わらしべ中忍
   by真也






ACT1



 人生にギャンブルはつきものだ。そういうことを言う人がたまにいるが、そんなのは自分に関係ないと思っていた。が、しかし。
 うみのイルカは財布を覗きこんで、深いため息をついた。もしかしたら、オレにも関係あるかもしれない。そのギャンブルと言うやつが。真剣にそう思った。
 財布は結構重かった。けれど、中はすべて小銭。給料日まではまだ十日もある。
「今月、交際費が多かったからなぁ・・・」
 苦笑して思いだす。押しに弱いイルカは、きっぱりと断ることが苦手だ。相手の気持ちがわかってしまうから断れない。結果的に色々と先立つものを使うことになる。
「あれも・・・・きつかったよな」
 先日ナルトやサスケ、サクラとラーメンを食べに行った。
「なあなあ先生、おごってくれってばー。下忍手当て、ぎりぎりなんだって」
 碧い目をきらきらと輝かせ、ナルトはせがんだ。生来イルカはこの手の表情に弱い。思わず「仕方ないな」と頷くと、そのとなりでサスケが見つめていた。サスケも一人暮らしだ。懐はナルトと変わらないのだろう。
「わかった。三人とも、奢ってやるよ」
 言った時には遅かった。財布の中の最後の札が、四人分のラーメンに消えた。で、小銭が残る。
「困ったなぁ・・・」
 間の悪いことに日頃の貯えも先日の同僚の出産祝に消えた。いつも世話になっている同僚だけに、それは外せない出費だったのだ。
『借金とか前借りとかは怒られそうだけど、火影様に相談に乗ってもらおう。何か、臨時の仕事でもあるかも知れない・・・』
 一縷の望みを託して、イルカは火影屋敷へと向かった。




「ないことはないんじゃがな・・・・」
 三代目火影はしわくちゃの顔を更に顰めて呟いた。イルカの顔がぱっと輝く。
「はいはいっ。オレ、やりますっ」
「では、どれがいいかの。一日暗部体験レポート、暗殺の手順マニュアル作成とS級任務。これはくの一のかわりにお色気の術で女になって行かねばならん。それと・・・・・そうじゃ、暗部研究所で新薬のモニターというのもある」
「火影様」
「何じゃ」
「その、もっと中忍らしい任務はないんでしょうか?」
「贅沢じゃな。ええと、それではあれくらいかの。ついて参れ」
 火影は何か思いだしたようだ。文庫へと移動し、戸棚をがさがさと探している。なにか見つけた。
「あったぞ。イルカ」
「失礼ですがそれ・・・・・何でしょうか?」
「見てわからんか?」
「外見は、わらしべに見えますが・・・・」
「そうじゃ、わらべじゃ」
 イルカは呆然とした。わらしべは食えない。食えたとしても、腹は膨れない。あと十日間、どうすればいいのだ。
「火影様っ」
「半泣きじゃな。慌てるでない。このわらしべには印が結ばれておる。これを乞うものと交換するのじゃ。交換したものも乞われればどんどん取り換えい。さすれば・・・・」
「さすれば?」
「結果は分かっておらん。それを調べて欲しい」
「・・・・・・・はあ」
 なんとも面妖な。それにしてもこんなわらしべ、欲しがる奴はいるのか?イルカは思った。あいにく上司の前なので、口には出さなかったが。
「やるか?やるなら、任務後即金で報酬を払うぞ」
 即金。それは助かる。中忍は飛びついてしまった。
「やりますっ。で、どうしたらいいんですか?」
「どうもない。そのわらしべを持って、里をうろつくだけじゃ」
「それだけですか?なら何故、だれもそのわらしべを試さなかったのでしょうか?」
「さあな。結果がわからんからじゃろう」
「・・・・・そうですか」
「行け。これも任務じゃ」
「ある意味、辛い任務ですねぇ・・・・」
 何となく納得できない。でも、今は背に腹は替えられない。おとぎ話だって、わらしべは取り換わったのだ。長者という幸運に。もしかしたら、オレにも運が回ってくるかもしれない。
 僅かな期待を胸に、うみのイルカは火影屋敷を後にした。



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