翼持てるもの   by真也







ACT9 〜『空中乱舞』編〜



『逃げんなよな』
 あいつの言葉。耳から脳へと染みこむ。
 逃げるはずがない。お前とまた、向き合えるのだから。
 ナルトと戦う。たぶん、これは最後のチャンス。
 俺はお前を傷つけることしか出来なかった。だが、俺はお前を求めていた。お前と共に在りたいと思っていた。だから。
 最後に俺は、俺である為に全力を尽くして戦う。勝ち負けはどうでもいい。どんな結果になっても暗部へは行くつもりだ。
 これはけじめ。それだけのことをしたのだから。





 朝日を背に、俺はその場所へとやって来た。ナルトが先に来ている。
「よお。逃げずに来たか」
 にやり。挑戦的に笑った。久しぶりに見るその顔。
「お前もな」
 自然に言葉が出る。これでいいと思った。後は、全力で戦うだけ。
「そろそろ始めるか」
 あいつが言った。俺は口を開く。これだけは確めて置かねばならない。
「一つだけ、確認しておく」
 ナルトを見つめる。碧い瞳の中、俺がいた。
「俺は上忍だ。それでもやるのか」
 力の差は歴然としている。俺自身も手加減などするつもりはない。ナルトだから、お前だから俺は全てを出しきる。
「関係ない。おれは、おまえと戦いたいんだ」
 視線を反らさずあいつは言った。そうだな。そんなこと、今さら言うことではない。
「じゃ、いくぜ」
 声と同時に跳んだ。木の上、比較的高い位置に姿を隠し様子を伺う。微かに感じるナルトの気。まだまだ気配の消し方が甘い。
 俺は囮の気配を出し、あいつめがけて飛んだ。
 それが、戦いの始まりだった。





 あいつは立ち止まっていた訳ではなかった。
 術の安定度。戦いの運び方。場所の特徴を生かした戦い。とっさの機転。
 申し分なかった。
 おまえなんだな。
 これが、本当のナルトだ。
 うずまきナルトなのだ。





「終わりだな」
 クナイを首に突きつけ、宣告した。あいつが身じろぐ。馬乗りで身体を封じていた。
「わかったか。これが上忍と中忍の差だ。さあ、命乞いでもするんだな」
 クナイに力を込める。滲んだ血を見ながら言葉を継いだ。もういい。お前はしっかりやった。ここで折れても、恥ずかしいことではない。
「やれよ」
 あいつが息を吐き出し、ぽつりと言った。明確な発音。俺は目を見張る。
「おれは、おれの全てを賭けてでも、おまえを取り戻したかった。おれの待ち続けた『うちはサスケ』を。でも、それが叶わないんだったら、いいんだ。もう」
 何を言っている。あいつが俺を待ち続けていたと?俺を取り戻すだと?
「最後だから、ちょっとだけ聞いてくれ。なあ、おれ、気付いたんだ。なんであの時、おまえを拒んでしまったのか・・・・・おまえに抱かれたのが嫌だったんじゃない。ただ、おまえが一人で勝手に決めて、行ってしまったから。それが悔しかったんだよ。置いていかれたみたいで。ちゃんと、まずおれに言って欲しかったんだ。おまえだから」
 湧き起こる感情。溢れてしまう。震える唇。ぎゅっと噛み締めた。
「おれは、おまえと一緒にいたかったんだ」
 力が入らない。クナイが落ちた。土に刺さって止まる。視界が歪んだ。
「こんの・・・・ウスラトンカチ」
 抱きしめる。渾身の力を込めて。離さない。俺はお前といたい。
 背中に感じる。そろそろと回されたそれは、ナルトの温かい手だった。



 降りてくる。
 翼あるお前が、ゆっくりと。
 何度も傷つけ、辱めた俺のもとに。
 あの日と何一つ変わらない、輝く笑みを浮かべて。



 求められていたのだ。
 俺も、あいつに。


『おかえり』
 ナルトの呟き。耳を掠める。『ただいま』の代わりに、腕の力を強めた。




 頭上に太陽。いつもと変わらず輝いている。吹いてくる風。それも同じ。
 あいつが振り向く。まっすぐ見つめた。お前だけを。
 嬉しい。
 あいつも見つめ返した。俺だけを映す瞳。
「いくか」
「ああ」
「まずは、火影様ん所だな。あとは受付と。上忍部屋か」
「一仕事だな」
 これからを想像してげんなりとする。苦笑した顔が見ていた。
「しかたないだろ」
 そうだな。でもいい。これくらい。
「まっ、付き合ってやるよ」
 言いながらナルトが歩き出した。慌てて名を呼ぶ。あいつが振り向いた。顔が見られない。俺はある提案をした。
「片づけることが全部終わったら、一緒に行きたい所がある」
「どこ?」
 首を傾げて訊いてくる。思いきって言った。
「居酒屋だ。カカシとイルカ先生が通ってた。・・・・・その、お祝いだから」
 あいつの顔が紅く染まる。きっと俺も同じなのだろう。性に合わない。しばらくして。
「おごれよな」
 下手なしかめっ面で、ナルトが言った。



 遠まわりしていた。
 お互いが大切過ぎて。
 お互いを求め過ぎて。
 今、素直に言える。

『一緒に、いたい』


 離さないからな。
 後で何言っても、聞かないぞ。


 さあ、嫌になる程、一緒にいてやる。



END



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