翼翼     by真也






ACT3



 翌日の昼に、サスケは陣地に帰ってきた。急にいなくなったことを年上の上忍に諌められていたが、おとなしく聞いていたようだ。
 作戦は今夜行われる事になった。陣地内では交代で仮眠が取られる。
 規則正しいあいつの寝息を聞きながら、おれはずっと考えていた。昨夜のあれは、拒絶だったのだろうか。思えば、前に身体を繋いでから二週間近く経っている。それまで四日と開けずに求められていたのに。
 漠然と、不安になった。
 あいつが、離れてゆくようで。
 


 同じ天幕の中で二人、一言も話さずに夜を待った。



 弦月の下でそれは決行された。
 場内は長期の籠城の疲れか、静まり返っていた。
 本隊を控えさせて、先発のおれ達が城へと進む。遠巻きに城の前後に分かれた。配置につく。
 数人の忍だけの部隊なので、場内への侵入は簡単だった。正面の門で身を潜める。サスケたち火遁の部隊はもう、潜入を果たしただろうか?合図に、火柱をあげると言っていた。始まりの時を待って、息を潜める。闇の中の篝火。遠くに獣の声。木を燃やす焦げた臭い。
 灰色の煙が天へとあがってゆく。
 空を漂う雲が、半身の月を隠した。と、同時に爆音。炎の柱が天を貫いた。
 来た。
 精神集中、補助印を切る。滑らかに手が動いてゆく。出来た。
 次に『口寄せ』。己が指を傷つけて、血を媒介にガマを呼びだす。
 『いざ、ここに』
 風が吹く。旋風となって、そこから巨大なガマが現われた。
 頭に飛び乗り、指示を出す。出口を塞げ。
 他の『口寄せ』られたモノたちも出口に立ちふさがる。炎が風に煽られて更に燃えあがり、城内を取り囲んでいく。逃げ惑う人々。恐怖と狂乱が空気を支配する。そこに秩序はなかった。
 内掘の城門をガマが体当たりで壊す。もう、すぐそこに城が迫っている。
「内門を壊せ」誰かが叫んだ。見る間に内門が炎で焼き尽くされてゆく。
 一瞬、見とれた。
 炎を纏って戦うあいつを。
 右手にあの細い小刀を閃かせ、左で炎を操って城内へと消えてゆく。
「サスケ!」
 思わず走ってしまった。ガマをその場に置いて、後を追う。
 早い。走り去りながら屠ってゆく。忍と、侍だけを相手に進んで。
 追い付きたくて、クナイで必死で捌いて駆けた。屋根を飛び、壁を伝って上へ上へと登ってゆく。
 ついにサスケは天守閣にたどり着いた。忍が出ている。一人、二人。五人か。
 金属音が連なる。接近戦に持ち込まれた。これでは火遁は出来ない。クナイとあいつの小刀では強度が違う。打ち合いになると不利だ。
「くらえ!」おれに向かってきた忍を一人、薙ぎ払う。一撃。惜しい。クナイで受けられた。すかさず蹴りを入れて転がす。起き上がろうとした所をクナイで一突きにした。これは中忍か、下忍クラス。二人目の剣を受けながらサスケを見やる。
 サスケはあとの四人のうちの一人と相対していた。相手も強い。おそらく上忍クラスだ。二人の周りに気が渦巻いている。サスケはクナイに持ち替えていた。さすがにあの小刀では受けきれないと思ったのだろう。
 二人目の忍が剣を放した。反動でよろめく。奴はクナイを手に飛び掛かってくる。
「甘いんだよ!」バランスを崩しながら印を切った。影分身。飛び込んできたそいつをはさみ込んで仕留める。あと、三人!
 横っとびに跳んだ。怯んだスキを見て三人めの後ろに回り込む。こいつは難なく仕留めた。
 サスケは、クナイで相手の一撃を受けていた。危ない!後ろでもう一人が狙っている。
 おれはその手のクナイを投げた。と、同時に走り込む。やらせるもんか!
 ドカッ。体当たりで4人目の身体を、刺さったクナイごと屋根の下に落とした。断末魔と鈍い音が聞こえた。
「サスケ!雑魚は終わりだ!」大声を張り上げる。
「わかった。すぐ済ませる」
 にやり。後ろに大きく飛び退いて、距離をおいたサスケが笑った。
 目を閉じて、開く。紅い瞳が現われた。
 目粉しく印を切る。周りに気が集中してゆく。そして始まる放電現象。
 『雷切』
 右手に電気の渦が取り巻いている。サスケが屋根を蹴った。相手もクナイを手に飛び上がった。
 数回、見えない動きの応酬があった。そして、あいつの右手が相手の身体を捕らえた。
 肉の焼け焦げる嫌な臭いがする。
 あいつが手を放した時、人であったそれは黒い塊となった。
 おれは背筋が凍るのを感じた。
 これが、本当の『雷切』。演習場でおれに使われたものなど比較にならない威力。
「いくぞ」
「えっ」
「上へあがる。天守閣に火を放てばもう、中の者も諦めて逃げ出すだろう」
「そうか」
 おれ達は更に上へと屋根を登った。頂上に近いところでサスケが火遁の炎を放った。
 一撃で充分事足りた。
 殺す為ではない。逃がす為なのだから。
「すまなかったな」
 炎からかなり離れた屋根の上で、あいつが言った。驚いて見上げる。
「雑魚を任せてしまった」 
「いやっ、おれが勝手に付いてきただけで・・・」
「でも助かった。おれ一人だと無傷ではいられなかっただろう」
「これくらい、おれでも出来るから」
「そうだな」
 そして情けないことに、おれはまた目を奪われてしまった。
 サスケが、笑ったのだ。一瞬だけ。





『突入!』
 本隊の号令が響いた。
 おれ達先発の忍の役目は終わったのだ。これからは侍たちの出番。あとは引き継げばいい。
「とりあえず、帰るか」
 振り向いて、訊く。
「ああ」
 いつも通りの表情と声音が帰ってきた。
 天守閣を見上げる。焼き尽くす炎が天を明るく、照らしていた。
 任務は終わったのだ。



 サスケの心は見えないのに、共に戦う時は、こんなにわかりあっている。
 だから、通じているはずなんだ。おれ達の心は。
 今はただ、表面の細かいものが見えないだけで。
 きっと、その奥の大切な部分は同じはずなんだ。
 お互いの心を解き明かす言葉。今は、探し出せていないけど。
 それさえ見つければ、きっと・・・・。



 里へと向かう帰り道。おれはずっとあいつの背中を見つめ続けた。
 もう、半月も肌を合わせていない。
 どういったらいいか、分からないけど、伝えよう。おれの考えていることを。
 抱かれてからでもいい。話を聞いてくれるならば。
 ちゃんと、言うんだ。
 大切なことを。
 恐れずに。



<END>



『迷走飛行』へ続く




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