*この作品は、『鳥』シリーズ本編のサスケsideです*
降りてくる。
翼あるお前が、ゆっくりと。
何度も傷つけ、辱めた俺のもとに。
あの日と何一つ変わらない、輝く笑みを浮かべて。
翼持てるもの by真也
ACT1 〜飛来編〜
俺は待ち続けていた。
二年に渡る日々を耐え抜き、お前に会うその日だけを夢見て。
恐れてはいた。ナルトのもとを去る時、自分が何をしたかよく分かっていたから。
蔑まれ、拒絶されても当然だと。それでも、あいつの顔を一目見たかった。
強くなる。
その為に俺は暗部へと進んだ。正当で公正だけではない、裏の強さを求めて。
『火影になるんだ』
ナルトは言った。それこそがあいつの夢であり、全てだった。皆に自分を認めさせること。もう、里の殆どの人間はナルトを認めている。しかし、あいつはそれを信じていなかった。
火影になるということ。それは、ナルトがナルトである為の支え。それを叶えてやりたいと思った。
俺は上に立つ気はない。カカシと同じになってしまうが、生涯一戦士でありたいと思っていた。
「うちは上忍、こちらです」
受付の中忍が案内した。先導されるままに通路を行く。会議室へと着いた。
「配下の第八グループ、整列しております」
受付が報告した。目で確認しながら、俺は部屋に入った。
いた。
ナルトはその集団に並んでいた。一瞬合った視線が、すぐ反らされる。俯く顔。
やはりな。
予測はしていた。それ程のことをしたのだ。仕方がない。
半ば諦めながらも、視線を移すことができなかった。頭で分かってはいても、心は応じていない。
金色の髪。思ったより柔らかいのを知っている。
結ばれた唇。そこから出された声を知っている。
そんなに容易く忘れられない。
それこそが、俺の支えだったのだから。
中忍達が自己紹介をしている。あいつの番が来た。ナルトが顔をあげる。目が合った。
脅えた瞳。そうか、そんなに・・・・。
居たたまれなくて横を向いた。
ぼそぼそと力のない声でナルトが言う。何言かしゃべって口を閉じた。
俺には聞こえなかった。
どんなに心が沈んでいても、上忍としての務めを果たさなければならない。
俺は配下の中忍達を試すことにした。
味方における足手まといは二重の枷だ。本人の実力も問題だし、仲間の生命も危うくなる。それは、暗部で俺が骨身に染みて学んだことだった。
第八グループは七人。誰が使いものになるか。任務に支障をきたす奴はいらない。たとえそれが、ナルトであっても。
あいつと戦う。中忍試験以来だろうか。どれだけ成長しているのか。
中忍達を試しながら、俺はナルトの番を待った。
その日。申し渡した時間より遅れて、あいつはやってきた。
「・・・遅いぞ」
横を向いたまま言う。どんな顔をしたら安心するのだろう。あの、脅えた顔は見たくなかった。
「ごめ・・あっ、すいませんでした」
「では、始める」
「あっ、ちょっと待って・・・・ください」
何か言いたそうにしている。俺はナルトを見つめた。
「あのさ、サクラが言ってたんだけど・・・演習場つかうの、もっと加減しろって」
サクラだと?何が言いたい。
「火遁、使い過ぎて木が脆いから、アカデミーの生徒が演習できないんだってさ」
つまらぬことを。そう言えば、サクラは教官だったな。
「でもさ、一応アカデミーの演習場だし」
仕方がない。やり方を変えよう。
「えっ」
「火遁を使わなければいいんだろう」
言うと同時に距離を取り、俺はクナイを放った。ナルトが何か言いかけていた様だが、相変わらず甘い。自分より上の相手なのだ。不意打ちくらいやってもらわなければ困る。
では、試そう。
俺は気配を完全に消した。それは暗殺の技。背後にまわり、ナルトの頭上から攻撃した。
遅い。
ぎりぎりの状態であいつが避ける。追って、膝を腹に入れた。ナルトがくの字になる。なんとか着地した。
苛立つ。
何だ。この殺気の無さは。気合いも入っていない。
「二年間、何をやっていた」
思わず詰る。俺が耐えぬいた時間を、お前は何に使っていたのだ。
ナルトが身を捩って逃れる。口寄せ。不発だった。
ぎり。俺は奥歯を噛み締めた。
「修行不足も甚だしいな。精神統一がなってない」
お前は火影になると言った。なのに。この二年間、その場で足踏みしていたのか。
甘えるな。
お前は進まなければならないはずだ。
印を組む。見ろ。俺は前に進んだのだ。あの少年を犠牲にし、あらゆるものを踏み越えて。
『雷切』
敢えてその身に落とした。もちろん、手加減はしたのだが。
「・・・・やりすぎたか」
胸に火傷を負わせた。罪悪感。感情を制御しきれていなかった。だから、チャクラを出し過ぎたのだ。早く、手当てを。
「嫌だっ」
あいつの声。耳を疑った。
分かっていても堪える。そんなに傷つけてしまったのか。
「火傷をしている」
言い訳にしかならない。そう思いながらも、言葉が出てしまった。ゆっくりと手を退く。
「薬は、それをつければいい」
言い捨て、去ることしか出来なかった。
アカデミーの職員室で用事を済ませて、帰路に着く。
森の小屋。
二年前。あそこであいつを抱いた。
今日は呑まなければ、あの場所にいられないと思った。
いつまで経っても酔わない。
自分の身体が疎ましかった。耐性実験を経ている為、いくら呑んでも酔わない。それでも縋らずにいられなかった。
弱い自分。この部分だけは変えようがなかった。
気配を感じる。これはあいつの。
「サスケ」
声。俺の名を呼んだ。
「いるのか。おい、サスケ」
何故呼ぶ。お前は嫌だと言ったはずだ。
「開けるぞ」
戸が開けられた。あいつがいる。信じてはいけない。嬉しいなどと、思ってはいけない。
俺は拒まれている。
ナルトの姿を押し出すように、コップに酒を注いだ。
「あのさ。おれ、話があって来たんだ」
馬鹿馬鹿しい。どんな話があると言うのだ。
「酒、うまいか」
美味いとは思わない。あると少しましな気がするだけだ。
「サスケ、今日のことだけど・・・」
うるさい。
睨み付けた。瞳に脅えを見つける。それでも、あいつは口を開いた。
「あの、油薬、ありがと。それで、おれ、あの時」
くだらない。俺がつけた火傷だ。
「でも。せっかくおまえが・・・」
黙れ。
顔が見れずに横を向く。今お前を見たら、俺は自分を抑えられないだろう。だから、もういい。
「サスケ」
「もう帰れ。今日はゆっくり休め。俺も、やりすぎた」
やめよう。お前は与えられない。俺の望むものなど。今なら、まだ間に合う。
「サスケ!聞いてくれ!おれ、どうしてか分からないけど、あの時勝手に・・」
やめろ!
何かが弾けた。最後の堰だったと思う。後は止められない。
命じた声に、あいつが近寄ってくる。目の前に正座した。
構わない。
お前が俺を嫌おうと、俺はお前を欲している。
こんなにも激しく、荒れ狂っている。
「忘れるな。先に足を踏み入れたのは、お前なんだからな」
首筋を押え込んで言う。何故だ。何故、放っておかなかった。
そうすればお前のいない世界に行けた。あそこで彼に贖いながら、生きてゆくことができたのに。
力づくでナルトを制する。あいつは抵抗しなかった。
自嘲する。そうか、俺にはその価値も無いのか。
ならば、奪う。
求めてやまなかったものを、もぎ取らせてもらう。
侵入して、貪る。かき集めてくる。
俺の欲しいものなど、もうそこにはないと分かっているのに。
苦しげな声。徐々に弱くなってゆく。それでもやめられない。
自分のしていることを自覚しながら、俺は確かに満足していた。
『翼持てるもの』ACT2 籠の鳥編へ
鳥シリーズ本編『飛来』扉へ
戻る