翼持てるもの  by真也







ACT4 〜『低空飛行』編〜



 俺はあいつを貪り続ける。
 より多くの憎しみをと積み重ねてゆく。なのに。
 感じない。
 あいつから伝わっては来ない。
 憎しみも、怒りも、何も。
 


 この一ヶ月間、同じことを繰り返している。
 二人で任務をこなし、任務の後にあいつを奪う。ほぼ三日に一度の頻度でそれを続けた。
 あいつは拒まない。
 敵意の目も向けない。
 ただ、黙って耐え続けている。
 何を考えているのか。
「・・・!」
 後ろから思い切り突き上げる。背が波打ち、壁についていた手が揺れた。手が空を泳ぐ。溺れた者が何かをつかむように。両肩を掴み、壁に顔を押し付けた。更に深く身体を繋ぐ。息を詰める音。
「何とか言えよ」
 耳元で言った。言葉が欲しくて。黙ったままのあいつ。苛立ち、強く揺さぶった。のけ反る背中。
「それとも、憐れんでいるのか」
 聞きたくない。でも、欲しい。お前の言葉が。お前の反応が。
 相反する感情がせめぎあう。掻き消すようにあいつを責めた。


 痩せたな。


 ぐったりとした身体を抱きながら思った。意識のないあいつ。この時だけは、俺は俺でいることができた。
 ナルトが欲しい俺。どんな形でもいい。どんな存在でも。それだけ餓えている俺。あさましいと思いながらも、諦めることはできなかった。
 どんな言葉でも償えない。
 何をしても帳消しにはできない。
 それを贖えるのは、この命だけ。
 本気でそう思っていた。




 ナルトの気配を感じる。自然と足が向いた。弱ってゆくあいつが気になっていたから。
 見つけて、身体が硬直した。急激に湧き上がり、渦巻いてゆく感情。嫌になるほどわかってしまう。
 嫉妬。
 隣の男は旧知の親友で、俺の仲間の女性の恋人だと知っているのに。
 理屈ではないのだ。
 感情が理性を抑え込んでいる。


 近づくな。
 話すな。
 それは、俺のものだ。


 あいつが笑う。俺の好きな笑顔で。
 他の奴に、笑いかけている。


 笑うな。
 他の奴になど、目を向けるな。
 俺だけを見ていればいい。
 それが敵意の目でも、構わない。


 あいつが振り向く。視線が合った。大きく見開かれた瞳。俺は横を向いた。そのまま歩きだす。
 焼けつくようだった。
 己の中から、焔が吹き出している。どす黒く、荒れ狂う焔が。必死でその場所へと歩いた。無言で逃げ込み、暴れだす感情と戦う。 
 奥殿の文庫。
 薄暗い部屋の中、俺は必死で書物に目を走らせる。思考を全て停止させ、写輪眼でコピーするように知識を頭に写し取っていった。
 そうしていないと、際限なくあいつを痛めつけてしまいそうだった。
 



 夕方になり、俺はナルトの部屋近くに潜んで待った。あいつは帰って来ない。苛立ちが募ってゆく。

 どこにいる。
 何をしている。
 誰といるんだ。

 すっかり暗くなった頃、あいつは部屋に帰ってきた。音もなく玄関の前に立つ。手を掛けようとした時、部屋の扉が開いた。
 あいつが凍りついている。言葉一つ、出てこないようだ。
「入るぞ」
 強引に中に入る。返事など聞く気はなかった。
「足の踏み場もないな」
 呟き、部屋のベッドに腰かける。ナルトがドアを閉めた。戸惑いながら、口を開く。
「サスケ、あのさ・・・」
「今まで何処へ行っていた」
 俺の問いに、迷ったような表情が答えた。
「アカデミーに行っていた。子供たちの相手をして、サクラに会っていた」
「ふん」
 鼻で笑う。つまらぬことを。サクラに何を言ってきたのか。
「サスケ、おれ、聞きたいことがあるんだ」
 思い切ったようにあいつが訊いた。見つめてくる。その目に恐れはなかった。
「おまえさ、何で暗部に行ったんだ?」
 今ごろ何を言っている。
「それは、分かっている。じゃ聞くけど、おまえ、なぜ強くなりたいんだ?」
 意味のないことを。強くない忍など必要とされない。
「おまえの言う強いって・・・・どんなことなんだ?」
 耳を疑う。そして思う。全否定なのかと。
 俺のしたこと。それは、お前にとって意味をなさない。俯き、湧き上がるものに耐える。言葉が漏れ出た。
「おまえが・・・・それを言うのか」
 あいつが聞き返す。もう言葉は必要なかった。


 何もない。
 俺は必要とされない。
 ならば、せめて敵意を。
 殺したい程の、憎しみをくれ。


 こちらに来いと命令する。
 ナルトがやって来た。ベッドに上がろうとする手を掴み、宣告する。
「今日は、ここでする」
 あいつが見上げる。意味がわからないようだ。腕を引き、目の前に立たせた。
「座るんだ」
 空色の目。呆然としている。留めを刺すように言った。
「ここに、自分で座るんだ」



「・・・んんっ・・・」
 ゆっくりと腰が下ろされてゆく。ナルトの中に取り込まれてゆく俺。内部が、熱い。
 目の前にあいつの顔。苦痛に歪んでいる。眉間に刻まれたシワ。噛み締めた唇。額に滲む汗。逃れるようにかぶりが振られた。


 逃さない。
 全部、俺のものだ。


「う・・ああっ!」
 腰を持ちあいつを深く沈める。腕が掴まれた。構わずに腰を揺さぶる。声。抑えられることなく部屋へと散ってゆく。爪が腕に刺さった。


 もっと。
 もっとくれ。
 もっと欲しい。


 気配に気付いた。ドアの外に誰かいる。こちらを伺っていた。ナルトを振り落とし、ドアにクナイを放つ。外したか。逃がさない。
 俺は身仕度を整え、ナルトの部屋を飛び出した。誰だ。何の目的だ。俺からあいつを、取り上げようと言うのか。

 全力でその気配を追跡する。かなりの使い手らしく、俺はそいつを取り逃がしてしまった。



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