わらしべ中忍
   by真也






ACT4



「重いよなぁ・・・」
 分厚い本を抱えながら、うみのイルカは一人愚痴った。イルカだって教師だ。授業の準備やらで分厚い本を何冊も抱えたことくらいある。でも、今回はそれだけじゃない。重いのは紙の重さだけではない。中身が重いのだ。
「これ、本当に誰かが交換してくれるんだろうか」
 ちょっと不安になる。いっそのこと、本好きな人でも訪ねてみようか。知り合いの中に、一人くらいはいるはずだ。
「あ・・・・やばい」
 本好きな上忍を一人、思いだしそうになる。そういえばここ二、三日見かけない。今まで幻覚が見えそうになるくらい、自分にまとわりついて来たのに。
「やめよう」
 無理やり思考をシャットダウンする。ちょこっとでも考えてたら、念が伝わってどこからともなく湧いてでるかもしれない。今は任務だ。
「でも・・・なぁ」
 また最初に戻った。思考が堂々めぐりになっている。不毛。
 歩こう。考えても仕方ない。今は何も考えずに歩き続けるんだ。そうすれば道は開かれるかも知れない。イルカは黙々と歩き続けた。
「うむ。重そうだな」
 漢らしい声に振り向く。おかっぱ。味つけ海苔の眉。背中に背負われた山のような大根。そこには青春上忍が立っていた。
「ガイ先生、お久しぶりです」
「おお。イルカ、えらく重そうな本だな」
「エビス特別上忍に頂きました。ガイ先生こそ、大量の大根ですね」
「なに。これくらい何でもない。鍛錬がものを言うのだ」
「はあ・・・・」
 イルカはため息を吐いた。そりゃ、イルカも努力は怠らないたちだが、この上忍の努力は次元が違う気がする。
「疲れておるようだな」
「朝から歩き通しだもので・・・・」
「任務か」
「はい・・・・」
「差し支えなければ、聞いてやらんことはないぞ」
 にっかりと歯が光る。青春スマイルだ。でも、ちょっと嬉しい。
 イルカは説明した。わらしべのことを。いろいろ交換してこの本を持っていることを。青春上忍は深い懐で聞いてくれた。いい人だ。
「なるほど。では、その本を何かと交換しなければならないのだな」
「そういうことです」
「それではイルカ、俺の家に来い」
「ガイ先生の家・・・・・ですか?」
「おう。交換出来るものがないわけではないからな」
「ありがとうございますっ」
 イルカはちょっと目が潤んだ。青春上忍、やっぱりいい人だ。すぐ見返りを要求する誰かと大違い。
 期待を胸に、イルカはガイの後に続いた。




「漬け物石を探していたのだ」
 ぬか床を掻き回しながら、青春上忍は言った。立ち籠める匂い。ぬかだけじゃない。ニンニクやしょうが、微かにみょうがも入っているかもしれない。
「健全な身体は適切な運動と、バランスの良い食生活で作られる」
「で、漬け物ですか」
「おう。主食は米が基本だからな。日本人はご飯だ。ご飯には漬け物であろう!」
 力説している。たしかに、白米と漬け物はうまい。でも、ものによるかもしれない。
「ともかく。五、六本持っていくがよい。遠慮は無用だからな。青春の味がするぞ。題して青春漬け!」
 袋に青春漬けを放り込んでいく。イルカは呆然とそれを見つめた。
「・・・・・・ありがとうございました」
「うむ。それなら交換のしがいがあるであろう!がんばれよ」
 強烈な臭気の漬物を手にイルカは振り返る。青春上忍がちぎれんばかりに手を振っていた。
 大きく肩を落としながら、中忍は歩きだした。





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