終わらない夢
 〜暗部編〜 by真也








ACT11



「何処行くんだよ!」
 そう言った時には、遥か遠くにその背中が見えた。疾い。おれなど比較にもならない。
 これが『うちは』と言うやつなんだろうか。芥子粒程になるその姿を見ながらおれは思った。
 雷と初めて組む任務。行く先は砂の国だった。おれにとっては、未知の場所。木々を渡って西へと進む。森の色が違っていた。雲側などの深い色の針葉樹ではなく、明るい色の広葉樹が多い。徐々に背丈が小さくなってくるから、そのうち砂だけになるのだろう。
 気配を感じた。奴が戻ってきたようだ。
「・・・・なんだよ」
 おれはその姿を見て、ただ呆れた。急に何処へ行くかと思えば、山鳥を一羽掴まえている。食事なら携帯食があるだろうに。
『不味くないのか』
 おれの高カロリー簡易栄養食品を一口かじり、雷は眉を顰めていった。失礼な奴だな。せっかくナギが作ってくれたのに。 
「不味いもなにも、最低限の量で充分な栄養が取れれば、それでいいだろう?他に何を求めるんだ?」
 おれの答えに奴は不機嫌そうな顔を作り、食事をしないように言いつけ飛び出していった。で、帰ってきたらこの有様だ。
 変な奴。
 何を考えているのか、やっぱり少しもわからない。
 別にわかりたいとも思わないけど。
 そうこう考えているうちに、雷は鳥を火遁で焼いた。無駄なことを。よっぽどチャクラが余っているんだな。おれには羨ましい位だけど。
『食え。毒など入ってない』
 焼いた鳥の足を差し出し、奴はおれに言った。一口かじって再度差し出す。毒見のつもりか。
 馬鹿にしているのか。毒なんて入っていても効かない。おれは毒使いなんだぞ。半ばヤケになって、おれはその足に噛りついた。

 熱い。でも、美味い。
 歯をたてると溢れてくる肉汁。鼻をくすぐるいい匂い。程よい塩の味。何より温かくて、柔らかい。
 これが肉の味なのか。
 少なからず驚く。暗部でも研究所でも、こんなに美味いもの食べたことがなかったから。時を忘れて、おれはその肉に噛りついた。
「肉って、こんなに美味かったんだな」
 ひとしきり食べた後、おれはぽつりと思ったことを言った。黒い目がこちらを見ている。温かいからだと説明がなされた。初めて見る、警戒のない顔。僅かに笑ってさえ見えた。
 知らなかった。興味もなかった食事という行為。温かいものを食べるだけで、こんなに気持ちが和らぐものなのか。 
『ならば、敵に気付かれる心配がなければ、こうすればいい』
 隣で言葉が紡がれる。穏やかな、敵意のない声。素直にそうしようと思えた。
 温かい食べ物、それだけじゃない。同じものを誰かと味わう。一人っきりで食べていないからだ。
 ふと思いつき、慌ててその考えを打ち消す。こいつと食べてるから、美味しいだって?馬鹿な。
 こいつはおれをあれだけ痛めつけたんだぞ。おれが命を狙ったとはいえ。
 でも、何故命も奪わないし、見返りも求めないのだろう。
 胸に落ちた疑問の礫。おれはそれを振り切るように、小さく頭を振った。





 まる一昼夜走り続けて、龍尾の砦とやらの近くまで来た。奴が立ち止まる。印を組み、何やら遠話で話しているようだった。
「今からここで砦の忍と連絡を取る。面は外すなよ」
 犬面のまま、雷はおれに言葉を投げた。
「おれたちは暗部だろう?外部と連絡を取ってもいいのか?」
「木の葉の国境には結界がはっている。定められた門以外を通る場合は結界の隙間を作ってもらわなければならない。残念ながら、俺はそれができないのでな」
 つまり、雷は結界術が出来ないということか。
「もうすぐ来る。奴は俺の知り合いだから、比較的安心できる」
 変な言い方だな。まるで、里にいた時のこいつは敵だらけだったみたいだ。
 一陣の旋風と共に、黒髪の少年が目の前にいた。おれと同じ位だろうか。いや、一つ二つ年上か。
 白い目。短く刈った髪。皮肉気な口元。
「よう、雷。久し振りだな」
「ナツヒ。元気そうだな」
「暗部に行ったとは聞いてたけど。その面、外したら駄目なのか」
 肩をすくめて、少年が言う。
「ああ。規則ではそうなっている」
 言いながら、雷はあっさりと面を外した。
「雷!規約違反だぞ!」
「ナツヒはバラしたりしない。それ程任務に忠実ではないからな」
「ケッ、言ってくれるな」
 苦笑しながら、ナツヒと呼ばれた少年はおれの方を見つめた。
「こっちは?」
「俺の相棒と言う所だな。今回の任務で一緒に組んでいる」
「へえ。そりゃ、すごいな」
 色の殆どついていない白眼が、大きく見開かれる。いかにも楽しそうな顔になった。
「アンタ、こいつと組むなんて無謀だよ。なんせこいつは、孤独が大好きだからな」
「おい」
 むくれた様に雷が言う。初めて見た感情の見える顔。おれと同じくらいの年に見える。
「はいはい、わかったよ。冗談はこれくらいにして、オレが結界に隙間を入れればいいんだな」
「そうだ」
「結界術、お前も覚えろよ。親父ならたぶん教えてくれるぞ。風よりもお前を気にしている。お前のほうが彼に似ているからって・・・・」
「ナツヒ」
「わかってる。もう言わない。さて、オレはオレの仕事をするか」
「頼む」
 ナツヒという奴が印を組みはじめる。見たことのある印。そうだ、これはいつか鳴が教えてくれた。
 青白い結界壁に、僅かな隙間が生まれる。
「空いたぞ。帰りはちゃんと門から行けよ。一つ貸しだからな」
「ああ。またな」
 そう言って雷は走りだした。おれも急いで後を追う。しばらくして。
 木の葉の国の国境を越え、おれ達は高氏の自治領にたどり着いた。





ACT12へ続く

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