君の見た風へ by真也
ACT5
耐性実験は週一のペースで続いた。補助物質と俺自身に耐性がついてきたこともあってか、副作用は殆ど差し障りないものになった。
俺は訓練を本格化していった。あと二ヶ月と少し。ここを出たら暗部だ。何としても、生き残らなければ。
「サスケ兄ちゃんってば。これでいいの?」
扇だった。構えの型をとったまま、見上げている。瑠璃色の瞳に、俺が映った。
ぼんやりとしていたらしい。
「ああ。そのまま右手を前に出してみろ。脇をしめろよ」
「うん」
俺は扇に護身術の基本を教え始めていた。今は役に立たなくても、ここを出た時必要になるはずだ。すじは悪くなかった。やはり血だろうか。
「ここまでにしよう」
「うん。じゃ、いつものとこ、行っていい?」
「・・・仕方ないな。ほら」
ため息をつきながら、俺はその場でしゃがんだ。扇が背につかまる。
「木登り。上手くならなくてごめんね」
耳元で恥ずかしそうに言う。相変わらず、木の上では足を滑らせていた。
「いい。俺の訓練になる」
そう言って、木に飛び上がった。扇を負ぶったまま、上へ上へと登ってゆく。とうとう木のてっぺんまで来た。
研究施設の中で一番高い木の上。扇はここに来たがった。
そこからは、微かに岩山が見えた。勿論、岩の国の領地ではないのだが。
その木の上で、俺達はいろいろなことを話した。扇は身の上ことを少しずつ。俺はうちはのことを話した。能力。血統。そして、ある種の家系にのみ現われる眼。写輪眼。
自分でも甘いと思った。忍でもない子供に一族の秘密を話すなんて。しかし、俺自身、誰かに話したかったのかもしれない。うちは一族のことを。
「サスケ兄ちゃん。それってどんな目なの?オレ、見せてもらっていい?」
「やめておけ。これは戦いの道具だ」
「・・・・うん。お兄ちゃんが言うなら、そうする」
写輪眼。凶々しい能力。人殺しの瞳。
扇には、似合わない。
「わぁ。やっぱり高いなぁ」
こわごわ、枝に掴まりながら、扇が下を覗きこむ。風に靡く、銀色の髪。日の光に煌めいている。
光る髪。あいつは金色だった。太陽の下で笑う。目に焼きついている。
里を離れる時、言いくるめた形で抱いた。夜具に包まって、とうとう出て来なかった。
ナルトはどうしているだろうか。自分を制した俺を、憎んでしまっただろうか。それとも。
「サスケ兄ちゃん」
あいつと同じ瞳が見つめる。
「訊いていい?」
「なんだ」
「お兄ちゃん、なんでここに来たの?オレと同じってワケじゃないでしょう?」
首を傾げて、不思議そうに訊く。
俺は少し迷った。が、話すことにした。
「強くなりたいんだ。だから、来た。強くなって、あいつに必要とされたいんだ」
「サスケ兄ちゃん、充分強いよ」
「もっと、強くなりたいんだ。忍術だけじゃなく。心も、身体も」
「そうかぁ・・・・」
扇が腕組みして首肯く。何を考えているのか。
「わかるか?」
「ちょっと、難しい。でも、これだけはわかるよ。あいつって、大切な人なんだよね?」
いたずらそうに訊く。顔に血が上がってゆくのが自分でもわかった。
「恥ずかしいこというな」
「兄ちゃん、顔、赤いよ?」
「うるさい」
軽くこづくと、声を立てて笑った。つられて、俺も笑う。久しぶりだった。
「でも、会ってみたいな。その人、どんな人なの?」
「大変な奴だ。強情だし、人の話聞かないし。手間ばっかりかかるし。でも、子供は好きだな」
「じゃ、遊んでくれるかな」
「たぶんな。あいつの頭、子供だから」
「わぁ。いいなぁ」
目を輝かせて言った。純粋無垢な瞳。言葉が出た。
「来てやるよ」
「えっ?」
「暗部を出て、里に戻ったら。事情を話せばあいつ、お人好しだからきっと来る」
「本当?きっとだよ。待ってるから」
「ああ。二年くらい、先になるけどな」
「オレ、当分ここにいるから。大丈夫だよ」
約束。今までそんなことしなかった。あの事件以来、いつ死ぬかわからないと思っていたから。だからこそ、生き残れるように自分を鍛えてきたのだ。
でも今、果たしてやりたいと心から思った。それが、扇の希望になるのなら。
ナルトなら来てくれるだろう。ブツブツ言いながらでも。案外、扇と会ったら気に入ってしまうかもしれない。こんなにいい子なのだから。
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