*こっちのサスケとナルトは『鳥』シリーズの二人と人格違います。ギャグ仕様*
ご注意:このお話しは『月』シリーズと『鳥』シリーズ『飛来』〜『番い』を見ていないと全く分かりませんです。
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愛の暴走特急    by真也








 うっそうとした森の中を、一人の忍が駆け抜けていた。
 黒い髪、漆黒の瞳。額に汗がきらめく。枝から枝へ、目粉しく渡ってゆく。
 突然、手裏剣が彼の行く手を掠める。ひらりと躱して地上へと降りた。途端に、複数の男たちが囲む。
 皆、砂の国の忍だった。
「若いな。見たところ、伝令か。お前の情報、頂くぞ」
 男たちの中でも、一回り大きな忍が宣言した。
「やめろ」
「何っ?」
「俺は急いでいる。邪魔をするな。今は加減が効かない」
「はっ!小僧が!大口叩きおって。やれ!」
 男が指図した。一斉に忍達が飛び掛かる。
「ちっ」
 黒髪の忍が舌打ちした。素早く火遁の印を切る。赤い目が、光った。
「業火の術!」
 言葉と共に炎が辺りを取り巻いた。男たちは彼に触れることさえ出来ず、焼き尽くされた。
「けっ、急いでるって言っただろうが!」
 吐き捨て、彼、うちはサスケは走り出した。日没までに目的地へ、『喜八』につかなければ。一刻でも遅れれば、どんな仕返しが待っているやもしれない。
『もう二週間ほど、いてもらおうかな〜』
 のんびりとした声が頭の中に聞こえる。畜生。いつか、シメてやる!
 歯を食い縛って走った。今まで数々の任務に従事したが、これほど必死に走ったことはなかった。暗部でさえ、ここまで彼にさせることはなかったのだ。
『久し振りに、旨い酒飲むってのもいいねぇ。買ってきてよ。五、六本でいいからさ〜』
 唯一覗かせている右目で、にっこりと笑った。
 はらわたが煮えくり返る。しかし、奴は上官。奴が許可しないと任務は解けない。里へは帰れないのだ。
 立ち止まって、印をきる。写輪眼で最短の道を探る。疲れるとかなんとか、言ってはいられない。
「あっちか」
 つぶやいて、黒髪の上忍は駆け出した。





 うちはサスケは口をあんぐりと開けた。なんで、なんで奴がいるんだ?
 たった二週間の助っ人任務だからと、上層部に言われてここに来た。最前線だというのは、周りの景色でわかった。だが、それくらいはいい。しかし、しかしだ。そこにはいたのだ。
 『写輪眼のカカシ』が。
 「短期の助っ人って、お前だったの〜。何したのかな?こんな所まできて」
 言うや、斜めにかかっている額当てを、すっと外した。紅い目が覗く。サスケの顔が引き攣った。
 しばし、沈黙が流れた。
「ふーーーーーーん」
 カカシが言った。腕を組み、顎に片手を持っていって言葉を継ぐ。
「サスケも若いねぇ。いろいろ、無理しちゃったんだぁ」
「おい、何したんだよ」
 隣のアスマがにやりと笑った。こつんと、サスケの額をつつく。
「いや、若気の至りって奴だよ。ねぇ」
 右目だけで笑う。凶悪な微笑み。
 サスケにはそれが死刑執行人の笑みに見えた。
「ま、ゆっくりしていってよ。なんなら、二週間以上いてくれてもいいよ。俺が期間延長してもいいって話だから。ホラ、皆さんにごあいさつ」
「宜しく、お願いします」
「じゃあ、明日は歓迎会かな?久し振りに飲もうか」
「おっ、いいねぇ。で、カカシ。酒って何処にあるんだ?たしか、もう補給分は飲んじまったんじゃねぇか」
「あるよ」
「えっ」
「今回は奮発。『喜八』のお酒」
「おおっ。そりゃいいや」
「ねっ。サスケ」
「・・・・なんだよ」
「明日の日没までにお願いね」
「?」
「やだねぇ。早く買いにいかないと、間に合わないよ」
「何っ」
「ほら。早くいかないとね〜」
「カカシっ、あの・・」
「でないと任務期間、延長するよ」
 かくて、うちはサスケは最前線の砂の国との国境から、木の葉の里の居酒屋『喜八』までひた走ることになったのである。
 普通に移動すれば片道約三日の行程。それを往復一日でこなす。
 黒髪の上忍は今、肉体の限界に挑んでいたのだ。
 ガンバレ、サスケ!
「ちっ!」さっきのロスが痛い。
 舌打ちしながら、でも走る。
 日は真上を過ぎつつあった。





 うずまきナルトはその日、文遣いの単独任務に従事していた。任務もつつがなく進行している。
 この調子でいけば、日没までには家に帰れそうだ。
「サスケ、今ごろどうしているかな」
 ぼんやりと思う。離れるのは辛いけれど、たった二週間のしんぼうだ。暗部に行った二年とは違うのだから。
「サクラやリーを誘って、『喜八』でも行こうかな」
 やはり、さみしいらしい。
 あの時とは違い、サスケとナルトは心が通じた中だ。ついでに身体も通じている。
『たった二週間だろ。信じて待て』
 サスケの優しい笑顔が思い起こされる。その前の情事さえ思いだしてしまって、ナルトは首をちぎれんばかり振った。
「サスケ。おれも頑張っているぜ」
 遠い空を見上げて、ナルトはサスケを想った。




 そして日没。居酒屋『喜八』の主人は、のれんをよいしょと掲げた。
 仕込みは上々。今日も段取りよく、商売できそうだ。
 今日はどなたがいらっしゃいますかね。最近よく通ってくださる、うちはさんとナルトさんはいらっしゃるだろうか。うちはさんは筋がいい。カカシさんを髣髴とさせる舌の良さだ。そういえば、カカシさんはしばらく姿を見かけない。どうしてらっしゃるんでしょうかね。時々、家のほうには酒を届けさせて頂いているんですがね。やはり、お会いしたいでさあ。
 つらつらと、おやじは考える。ああ。日が、沈むねぇ。
「親父さん」
「ああ、ナルトさん。今日はうちはさんはどうしましたんで?」
「任務でさ、里を離れてるんだよ。だから、今日はこいつらと来たんだ」
「こらナルト。こいつらって何よ」
「まあまあ、サクラさん。しかし、いい感じのお店ですねぇ」
「だろ?おれとサスケのお気に入りなんだ」
「ごひいきにしてもらってまさあ」
 その時、日の沈んだ方角から、闇を背負って駆けてくる姿が現われた!
「あれ?」
「ねえ。あれって、似てるよね」
「はい、確かに。でも、今ごろ砂の国との国境じゃなかったです?」
「その通りなんだけどねぇ」
「でもっ、あれはサスケだ!」
 ナルトは駆け出した。そうだ、紛れもなくあの姿は、あいつだ。
 サスケが迫ってくる。おれのもとへ。
「サスケーーー!」
 叫んで、一瞬身が竦んだ。
 サスケは凄まじいまでの気迫で走ってきたのだ。しかも、写輪眼全開で。
 それは、イルカ先生を助ける時のカカシを髣髴とさせた。(参照:あなたの瞳にうつるもの)
 あいつが、来る。間近に。
 ナルトは目を見張った。サスケはおれに気付いてない!どうして。
 このままでは通り過ぎてしまう。
「サスケ!!!」
 力の限り叫んだ。サスケがこちらを向く。
「ナルトーーー!」
 絶叫と共に、ふたりはひしと抱き合った。
「サスケっ。サスケっ。会いたかった」
「ナルト。俺もだ」
「サスケ君って、いつ前線に行ったっけ?」
「たしか、三日ほど前です」
「ふーん、じゃ、トンボ返りなのね」
「でも、さすが上忍です。もう任務がおわったのですね」
「ちがうわ」
「えっ」
「たぶん・・・・・・・ぱしりよ」
 恋人達は、再会を喜び合っていた。ナルトの目尻に涙が光る。
「サスケ。おれ、待ってたよ」
「ああ。だが、俺は戻らなければならない」
「ええっ」
「許せ。これもお前の為だ。いいな」
「・・・・うん」
 ナルトが、思い切ったように顔を上げる。サスケはその顔が愛おしくて、唇を重ねた。
「おれ・・・・なんか照れます」
「捨てるものがないのよ。いろいろあったし」
 傍観者は首肯く。
「親父!ここに書いている酒をくれ」
 サスケがメモを『喜八』の店主に渡した。
「ああ。これは、カカシさんが好きな銘柄ですねぇ」
「すまん。急いでるから早くしてくれ」
「はいはい。只今」
「・・・ねぇ。さっきのラブシーンの方が、時間くってると思わない?」
「はい。青春ですねぇ」
「ナルト。俺は絶対、帰ってくる」
「ああ、サスケ。信じてる」
「じゃあな」
「うん」
 うちはサスケは、一升ビンを5本背負って、木の葉の里を去った。
 その姿は、山中いのをはじめとするくの一軍団がみたら、卒倒ものだったろう。
 ナルトはその姿が見えなくなるまで、手を振った。




 次の日の日没、うちはサスケはあお向けに倒れていた。服はボロボロ、あちこちに生傷が出来ている。疲労困憊な顔には、くっきりと目の下にクマが出来ていた。
「はーい。確かに五本ね。間に合ってよかったねぇ」
 カカシが、眠そうな眼で言った。
「しかしお前、命拾いしたねぇ」
「何がだよ」
「ナルト、許してくれたんだろ。優しいねぇ。さすがイルカ先生が育てただけある。でもね・・・」
 わざわざ言葉を切った。耳元に口を寄せる。
「俺がいたら、お前、殺してたよ」
 サスケの目が凝縮する。冷や汗がたらりと流れた。
「カッ・・・カカシ」
「俺も人のことは言えないけどね〜」
 ふわりと身を離す。
「さ、行こうか」
 写輪眼のカカシは、右目だけ笑って手招いた。
 うちはサスケは背中に寒いものを感じながら、それにしたがった。
 任務期間は二週間。出来るだけ早く帰らなければ。
 黒髪の上忍は固く、心に誓ったのであった。

 しかし、実際にはその倍の期間、そこに留まったという話である。
 
 記録によれば、その時の作戦は殊のほか早く終ったらしい。何でも、写輪眼が三つも戦場を駆け抜けたとのことだ。
 なかでも、短期の助っ人『うちはサスケ』の戦いは、さながら鬼神の様だったと聞く。



「カカシ。もう、帰っていいか?」
「ん〜。じゃあさ、あの砦取ってきてよ」
「・・・・・わかった」
「おい、カカシ。もういいんじゃねぇか」
「そうね〜。でも、これから無茶しないようにちゃんと教えなきゃね。ナルトはイルカ先生の大切な子供なんだから」
「なんちゅうか、その。カカシよ」
「なに?」
「それってな。舅が婿養子いびる様なものだぞ」



<END> 




『鳥』本編のシリアスな続編、『巣立ち前』もあります


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