翼持てるもの    by真也







ACT2 〜籠の鳥編〜



 奪ったものが何であるかを知りながら、尚も貪り続ける。
 理由など何でもいい。俺はそれ程餓えていた。



 翌日。
 ナルトは単独任務に出た。岩の国までの文遣い。途中何もなければ、三日程で帰るだろう。鍛えているとはいえ、万全の状態ではない。良心の呵責がないと言えば嘘になった。 
 俺は考え続けた。あいつが何を伝えようとしたのか。あの時、苛立ちのあまり遮ってしまった。
 ごたくはいい、はっきりしろと叫んだ。返事など聞きたくもなかったくせに。
 三日目の夕方、ナルトは里に戻ってきた。報告書と格闘しているのを、受付所近くの木の上で伺う。星が出てきた頃、やっとそれが終わった。
 俺は一度拒絶された。その後自分がしたことも分かっている。まともに行って話が出来るとは思えなかった。いくらあいつでも、それ程お人好しではない。
 先回りしてナルトの部屋に潜み、帰りを待つ。気配が近づいてきた。ドアの前で足音が止まる。ガサリ。何かが置かれた。ビニール袋だろうか。動かない気配。どうやら警戒しているようだ。
 鍵が開けられ、ドアがそっと開く。覗く碧眼。こちらを伺っている。しばらくして、異常はないと判断したのか中に入ってきた。電気をつけようとしている。うかつな。俺は後ろから迫り、首を絞めあげた。
「甘い。気配がなくなっても油断するな」
 殊更低く言う。もともとそのきらいはあったが、いつからこんなに無防備になったのか。仮にも火影を目指すと言う者が。
「このまま首を折れば、終わりだな」
 腕の力を強める。あいつの喉がグッと鳴った。そろそろか。
 限界を見計らい、力を緩めた。ナルトがへたり込んで咽せる。仰向かせ、右肩を押さえつけた。衣服を弛め、先日の火傷を確かめる。幸いそれは跡も残らず、きれいに完治していた。
「もういいようだな」
 言ってから気付く。あいつが目を瞑っていることに。
 恐れているのか。やはり。
 閉じられていた瞼がおずおずと上がる。目が合った。
「・・・・俺が、嫌か?」
 思わず訊いた。あいつが何やら口ごもっている。
「嫌なら逃げればいい。ならば、もう追わない」
 言い放ち横を向く。そうだ。逃げればいい。逃げて、一介の中忍として歩めばいい。そうすれば俺は認められる。お前は火影になれないと。だから、俺もお前に必要ないと。
 再び視線を合わせる。答えを待った。脅えた顔を見るだけでよかった。でも。
 ナルトは真っ直ぐ見上げてきた。恐れのない目で。
「おれは、逃げない。逃げたりしない」
 血の気が退く。急速に心が凍っていった。
 敵。
 そうか、憎むべきものとなったか。
 自然と口元が笑む。よかろう、それでもいい。
「・・・・いい度胸だ」
 言い終えると同時に攻撃を加えた。わからないのなら、その身に認識させるだけ。
「どこまでつづくか見物だな」
 皮肉げに言い放つ。いいだろう。俺はお前を殺せない。だから、為すことは一つ。
 躊躇うことなく、その腕に手をかけた。
 




 その身に分け入り奥へと進む。
 覚えのある身体は前回以上に敏感だった。押え込み、ひたすら叩きつける。
 手加減はしなくていい。恐怖も。羞恥も。苦痛さえもお前の糧になる。
 俺を憎め。心から念じた。
 憎むことで、その分お前は強くなる。
 強くなって、俺を倒せ。
 呻く声。押し殺した中から聞こえる。
 それが聞こえなくなるまで、俺はあいつを責め続けた。
 


 ナルトは最後まで屈伏しなかった。助けも乞わず、泣き言一つ言わない。わざと投げ出す。あいつは小さく呻き、横向きで身を丸めた。
「お前は『逃げない』と言った」
 冷たく言う。顔は見られなかった。
「ならば、これはお前の役目だ」
 ナルトが身を起こそうとする。苦痛に歪む顔。言いようもなく胸が痛む。逃げるようにその場を去った。
 


 どんな存在でもいい。
 憎まれ、命を狙われるものであっても。
 それでも俺は、あいつが欲しい。あいつに必要とされたいのだ。
 後には退けないと自覚しながら、俺は走り続けた。




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