終わらない夢 〜暗部編〜 by真也
ACT14
思った通り、木の葉に入ったところで雷雨が来た。
降り注ぐ雨と雷の中をひた走る。早くどこか、雨露の凌げる場所に行かなくては。
肩に担いだ身体は意識を取り戻さず、チャクラも気も殆ど感じ取れない。おまけに、この雨でひどく体温を奪われてしまっている。
まずいな。
己の短慮に舌打ちする。あの結界術は使わせるべきではなかった。おそらくあれで、チャクラも気も全部使い果たしてしまったのだ。
今まで数々の戦闘任務につき、様々な術を見てきた。しかし、あんなに強力な攻撃結界は初めてだった。恐ろしく高度な術。
一足蹴るごとにたわむ身体。最初に担いだ時もそう思ったが、やはり同年代の男にしては細くて軽い。この身体であれだけの術をこなしたのだ。そうとう負担が掛かっているはず。このままでは、こいつ自体が危ない。
濡れた装備と忍服はさらに重くなり、ぬかるんだ大地は疲れた足に纏わりつく。
奥歯を噛み締めながら、俺は森を駆け抜けた。
一刻後。
国境から半刻ほど走った所で、俺は小さな山小屋を見つけた。誰も使っていない。鍵を開け、中に転がり込んだ。
粗末な敷物の上に鈴を降ろし、装備と濡れた服を脱がせる。全身の傷を確認して。幸いどの傷も止血していた。
一番大きな左大腿の傷を確認する。真空で切れたものでよかった。化膿してなくてほっとする。一応、傷の手当てをした。
冷え切った身体を小屋にあった毛布で包み、いろりに火遁で火をおこす。部屋を温め、自分も濡れた装備を置いた。
鈴は意識を失ったままだ。かろうじて呼吸はしているが、浅くて不規則。火のおかげでかなり部屋が温まってきたのに、鈴の体温は戻らない。
「おい」
声を掛けてみる。
「鈴」
揺さぶってみたが、ぴくりとも動かなかった。
何故だかひどく不安になる。
紫色の唇。蒼白な頬。濡れた金髪は顔に貼りついていた。そっと髪を掻き上げる。
開かない瞼。あの空色の瞳は隠されてしまっている。
同じだ。
まだ新しい記憶が頭を巡る。そう、あの時と同じだ。
森の中で倒れているナルトを見つけた時と。
俺は拳を握り締めた。
彼が当時、何かの病いに侵されているとは知っていた。だからこそ、見つけた時は息が止まった。
もう、死んでしまったのではないかと思って。
外傷がないことを確認して、気が底をついていると気付いた瞬間、腕をクナイで裂いていた。ナルトの額に血印を書き、ありったけの気を注ぎ込んだ。
この胸の感じ。あの時と同じだ。
『雷、よく見ているんだ。この印を組み、口呪を相手の身体の一部を介して入れるがいい。一番確実なのは口だ。それで、血を使わず気を送れる』
あの時、ナルトが教えてくれた術。
こいつも気が不足している。あれなら、救えるかもしれない。
俺は手印を組み、鈴の身体を抱き起こした。口呪を低く唱え、唇を重ねる。
冷たい。でも、柔らかい唇。
舌で歯列を割り、喉の奥に口呪を送り込む。ごくり。反射的に鈴がそれを飲み込んだ。
唇を離して、鈴を見る。
意識は戻らない。身体も冷たいままだ。
まだ気が足りないのか。
決意し、再度口呪を唱えた。唇を押し当て、気を送り込む。舌が鈴の舌に触れた。驚いて顔を離す。鼓動が跳ねた。
『こんな時に何をやっている』
自分を叱咤して頭を振った。再度鈴を覗きこむ。
小さな顔。薄く開いた口。微かに覗く舌。
胸を、頭を、訳のわからない感情が駆け巡る。
触れたい。
頭の中で誰かが言った。もう一度、触れたいと。
「馬鹿な」
今度は声に出した。何を考えている。そんなことに囚われているヒマはない。今は鈴を助けるのが先決だ。
気が足りないなら、何度でも与えればいい。
そう考え、俺は鈴に気を注ぎ続けた。
何度目かの口づけの後、鈴の身体が温かくなってきた。頬の色も戻りつつある。もう、大丈夫。
安堵にがくりと肩の力が抜けた。鈴の身体を横たえさせ、隣に座り込む。大きく息を吐き出した。
本当、馬鹿みたいだな。
らしくない動揺を思いだし、自嘲を漏らした。風が見たら、きっと苦笑するだろう。いつも大口叩いているくせに、仲間一人を失いそうになって慌てるなんて。
「仲間・・・か」
規則正しくなってきた呼吸音を聞きながら、俺は一人、呟いた。
辺りが明るくなってこようとしている。窓の外、あれは多分、朝の光。
いつのまにか、雨は上がっていた。
ACT15へ続く
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