翼持てるもの by真也
ACT3 〜『囮』編〜
『敵』として必要とされる。
やめることはもう出来ない。
最後まで行き着いてしまわないと。そこから立ち上がるお前を見届けないと。
強くなったお前に、俺は必要とされるだろう。倒すべき相手として。それでも。
『必要』になんら、変わりない。
翌日。俺はあいつ一人を残して、第8グループを解任した。
馴れ合いはさせない。余計な者に介入などさせない。
決定的にするのだ。俺達の差を。
そう思いながら西門の塀にもたれ、ナルトを待っていた。あいつは遅れてやってきた。
「他のメンバーは、いないん・・・ですか?」
ナルトが訊く。他の中忍達を解任したことが不安らしい。何を言っているのだ。そもそも、集団で行動するから人に頼るクセがつく。悪い習慣だ。
他の奴らが必要ないことを説明する。納得しきれてない顔。まあいい、いちいち付き合っていられない。
話すのをやめ、俺は木に跳び上がった。木々を渡る。ついてこれるか?
あいつは距離を置きながらも、なんとかついて来ていた。意地になってるらしい。
そうだ。
それでいい。
半日ほど山を渡り、目的地近くまで来た。俺は足を止める。
確か、あの辺りだな。
周囲で一番高い木の上にあがり、確認を試みる。印を組み、写輪眼を見開いた。
「サスケ」
あいつの声。何をしてるかわからないようだ。睨んでおく。意識を集中させて。見えてきた。
あの山の、あそこか。丁度裏側の位置だな。
確認し終えて意識をこちらに戻した。ふと気付く。ナルトが俺を見ている。ぼんやりとした瞳。
なぜ見ている。
何を考えている。
そんな敵意のない目で、俺を見るな。
「何をみている」
声を掛ける。あいつの身体がびくりと跳ねた。一瞬、目が合う。意識的に反らした。
ナルトが黙り込む。言えないか。まあいい。
問われて今回の任務内容を説明した。全滅はやり過ぎだとあいつが言う。まだそんなことを言っているのか。
優しい心。
他者を思いやる心。
それが、お前の命取りになる。
「サスケ!」
必死な声。碧眼の中にそれを見つける。強い、意志の焔を。
「・・・わかった」
言葉が出てしまった。思わず自嘲する。己の甘さを。
「ああ。わかってるって」
ナルトが笑う。嬉しそうな、あの頃の顔で。
背を向けるしかなかった。それを受ける資格は、もう俺にはなかった。
下調べを済ませ、山頂にて夜を待った。闇。篝火。酒盛り。全てが俺達の味方になる。
「手筈はどうする」
ナルトが訊いてきた。そろそろ、話してもいいか。
俺は話した。囮を使うこと。それがあいつだと言うこと。話して、反応を見た。
「へへ、わかったぜ」
不敵にナルトが笑う。囮と聞いても怯まないか。上等だ。
夜盗達のアジトの見取り図を書く。間取りと位置関係を説明した。あいつは頷きながら聞いていた。
おまえは囮。
生き残れなければ、それだけの捨て駒。
俺達は機会を待ち続けた。そして、その時はやってきた。
雲間の月の下、アジトは静まり返っていた。そろそろか。
「行くか?」
あいつの声。応えて走り出した。後ろにあいつの気配。風を切る。早く。もっと早く。発見などさせない。
火遁印を組む。要所を焼き払いながら、俺は進んだ。一人。二人。向かってくる者を容赦なく仕留める。無駄に費やす時間はなかった。
ナルトは分身の術を使い、上手く攪乱していた。合図を送る。十数人を引き連れ、あいつが外に出た。さあ、見せてもらおう。
全神経を集中させ、俺は任務を遂行した。
「ありがと。おれの言うこと、聞いてくれて」
任務が完了した後、あいつは言った。またあの笑顔で。疑いもしない、信頼した目で。
「別に。任務が遂行できればそれでいい。・・・・いくぞ」
素気なく扱う。それでも気にしていないようだった。
闇夜の道。黙したまま歩き続ける。一歩ごとに足が重くなっていった。
違う。
違うのだ。
俺に向けるのは、笑顔じゃない。
敵意と憎しみ。それだけでいい。
そんな風に笑われたら、思いだしてしまう。
お前と共に進み、必要とされたいと思っていた自分を。
もう戻れないというのに。
言いようのない感情を抱えながら、俺は足を動かし続けた。
空が白み出してきた。林を通り抜ける。風の音。サヤサヤと枝が揺れる。
静か過ぎて、無性に苛立った。
「なあ」
ナルトの声。そのまま無視した。
「二人でさ。どうなるかと思ったけど、何とかなったな」
うるさい。黙れ。
「はは。そうだな。『うちはサスケ』だもんな」
呼ばなくていい。俺の名前など。
足を止める。限界だった。辺りを見回す。ここで、いい。
「あれに、手を回せ」
振り返り、俺は命令する。一本の木を指差した。ナルトが目を見開いている。意味が分からないように。
忘れるな。
俺は、そんな奴じゃない。
お前に笑ってもらえる奴じゃないんだ。
思いだせ。
動けない身体を捕らえる。木に付き飛ばし、押さえつけた。逃がさないよう腰を掴む。
「サスケッ」
上ずった声。僅かに脅えの入る目。
「お前は、上忍に、意見した」
明確に宣言した。あいつの身体が震える。
「だが、俺はお前の言うことを聞きいれた。・・・・今度は、お前の番だ」
そう。これはお前への罰。自分の分をわきまえなかったことへの。
「お前の『役目』だと、言ったはずだ」
求めるな。お前が求めるのは、こういう俺だけでいい。昔の俺など滑稽なだけだ。
「・・・・開け」
その場所を制して、耳に言葉をねじ込む。ゆっくりとあいつの足が開いた。
声が聞こえる。
余裕のない、必死な声が。
責めたてられて、それでも哀願ではない声が風を渡る。
頭が痛い。胸が苦しい。でも。
それを上げさせているのは、他でもない自分。
何をしているのだろう。
手が、身体が抑えられない。まるで何かに操られているみたいに。
全てを注ぎ込んだ時、やっと自分が自由になった。
「報告書は俺が出す。お前はこのまま帰れ」
横たわるナルトに言葉を投げる。それ以上、ここにいるわけにはいかなかった。
頭を冷やさなければ。自分を止めていられるうちに。でないと。
振り向かず、俺は枝を蹴った。
里で復命を済ませて、俺はあの場所へと引き返した。ナルトはいない。気だけが微かに残されている。それをたよりに、あいつを探した。
写輪眼で感知する。自分の部屋には帰っていない。受付所の方角にも。あとは、あそこか。
慰霊碑のある所。イルカ先生のいるだろう場所。俺は再び駆けだした。
慰霊碑の前にあいつはいた。
座り込み、背を丸めて泣いていた。子供が出しているような、身も世もない声。
声をかけたい。
あんなふうに一人で泣かせたくない。けれど。
そうしたのは俺だ。
しばらくして、泣きつかれたのかあいつが眠った。白い顔。疲れが色濃く出ている。
俺は木の上に潜み、あいつの眠りを守り続けた。
それだけしか、できなかった。
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