わらしべ中忍
   by真也






ACT5



 歩く度に漬物を入れた袋がガサガサと揺れる。そこから鼻を劈くようなニンニクやらショウガやらのにおいがする。
「大根ばかりだから、結構重いよな」
 がっくりと下がった肩のまま、うみのイルカは呟いた。先程の参考書も交換のあてがないと思ったが、これは更にないような気がする。
 ご近所とか配ったら嫌な顔されるかな。アカデミーの生徒たちに食べさせるとか・・・・・いかん。
 仮にも上忍が作っているのだ。身体に害はないのかもしれない。だが、鼻血を出したり、いつもよりハイな状態になる可能性はある。そうなると、イルカ一人で止めるのは至難の技だ。それこそ上忍クラスに頼まないといけないかも。
 頼みを聞いてくれそうな上忍はいる。ただし、そのあとが問題なのだ。
 視界の片隅に銀髪が見えた気がして、イルカは固く目を閉じた。見るまい。
「くさいわねぇ」
 魅惑的な高音に振り向く。後方五メートルの位置に人影。ナイスバディ。
「イルカちゃんじゃない」
 くの一上忍だった。
「紅先生。こんにちは」
「久しぶりねぇ。で、それどうしたのよ」
 顔の下半分をハンカチで押さえ、柳眉にを顰めている。中忍にとっては高嶺の花。心なしかドキドキしながらイルカは答えた。
「ガイ先生から頂きました」
「ああ。じゃあ、あれを掴まされたのね」
「ご存じなんですか?」
「ご存じもなにも、ガイが漬物に懲りだしてから困ってるの。なんせ、定期的に配達してくれるんだから。それ、効果は絶大だけど、部屋が臭くなってたまんないのよ」
「・・・・そうですか」
 効くのか。でも、部屋がくさいのは嫌だな。
 台所と四畳半、六畳な自分の家を思いだし、イルカはそう思った。
「それに。それ、上忍ならちょっとくさいで済むけど、それ以外の人が食べたら大変よ。出血大サービスってところね」
 やっぱり。業物漬物だったか。
「どうしよう・・・・」
 途方に暮れる。紅が覗きこんだ。イルカは言葉を継ぐ。
「これを、なにかと交換しなければならないんです。任務だから・・・」
 ちょっと半泣き。任務内容と今までの経過を説明する。紅はふんふんと聞いていた。
 イルカは挫けそうになっていた。この任務を果たさなければ、臨時手当ては出ない。出なければ、小銭で十日。
「ちょっとちょっと。イルカちゃん、泣かないで。なんとかしてみるから。ねっ」
「紅先生っ!」
 イルカは思った。女神様だぁ。くの一上忍はにっこりと微笑み、口寄せの術を使った。
 ぼわん。
 白い煙の中から現れたのは、髭を生やした上忍だった。
「おう。何の用だ」
「アスマ先生っ」
「イルカか。どうした?」
「ちょっとね。イルカちゃんを助けて欲しいのよ」
「はあ?」
 眉を顰めるアスマに、紅が説明した。
「イルカちゃんね。ガイのあれを掴まされたのよ。それを何かと交換しないといけないんだって」
「あれって、あれか?」
「そう」
「おいおい。あれを食えるのは上忍だけだぞ」
「だからね。アスマ、助けてあげてよ」
「助けるってねぇ・・・・」
 アスマが腕を組む。ちらりとイルカの袋を見やった。
「どれくらいあるんだ?」
「大根で五本です」
「じゃ、紅一本、俺二本。カカシが二本ってとこだな」
「ええっ?カカシに食べさせていいの?」
「大丈夫だよ。あれじゃあな」
 紅の問いにアスマがにやりと答える。くの一上忍も「あ、そっか」と納得したようだった。
「イルカ、うちに来い。それ、何かに変えてやる」
「ありがとうございますっ!」
 上忍二人に連れられて、イルカは足取りも軽く歩きだした。





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