わらしべ中忍
   by真也






ACT2



「うろつくっていってもなぁ・・・・」
 うみのイルカは困っていた。火影から預かった一本のわらしべ。これを持って里を歩き回れと。乞われればこれを何かと交換しろと。交換を重ねていった結果、何が起こるか報告せよと。それが今回の彼の任務だった。
「とりあえず、ブラブラしてたら何とかなるのかな。まあ、誰も交換したがらなければ、『何もなかったです』って、火影様に言えばいいだけだもんな」
 できればなにも起こって欲しくない。イルカがそう思いながら歩いていた時だった。向こうから誰かくる。ほっそりとした身体。青白い顔。目の下にクマ。
「こんにちは。ゲホッ」
 それは月光ハヤテ特別上忍だった。
「お久しぶりですハヤテ特別上忍。いい天気ですね」
「はい。今日は温かくて助かります。寒いと手足が痺れて上手く動きませんから。血圧も低いですし」
「そうですか。オレは血圧ちょっと高めだから、ある意味羨ましいですが」
 どことなく噛み合わない会話の二人だった。
「あの」
 じとり。ハヤテが何やらこちらを見つめている。視線の先にあるのは。
「それ、何ですか?」
「あ?ああ、わらしべですよ。火影様から頂きました」
「そうなんですか。では、いけませんね」
「はあ?」
 意味が分からず首を傾げる。ハヤテは苦笑しながら答えた。
「いえ。今日は口内炎が口の中に五つもあるんです。ですから、ものを食べるのがおっくうで。そのわらしべをストロー代わりに使えば、これが飲めるなと」
 手に持った瓶を見せる。中身は、緑色の液体。
「ハヤテ特別上忍、それは・・・」
「ああこれですか?私の特別ブレンドの青汁です。ケールをベースにモロヘイヤも加えてみました。ちょっとトロッとしているのが特徴です」
 げっ。イルカは息を飲みこんだ。想像するだけで健康そうだ。
「すごく・・・・・身体に良さそうですね・・・・」
「はい。おれが心血注いで作り上げました。いかがですか?」
「いえ・・・オレはちょっと・・・・」
 言葉を濁す。いくら財布が心もとなくても、やっぱりこれは遠慮したい。
「あのあのっ。これ、差し上げましょうか?」
「いいんですか?たしか、火影様から頂いたと」
「はい。ただ、一つだけ条件があって、何かと交換しなければいけないそうです」
「交換ですか・・・・」
 ハヤテは首を傾げて考えていた。ふと思い出したように手を叩く。
「何でもいいんですか?」
「いいみたいです」
「では、これではどうでしょう」
 顔色不良の特別上忍は、ポケットから白い布を出した。いや、布ではないマスクだ。
「交換できるものといえば、これ位しかありませんが・・・・」
「結構です。交換しましょう」
 イルカは微笑み、わらしべとマスクを交換した。
「ありがとうございます」
「いえ。こちらこそ。しかし、ハヤテ特別上忍ってこんなに身体に気をつけてらっしゃるのに、どうしていつも顔色悪いんでしょうね?」
「ぐっ。・・・・さ、さあ。な、何故でしょう。ゲホゲホゲホッ」
「あ、すいません。どうかお気になさらず」
「いいえ・・・それでは、おれはこれで・・・・」
 よろよろと進むハヤテを、手を振ってイルカは見送る。人助けをしたような気分。気持ちいい。それに、イルカだってわかるのだ。口内炎は辛い。
「よく含嗽してくださいね」
 保健指導のようなことを思いながら、イルカはまた歩きだした。




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