていた」
「ここ、何処だ?」
「木の葉の国。国境から少し離れた所だ」
腕を解き、雷は立ち上がった。一度伸びをした後しゃがみこみ、装備を確認しだした。
「お前が運んだのか」
「ああ」
「どうして助けた」
クナイの数を数えながら、雷がこちらを向いた。怪訝そうな顔をしている。
「変な奴だな。助けられて怒るとは」
黒い瞳がこちらを見据えている。まっすぐな視線。どきりとした。
「お前の陽動は見事だった。火遁も、戦い方も無駄がない。役目を十二分に果たしていた」
雷が再び立ち上がった。こちらに近づいてくる。
「それに、あの攻撃結界。すごいと思った」
間近にきた顔。視線はそのまま動いていない。
「それでは、理由にならないか?」
口の端を僅かに上げ、困ったように雷が笑った。
目を奪われる。
シギの笑顔は、温かいと思った。
ナギの笑顔は、優しいと思った。
雷の笑顔は、奇麗だ。
「意識が戻ってよかった」
笑んだまま、雷が言う。なぜだろう。血の巡る音がヤケにうるさい。
「おれ・・・・・かなりやばかったのか?」
「ああ。気が底をついていた。だから、俺の気を使った」
「えっ」
一瞬、思考が止まる。あいつは今、何といった?自分の気を分けただと?
「なんでそんなことするんだよ!」
「別に。したいからそうした」
「馬鹿野郎!」
思わず叫んでいた。雷が見ている。目の前15センチ程の奴の瞳が、泣きそうな顔のおれを映している。
わからない。ひどく混乱している。
「ごめん」
何とか心を静めて、素直に謝った。でも、どうしよう。おれには返すものがない。返せるとしたら、たった一つ・・・・。
「雷」
「何だ」
「助けてくれてありがとう。もしおまえさえよければ、おれを・・・・」
「必要ない」
力強く断言される。そうだよな。おれはおまえを試した。閨に誘い込み、命を狙ったのだ。求められるはずがない。おれは唇を噛み、下を向いた。
「お前はものではない。だから、他人がお前を自由する権利などない」
あいつの目が閉じられる。軽く俯き、言葉を継いた。
「酷いことをして、すまなかった」
言葉が出ない。どう言ったらいいのか分からない。しばらく黙り込む。心を決め、思い切って口を開いた。
「よく聞けよ。おれはおまえを殺そうとした。だから、あれくらい当然だ」
「鈴」
「おれはおまえに命を助けてもらった。もうそれで、貸し借りなしだ」
言い捨て、おれは後ろを向いた。そうだ。謝られる筋合いなんてない。自業自得だ。
沈黙が流れる。少しして、雷が「わかった」といった。
「もう一ついいか?」
「何だよ」
「取り引きをしたい。俺はお前にチャクラの引き出し方とコントロールを教える。お前は俺に結界術を教えてくれ」
驚いて振り向いた。教えてくれる、だって?
「いいのか?」
「それはこちらが言いたい。どうだ?」
「ああ、もちろん!ちゃんと教えてくれよな!」
「当然だ。おまえこそな」
雷が微かに微笑む。いや、微笑んでいるのがわかる。おれも嬉しくて笑った。
「支度をしろ。明日の夜には、暗部につくぞ」
雷が告げる。おれはこくりと首肯いた。
さあ、帰ろう。任務は終ったのだ。
ACT16へ続く
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