翼翼 by真也
ACT2
一週間という時間を費やして、おれ達はその国境にある城にたどり着いた。痩せた土地。不安定な天候。貯えは思ったよりも少ないと予測できた。こんな城を落として意味があるのだろう。そう思ったが悲しいかなおれ達は忍。任務を実行するしかない。
天候にも悩まされた。ここにきて最初の日に雨に降られ、今は地面が乾いていくのを待っている状態だ。建物や地面が濡れていては火遁も有効に効かない。どのみち人間は自然には勝てないのだ。
今日で四日目。サスケはここにきてから何回目かの作戦会議に行ってしまった。
おれは身をもて余して陣地内をうろついた。
ここ数日の待機状態で、皆、苛立ちつつある。そろそろ何か行動を起こさないと兵の士気に関わるだろう。明晩あたりに作戦結構だろうか。
手なぐさみにサスケに教えてもらった補助印の練習をする。手が滑らかに印を組み上げる。もう、大丈夫だ。
「いい加減覚えろ。ウスラトンカチ!」
思わず出てしまったあいつの口癖。懐かしかった。自然に頬が緩む。
「調子は良さそうですね」
リーだった。
「ああ、大丈夫だよ。最近ちょっとずつ食べてるし」
「それはよかった。・・・・何かあったら相談して下さいね、サクラさんも心配してましたから。」
「うん、ありがと」
「今度、都合のいい日に、弁当持っていきますね・・・この間、渡せなかったし」
「えっ、いつ来たの?」
「いえ、ちょっと。・・・・・前まできたので」
「そうだったのか」
「何をしている」
会話を黒い影が割って入った。気配を全く感じなかった為、ぎくりとする。
サスケだった。
「さっきから呼んでいる。早く来い」
ぐいと手首が掴まれた。そのまま引っ張られる。
「あっ、ちょっと!おれ今話し中だろっ」
「サスケさん、乱暴はやめて下さい」
「・・・・・・」
ぎろりと睨んだ。ここ最近見たことのなかった凶悪な目つき。
「サスケっ、やめろよ。リー、もう行ってくれ」
「すいません、では」
リーは少し戸惑ったようだが、自分の持ち場へ離れていった。
おれはほっとした気持ちでそれを見送った。そして振り返る。
「・・・・・来い」
サスケが睨みつけていた。
「わかったよ」
諦めて、おれはあいつの後にしたがった。
逆らってしまった。かなり怒っているのだろうか。覚悟する。制裁をくらうのは必須だ。
そしてまた・・・・するのだろうか。
明日作戦が決行だったら、身体がしんどいだろうな。
そんなことをつらつら考えながら歩いた。サスケは押し黙って歩いていく。長身の後ろ姿。おれより拳一つ位高い。怒り肩でずんずんと進んでゆく。
その姿を見ておれは苦笑するしかなかった。
「何を話していた」
天幕でベストを脱ぎ捨てて、あいつが訊いた。おれはサスケの傍付きになっているから、同じ天幕で過ごすことになっている。
「別に大したことじゃないよ。心配してくれてんのかな。そのうち弁当持ってきてくれるってさ」
「ちっ・・・・奴か」
小さく、吐き捨てた。がたんと行儀悪くイスに腰かける。
おれには何のことだかわからなかったが。
「で、いつになったんだ?決行」
「明日の晩、城が寝静まってからだ」
「そうか」
「城の前と後ろで二手にわかれんだろ?開始の合図はどうするんだ?のろし?」
「いや、火柱を上げる。それを見て口寄せしてくれ」
「ああ。わかった」
返事をしながら脱ぎ捨てられたベストを所定の位置に掛ける。
ふと、視線を感じた。振り向いてみる。
イス座ったまま、サスケがこちらを見ていた。怒りも威圧もない視線。力のないそれ。
まるであれでは・・・不安みたいだ。
おれはサスケの元へ行った。サスケは考え込んでいるようで気付かない。
足元に跪いて見上げる。漆黒の、あいつの瞳。
苦しんでいるのだろうか。
触れても、いいだろうか。
その頬に。
疲れたようなその顔に。
いいから。
おまえなら、何をしても、いいから。
触れさせて。
伸ばした左手をいきなり取られた。そのまま引かれて横倒しになる。
「何をしている!」
身体を起こしてあいつを見あげた。闇色の瞳に揺らめく焔。
おれを弾劾している。でも、目を反らさなかった。
「役目でも果たすつもりか」
「おまえが、望むなら」
声がでた。サスケの顔が、明らかな敵意に歪む。
「ならば、そうしろ」
低く、言葉が投げられた。
おれは大きく息をついて、足元に跪いた。三度あいつを見上げる。
「脱いだ方が、いいか?」
「任務前だ。戦力を減らすわけにはいかない。・・・・・別の方法があるだろう」
言われて、おれは首を傾げた。どうすれば・・・。
でも、ここで退くわけにはいかない。それまでの自分の知識を総動員させて考える。
思いつくことが、一つだけ、あった。
あいつが見下ろしている。あの、いつもの目で。
意を決して、おれは、サスケの下衣に手を掛けた。
布ごしだが、もうどんな状態なのか、わかる。
前をくつろげ、目を閉じて、それに舌で触れようとした瞬間。
バシッと何かを叩く音がして、おれの身体は左に飛ばされた。頬に焼けつく痛み。目の前に小さな光が舞う。
呆然と頬を押さえた。サスケを伺う。が、しかし。
あいつのいた場所には、イスだけがそのまま、残されていた。
その夜、あいつは帰って来なかった。
ACT3へ続く
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