穿ち続ける。
 どれだけ求めたらいい。
 どれだけ痛めつければいいのだ。
 あいつの身体が冷えてゆく。
 息をするのに必死で、声さえ出せないでいる。
 なのに。俺を受け入れたそこだけは、熱くて。
 その熱さが更に、俺を煽る。







翼持てるもの   by真也






ACT6 〜『迷走飛行』編〜



 一週間の旅路を経て、俺達は里に帰還した。作戦は大成功をおさめ、火影様の言葉と金一封を得た。
 くだらないな。
 今さらのように思う。城一つ落としても人の戦いは終わらない。新たに戦いを生み出すだけだ。
 俺達は忍。戦いのある所に存在する。結局何も解決できない。
 解散の声が掛かった。久しぶりの里。たまっていた雑事を片づけようと思っていた時。
「サ・・・うちは上忍」
 ナルトだった。
「あのさ。話したいことがあるんだ。今日、時間もらっていいか」
 あいつから話。何だろうか。
「ここじゃ言えないから、おれの家かおまえん所で」
 敢えて二人になる。それ程の話なのか。それとも、もしかしたら・・・・。
「・・・・いいだろう」
 覚悟を決めて答える。どちらでもいい。好意でも悪意でも。俺が欲しいものだったから。
 場所を移動しようと歩き出した時、聞き覚えのある声に呼び止められた。
 サクラだった。
「今日、休みをとったのよ。ナルト、サスケ君もよかったら、これからお昼でも食べに行かない?」
「いいなあ、久しぶりで。サスケ、行こうか?」
 ナルトが振り向く。俺を誘った。生まれる不快感。
「・・・・・話があるんじゃないのか」
 二人の時間を求めたのに、実はそれ程のことではないのか。
「ああ。でも、せっかく誘ってくれてるし」
 サクラの誘いに劣る話なのか。
「後回しに出来る話なら、もういい」そう答えた。馬鹿馬鹿しい。苛立ちに任せて背を向ける。
 サクラが呼び止める。何だ。お前に話などない。
「もうそろそろね、ちゃんと話し合いましょう。いつまでもこんなこと、続けてちゃだめだわ」
 思わせぶりな言葉。サクラ、お前は何を言っている。何を知っているのだ。
 向き直り睨み据える。かつての同僚は俺の視線を真っ向から受けた。
「あなたが、ナルトにしていることよ」
 一気に血が頭へと駆け上がった。知っているのか。
「もう喧嘩とかそういう範疇じゃないでしょ、サスケ君のしていること。ちゃんと、話し合いましょう」
 言われなくてもわかっている。自分のしていることなど、自分が一番よく知っている。
「でも、ナルト、痩せてきているし。身体を壊しては元も子もないわ」
 うるさい。百も承知だ。ふと気付く。奴か。
「・・・・・奴が、言ったのか」
「リーさんも、謝りたいと言ってたわ。偶然とはいえ、失礼なことをしたと」
 それでどうすると言うのだ。皆で卓を囲んで、仲直りしろと言うのか。そして何が残るのだ。あいつを欲しがったまま、俺に地獄を生きろというのか。
 話にならない。
 その場を去ろうとした時、身体を押し留められた。誰だか予想はつく。
「サスケさん!非礼は詫びます。どうか、サクラさんのいうことを聞いて下さい」
 笑止な。どうして中忍の言うことを聞かねばならない。
「お願いです」
 煩わしくて右手を動かす。払いのけたつもりだった。
「ナルト!」
「ナルトさん!」
 サクラ達が叫んでいる。碧眼が見つめていた。睨み返す。何をしている。
「いくらなんでも、殴るなんてやり過ぎだ」
 では、そいつのしたことは正しいのか。
「だからって、手をあげる理由にならない。話し合うならおれ達二人ですればいい」
 また庇うのか。それ程大切なのか。俺よりも。
「いい度胸だ」
 負の感情が俺を支配する。怒り。嫉妬。哀しみ。それらが魔物になって体中を蠢き始めている。
 二人で話し合いか。楽しみだな。 
 自分でもわかった。顔がどす黒いもので歪んでいる。顎をしゃくって歩き出した。
 ナルトが追ってくる。
 背中に視線を感じながら、俺は適切な場所を探した。



 細い山道を歩き続ける。
 どこがいいだろう。
 誰にも見せない。
 誰にも邪魔させない。
 誰にも渡さない。
 あいつは、俺のものだ。



 水音。小さな滝が見える。しばらく行って立ち止まった。ここなら、声を聞かれる心配もない。
 誰にも聞かせない。
 話も。呻きも。喘ぎも。
「サスケ、あの」
「お前はどちらなんだ」
 話しかけてきた声を遮った。さあ話せ。はっきりしろ。
 ナルトが呆然としている。焦れて迫った。力を込め、両肩を掴む。もう止まらなかった。
「拒絶するかと思えば抵抗しない。嫌がっているくせに俺の望むことをしようとする。お前は何を考えてるんだ!」


 わからない。
 お前は何が大切なのだ。
 何を求めているのか。
 

「サスケっ」
「俺を、嘲笑っているのか?同情しているのか!」


 誰が必要なんだ。
 俺ではないのか。
 俺は、憐れまれるだけなのか。


 力任せに肩を揺する。あいつの顔が痛みに歪んだ。
「何とか言え」
「サ、サスケ。何を言ってる・・・か、わから・・・」
 わからないと言うのか。最後まで言わさず投げ捨てる。ナルトの身体が滝壷へと飛んだ。水を飲んだのか咽せている。その隙を逃すはずはなかった。後ろ首を掴み、頭を水中に押し下げる。
 あいつがもがいている。息を求めて。手を押しあげる力が弱まった。手の力を緩める。頭を上げたナルトが激しくむせる。気管に水がはいったか。構わず、滝へと引きずっていった。
 両手を滝の裏に付かせ、立たせる。滝に押しつけた。降り注ぐ水。



 洗い流せ。
 お前の中にある、俺以外のものを。
 俺だけでいい。
 俺だけを中に入れろ。
 俺だけを求めてくれ。


 そこに指を入れ、侵入しやすいように慣らす。あいつが身体を捩る。構わず、押し込んだ。


 穿ち続ける。
 どれだけ求めたらいい。
 どれだけ痛めつければいいのだ。
 あいつの身体が冷えてゆく。
 息をするのに必死で、声さえ出せないでいる。
 なのに、俺を受け入れたそこだけは、熱くて。
 その熱さが更に、俺を煽る。



 叩きつける水の中、あいつの背がうねった。俺の動きの一つ一つが、あいつを動かしてゆく。
 そうすれば消せると思った。
 あいつの中の俺以外を。
 俺だけを刻めると思った。
 真剣に。

 
 水に囲まれたまま、あいつの身体が崩れ落ちる。手を伸ばし、繋がったまま受け止めた。


 意識のないあいつを抱きしめる。
 やっと自分を取り戻した。
 後悔。何度したかわからないのに。
 何をしたか、わかりきっているのに。
 なぜ俺は、自分を止められないのだ。
 




 ぐったりとした身体をナルトの部屋まで運んだ。ベッドの上に降ろす。目を覚ましてくれ。
 あいつが意識を取り戻した。身を起こそうとして、だるさと痛みに呻いている。
「辛いか」
 絞り出すように問うた。ナルトが僅かに顔をあげる。
「ならば一言、『やめてくれ』だ。それで済む」
 それが呪文。お前の悪夢を覚ます為の、俺が俺をやめる為の言葉。
 早く、言い捨ててくれ。
 いらないと。 

 あいつの返事はなかった。
 俺は部屋の外へと飛んだ。


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