わらしべ中忍 by真也 ACT6 アスマの家は郊外にあった。広い。家というよりは屋敷な建物。 「上忍ってすごいなぁ」 高い屋根を見あげてイルカは思った。ここならちょっと位くさいの置いても大丈夫だ。 「帰ったぞー!」 戸口でアスマが大声を上げる。はーいと子供の声がして、ぱたぱたと誰かがやってきた。 「おかえりなさーい」 「遅いぞ。気配で分かるだろが」 「うう。ごめんなさい」 それは男の子だった。七、八才に見える。銀髪に蒼い目。愛くるしくにっこりと笑う。 「お客様?あっ、イルカ先生だー」 あれ?オレを知ってる。こんな子教えたっけ。いや、小さ過ぎるから生徒の弟とかかもしれない。イルカは思った。 「触んないでよ」 「紅のケチー」 「おい。それ台所に持っていけ」 髭の上忍がイルカの持っていた袋を指す。 「わかったよーだ」 子供は漬物を受けとり、台所へと消えた。 「ま、せっかくだし。ちょっと飲んでいけや」 アスマにそう言われて、イルカは座敷に通された。すごい。ひと目で値が張ると分かる家具類。イルカはため息をついた。 いいなぁ。オレなんか、小銭だけなのに。でも、一食浮いてよかった。 自分に正直なイルカだった。 「まずはこれだな」 どんと一升ビンが置かれる。コップ酒が差し出された。 いい酒だあ。 ちびちびと味わうようにイルカはそれを飲んだ。今まで飲んだことのないまろやかな辛さと甘さ。美味だった。 「ねえ、なんかないの?」 紅が訊く。 「そうだな。おーい!つまみ持って来いー!」 アスマが大声を張り上げた。奥から「はーい」と声がして、先程の子供が何やら持ってきた。 「山芋短冊ね」 「おれはすりおろしたほうがいいんだよ。わざとだな」 「だってー。すりおろしたらお手手が痒くなっちゃう〜」 よく見れば子供は首輪らしきものをしていた。まさか。アスマ先生達に限ってそんな。思いきってイルカは訊いてみた。 「アスマ先生。つかぬことをお伺いしますが、あの少年は・・・・」 「あれか?あれはまあ、なんちゅうか」 「強いて言えば、あたしたちの奴隷ってとこね」 「何ですって!」 がたん。イルカは立ち上がった。ぐっと上忍達を睨み付ける。 「お二人とも酷いじゃないですかっ。こんないたいけな子供を奴隷だなんてっ」 「イルカ。話を聞け」 「いいえっ。ここは教育者として退きません。オレは子供を守りますっ」 ひし。銀髪の子供がイルカに縋った。細い肩が細かく揺れている。 「恐いのか?」 覗きこみ、イルカは優しく訊いた。子供は蒼い瞳をうるませてこくりと頷く。 「大丈夫だよ。今日はオレの所に来ればいい。明日、両親を探そうな」 子供が更にしがみつく。イルカはしっかりと抱きしめ、柔らかい銀髪を撫でた。 「アスマ先生!この子はオレが連れてゆきます。よろしいですね?」 「イルカ、ひょっとして・・・・」 「交換する。と、言って下さいましたよね?」 「アスマ・・・」 紅がアスマの袖を引っ張る。ひっそりと「気付いてないわ」と囁いた。アスマが困った顔をする。 「あのな、ちょっと聞け」 「ありがとうございましたっ。では失礼しますっ」 子供を抱き上げ、イルカは家へと走った。追っ手がかかるかと思ったが、アスマも紅も後を追って来なかった。 半時ほど駆けてイルカは家に帰ってきた。子供を奥の六畳に座らせる。 「大丈夫か?」 優しく訊いた。子供は怖かったのか、まだ震えていた。 「もう心配ないからな。今日はオレと寝ような」 こくりと子供が頷く。苦しいのか、首輪に手をやった。外そうとしている。 「そうだよな。こんなのして酷いよなぁ。今外してやるからな」 言いながら首輪に手をかける。首輪には印が施してあって、自分では外せないようになっていた。 「うーん。なかなか取れないなぁ」 ごそごそと緩める。あと少し。 「外れた!」 ぼわん。 首輪が外れたと同時に白煙。イルカは辺りを見回した。子供がいない。 「イルカ先生ーーーーー!!」 後ろから羽交い締めにされた。この声。この腕。紛れもない。あいつだ。 中忍の後ろには、銀髪の上忍が貼りついていた。 「わ、わあぁぁぁっ」 「ん、もうっ。イルカ先生たら、嬉しがっちゃって〜」 「え、な、なんでっ」 ぱくぱく。口を開ける中忍。 「イルカ先生、かっこよかったですよう。実は俺、あいつらと賭けて負けちゃいましてね〜。で、三日ほどあそこで召し使いやってたんですっ。首輪に印あったでしょう?あれで俺、脱走できないし子供のまんまなんでどうやって逃げようか考えてたんですよう〜。いや、助かりました!」 何をしたんだ自分は。この男を助けたと言うのか。なんてことだ。オレの馬鹿〜。 イルカは叫びたかった。だが、声が出ない。 「じゃあ、今日は俺、精一杯イルカ先生にお礼させて頂きます!台所でガイの漬物も食ったし」 なんだと。あの、ニンニクやらなんやらの漬物を食ったってか?普通の人が食ったら大出血なんだぞっ。 「いっきまーす!」 「ぎゃーーーーーー」 押さえつけられた中忍が叫ぶ。その声だけが虚しく夜に消えた。 翌々日。 うみのイルカははたけカカシを通じて、わらしべに関するレポートを火影に提出した。 そこにはわらしべとその交換内容についての詳細な記述がなされていた。が、ただ一つ。 漬物と換えた子供のその後については記載されていなかった。かわりに、『任務手当ては即金でお願いします』と、涙に濡れた文字で書かれていたという。 終わり |