翼翼 by真也
ACT1
心とは、なんて不可思議なのだろう。
気付いてしまった。辛いのはあいつに抱かれることでなく、心のない物のように扱われること。
そうだ。初めてあいつを受け入れた時でさえ、嫌だとは思わなかった。ただ、驚いただけで。それがどういうことか、何故よく考えなかったのだろう。いや、考えてはいた。ただ、自分の気持ちに目をやらなかっただけだ。
たぶん、よかったのだ。あいつなら。それがどういう行為であっても。ちゃんとおれを見て、おれの気持ちも汲んでくれることならば。
ああ、そうか。ようやくわかりかけてきた。
何故あいつと再会した時、苛立ちが心を掠めたのか。
でもその原因を作ったのは、最初に逃げていた自分なのだ。
だから、おれが直さなければならない。あいつとのズレを。
翌日の朝、おれ達は何事もなかったように受付所で顔を合わせた。
サスケは一言、「あれから、だれか来なかったか」と意味不明のことを尋ねた。
「誰も来ていない」と答えておいたが。
それからも変わらぬペースで情交は重ねられた。
変な話で、発想の転換が出来たのか、以前よりも楽な気持ちでその行為に応ずることはできた。ただ、身体が離れる時は、無性に寂しく思ってしまったのだが。
おれの態度が変わった為か、サスケもそう無理強いはしなかった。
だが、どういったわけか、身体を重ねている間にあった会話さえも、なくなってしまった。
その分、あいつがおれを見つめる時間が増えた。
行為の後や前に、あいつは無言でおれを見ている。殺意や、怒気もない眼差しで。
あいつ自身も迷っているような瞳。何を考えているのだろう。
しばらくして、中忍全部と上忍の一部に招集が掛かった。何か、大きな作戦があるらしい。
おれ達は一様に任務受付所の会議室に集まった。
見慣れた顔が勢揃いした。同期の者や、同グループのもの。向こうにはリーの姿も見えた。この間の埋め合わせをしなくては。せっかく誘ってくれたのに。
サスケは何人かの上忍と共に、上座にいた。新人上忍ということもあって、一際若さが目立つ。その容姿も手伝って、くの一達の視線を釘付けにしていた。
その気になれば、選り取り見取りだろうに。
なのにあいつはおれを抱く。脅しも、圧力も。上忍としての命令も。取り引きさえも使って。
まさに手段を選んでない状態だ。どうして欲しいのだろうか。おれなんて。
なぜ、おれなのだろうか。
「おい。聞いているのか」
耳元に低音。身体がびくりと揺れた。すぐ近くに、サスケの顔。
なんだろう。足から頭に向かって血が遡ってゆく。
「えっ、なっ、何?」
「口寄せは完璧かと訊いている」
「?何で?」
思わず聞き返した。どうして口寄せが必要だなんだろうか。
あいつはしばし、おれの顔を凝視した。ふうっ、と一つ大きなため息をつく。
黒い瞳が、三白眼気味になって迫る。
「お前、任務の内容は聞いていたんだろうな」
言われて、慌てて辺りを見合わす。皆ばらばらと解散している。作戦ミーティングが終わったのだ。
まずい。とんでもないことになった。冷や汗が背中を流れ落ちる。
今のうちに、誰かつかまえて聞き出さなければ。
「サスケ・・・いや、うちは上忍。おれ、ちょっと・・・」
「聞いていなかったな」
再び耳元に低音。今度は妙にドスが入っていた。
おれは、観念して首肯くしかなかった。
サスケから聞いた今回の任務は城攻めのアシストだった。他のグループも参加したかなり大がかりな作戦のようだ。
おれ達はその一部を任務として遂行し、あとは本隊の武将に引き継ぐものらしい。
雲の国との国境にある小さな城。建物こそ小さいが、戦力的に重要な要所になるそうだ。
既に先発隊が取り囲んで一ヶ月半が経っている。兵糧も少なくなり籠城への不安も出てきているこの時期に、夜襲をかけて一気に落とすということらしい。本来ならばそんなことをしなくても、小さな城だからあと一、二ヶ月ほど待てば簡単に落ちるのだが。『どうしてこんなことをするんだ』と訊けば、『上の奴らが待てないんだろ。くだらねぇ』と、サスケは吐き捨てた。
「作戦はこうだ。夜半、城が寝静まるのを待って、城の表と裏に別れて配置する。まず、裏の火遁を操れるグループの俺達が火柱を上げて追い詰め、城の住人たちが動揺して逃げようとしたら、表のお前たち口寄せ隊が出口を防ぐと。で、混乱がさらに酷くなった所で本隊の武将とリーたちが突入するらしい」
「だから、口寄せが必要なのか」
「そうだ」わかったか?と瞳が訊く。おれは首を縦に振った。
「お前、今まで『口寄せ』は不安定だったのか?」
「そんなことない。ちゃんと出来ていたぜ。ただ・・・・最近は、使ってなかったな」
そう言って、上目づかいに見る。あいつは腕を組み、なにやら考えているようだった。
見事に整った横顔。冷静に見えて、その中に火のように激しい感情を潜めている。
「どちらにしても、肝心な時に使えなくては意味がない。補助印を教えるから、覚えろ」
「補助印?」
「普通、もっと大きな術をする時に精神統一も兼ねて組んでおく。これをやってからだと『口寄せ』も安定するだろう」
「・・・教えて、くれるのか」
「今日中に会得させる。覚悟しろ」
その後、おれ達はまる一日かけて補助印を練習した。おれにとっては全く未知の印だった。もともと術系が苦手だったことも手伝って、時間がかかってしまった。しかし、サスケは根気よく付き合ってくれた。
結果、なんとかその日のうちに補助印を会得することが出来た。
おれは嬉しかった。昔の時間が戻ってきたようで。
また、いつぞやの様に今日も伽があるかと覚悟していた。しかし、明日からの任務も関係してか、あいつはおれを抱かずに帰ってしまった。
ACT2へ続く
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