終わらない夢
 〜暗部編〜 by真也








ACT12



 夜に紛れて城下に潜入する。
 目標の男の屋敷は、王城の南の端に位置していた。
「警備、結構薄いな」
 隣の狐面が囁く。面の横からはみ出す、金色の艶やかな髪。
「外側はな」
 短く応えた。油断は出来ない。相手は自国を裏切っているのだから。警戒して当然だ。
「いつ行くんだ?」
「城の灯が落ちたら」
 言いながら上を向く。城壁沿いの木の上。枝ごしに空が見えている。
「雨になりそうだ」
 西の空が赤い。暗赤色の天空に集まってくる黒い雲。ゆっくりとこちらに向かってくる。もうすぐ雨が、それも雷雨がやってきそうだ。
「・・・・訊いていいか?」
 躊躇いがちに訊かれた。普段と違う声音に首を縦に振る。
「さっきの奴、友達か?」
「ナツヒのことか。奴なら、悪友と言うところだな」
「里で一緒だったのか」
「ああ。一つ年上だ。同じアカデミーで学び、任務も一緒に組んでいた」
 事実を答える。変だな。里でのことなど、訊かれたくないことなのに。こいつの言葉には応えてしまう。
「友達、いっぱいいたんだな」
 狐面の向こうに見える、青い瞳。
「そんなことない。友人と言えるのはあいつだけだ」
「でも、あいつは風っていったぞ。誰かの名前だろ?」
「確かにそうだが、風は友人じゃない。俺の双子の兄だ」
 詳しく説明すると、鈴が小さく「そうなんだ」と言った。寂しそうに聞こえて聞き返してみる。
「お前にもいただろう?兄弟とか、友達とか」
「・・・・・ないよ」
 消え入りそうな声。
「育ててくれた人はいるけど、一人は死んだし、もう一人には会えない」
「・・・・すまない」
 素直に言った。反省する。訊くべきではなかった。暗部であんなことをしていたのだ。食べることにも興味がなかった。温かい家族。それを知っててそうなるはずがない。
 今さらながらに自覚する。俺は愛されて育ったと。
 確かに両親はいない。俺達のもとになったやつは、俺達が生まれる前に死んでいた。しかし。
 リーおじさんやサクラおばさん。それにアン。
 なによりあの人がいた。
 ナルト。
 彼は全てを俺たちに注いでくれるわけではなかった。でも。
 温かい手。穏やかな笑顔。心に染みてゆく言葉。優しく包んでくれるような情を与えてくれた。
 そして。
 戦うことの非常さと。大切なものを守ることの難しさ。生きることの厳しさ。自惚れることの愚かさ。
 それらを身を持って教えてくれた人もいた。
 セキヤ。
 彼らに守られて俺たちは育った。でも、こいつは違う。
「いいんだ」
 鈴が言った。面の下の顔は見えないが、しっかりした口調で。
「一人でもおれは生きてゆく。どんなことをしても生きぬくんだ」
 ひたむきな言葉。過去の日の俺と同じ。それでも、俺はお前を試す。
 自分が見つけ出したものが、見立て通りだったかどうか。
「作戦を言う。よく聞けよ」
 鈴が首肯く。細かい段取りを話している間に、その城の灯が消えた。
 俺たちはそれぞれに潜入を始めた。





 闇に乗じて建物の外壁をゆく。チャクラで吸引した足はいとも簡単にそれを成し遂げた。
 塔の天辺にある窓から身体を中に滑り込ませ、俺は内部を伺った。
 高氏は忍の一族ではない。その分、こちらに利があったと言える。ただし。
 標的の男が砂忍を飼っていなければ・・・だ。
 爆発音が響いた。始めたな。塔の北側、中ほどあたりで火の手が上がっている。塔全体がざわめきだした。
 俺が本命、あいつが囮の陽動作戦。
 さて、俺の仕事を片づけなければ。
 出来るだけ早くそれを終え、鈴の力を見極めなければならない。
 暗殺用の細い小柄を手に持ち、俺はその部屋へと侵入した。
 第二弾、三弾と爆発音が響く。駆けつける衛兵達の足音。戦く女達の悲鳴。火遁の威力は、悪くない。
 見よう見まねと言っていたが。
 「行け!」
 その男は家来に指示を出した直後だった。駆けてゆく男たちを確認して、俺は背後に飛びおりた。
 着地と共に延髄から突き刺す。声を出す間も与えない。小柄は刺したまま、音を立てずにそっと骸を下に落とした。
 その場を後にし、全力で階下に降りてゆく。遥か下方で四度目の爆発音。窓の外を見やる。金髪の頭がひらりと飛び降りた。
 外壁に着地し、北へと走ってゆく。追っての衛兵がワラワラとその後に続いた。
 いい頃合いだ。あとは、砂忍が出て来なければ楽勝だな。
 俺も窓の外に飛びだし、外壁を走って塔を降りた。印を組み、突風を起こしてそれに乗る。屋根から外壁、また屋根と渡って先回りをした。
 鈴の戦いはそつがなかった。体力的にも無駄を踏む余裕がないのだろう。風遁で突風を起こし、羽根のついた毒針を数百本風に乗せる。風に乗る毒針は散弾のように後ろにいるものを無差別に襲う。風向きによっては自分に刺さる可能性もあるだろうに。風の強さとコントロールも難しいだろう。まさに、毒物耐性のある奴でないと出来ない戦法。
 毒使いとはよく言ったものだな。俺はしみじみと感心した。
 鈴の前方に黒い影が現われた。あれは、砂忍。やはり飼われていたか。
 鈴は肩で息をしていた。無理もない。あれだけの規模の火遁をこなし、高度な風遁の術もこなしたのだ。チャクラの消費量はかなりのものだろう。中忍か、上忍直前クラスだろうか。
 あれだけの戦闘能力を保持していながら、閨専門の任務についていたのか。
 惜しいな。
 正直に思った。きちんとした指導を受ければ、鈴はまだ伸びる。
 砂忍が攻撃を始めた。鈴の毒は効かない。奴らも毒物耐性を有するのだ。風が起こされ、真空が放たれた。空気の刃が鈴の手足を切り裂く。暗部服が裂け、赤い血が流れ出た。
 鈴が印を組む。火遁業火の術。駄目だ。火力が弱い。砂忍には効いていない。砂忍が真空の第二陣を放った。
「うわあっ!」
 鈴が膝をつく。左の腿が大きく切れた。そろそろ、限界か。俺は印を組む。写輪眼を開いた。
 右手に放電が始まる。「千鳥」で一気にカタをつけようと大きく飛び上がった時。鈴の印が見えた。
 あれは、結界印。それも強力な攻撃結界。
 瞬時に着地の方向を変えた。結界に触れた砂忍が弾き飛ばされる。凄まじい熱量の結界。砂の上に落ちた骸は人型に焼けこげていた。

 結界術。それもかなり高度な術を、あいつは使える。
 徐々に結界が消える。くしゃり。鈴がその場に崩れ落ちた。
 チャクラを使い果たしたな。
 気絶した身体を抱き上げ、木の葉との国境に走る。
 合格だ。いや、こいつの力は予想以上だった。
 細い身体をしっかりと抱きながら、俺は安全な場所へと急いだ。





ACT13へ続く

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