ナイショの夏〜お稽古カカシシリーズ過去編2:カカシside by真也







ACT8



「アスマ隊長!それはどういうことですかっ」
 イルカが身を乗り出して言った。思ったとおりの反応だった。
「どうって、言葉のままの意味だ」
「里に情報を送らなくていいなんて、おかしいです」
「おかしいかおかしくないだろうが、これは命令だ。わかるな?」
 諭すようにアスマが切り替えす。イルカがぐっと唇を結んだ。
「納得出来ナイノハ、ワカリマス。デモ、状況二ヨッテハコレモ必要ナンデス」
「暗部さん・・・・」
 俺のフォローに、イルカが顔を向けた。縋るような目。すぐに俯いてしまった。無理もない。
 本当はこんなことしたくなかった。力で押さえつけるなど。でもイルカの性格上、本当のコトを知らせるよりは、上司命令で誤魔化した方がいいと思ったのだ。
「・・・・・出過ぎたことだとは思っています」
 イルカが顔を上げた。まっすぐにアスマを見据える。
「でも、一つだけ教えてくださいっ!お願いしますっ」
 切羽詰まった表情。仲間がそれを真摯に受け、言葉を返した。
「言え。聞いてやる」
「ありがとうございます。では教えてください。このことは・・・・・・・オレが原因なのでしょうか?」
 神妙に。すこぶる神妙にイルカが訊く。俺もアスマも意味がわからず、顔を見合わせた。
「どういうことだ?」
「オレはきちんと暗号解読できていなかったから、任を解かれたのでしょうか」
「はあ?」
 アスマがすっとんきょうな声を上げた。俺も苦笑する。なるほど、そういうことか。イルカらしいねぇ。
「お前さん、そりゃちがうぞ」
「でもっ、里に情報を送らなくていいと言うことは、オレが解読してきた情報が間違っていたからじゃないんですかっ」
 悲壮な顔で、言う。
「安心しろ。お前の解読は正しかったよ」
 半分頭を抱えながら、アスマが宥めた。
「ならば、どうしてっ」
「落チ着イテクダサイ」
 詰め寄るイルカに声が出た。黒い目が再び、こちらを向く。
「アナタノセイデハナインデス。デスカラ、安心シテクダサイ」
 下手な台詞。分かってる。これではイルカは納得しない。
「・・・・・安心は、できません」
 しばらく押し黙った後、はっきりとイルカは言った。言葉を継ぐ。
「いくさ場において情報がどれだけ大切かくらい、オレだって知っています。それを敢えて封じるのということは、きっと何か事情があるのだと思います。でも、オレは暗号解読と連絡要員としてここに来ました。なのに、オレだけ何もせず、安穏としているわけにはいきません」
「・・・・・・」
 言葉がなかった。俺はイルカを巻き込みたくなかった。だから、こうした。でも。
 俺のしたことは、間違っていたのだろうか。
「言うぞ」
 ぼそりと仲間の声がした。アスマがこちらを見ている。
「仕方ねぇだろ。こいつはこいつなりに木の葉のことを必死で考えているんだ。それを、無為にするわけにはいかねぇ。違うか?」
 意志を現わす目。諦めて、俺は首を縦に振った。
「龍髯の周りに巡らせていた『草』が全部、雲の奴らに操られていた」
「ええっ」
 イルカが目を見開く。
「『草』達が送ってくる情報は、全部デマだったんだよ。デマは里に送れねぇ。わかったか?」
 覗きこむように、アスマが言った。
「・・・・そんな。じゃあ、オレが今まで送った情報は・・・・」
「全部嘘だ」
 愕然。イルカがそんな顔をする。相当ショックが強そうだ。予測はしていたけど。
「そういうわけだから、命令を聞け。な?」
「・・・・はい」
 アスマに促され、イルカが小さく頷いた。
「だがなイルカ。まだ終わったわけじゃない。それを逆手に、あっちを攪乱するってことも出来る」
「アスマ!」
 そこまで言わないでよ。俺は仲間を睨んだ。『しょうがねぇだろ』という顔が応える。
「午後には新しい作戦の発表と指示が出される。それまで待機しろ」
「わかりました」
「下がれ」
 アスマの命にイルカが頭を下げる。くるりと背を向けた。部屋を出てゆく。俺は後を追った。
 長い廊下を自分のあてがわれた部屋へと進む。イルカは俯きかげんで、淡々と歩いていた。


 怒ってるかな。

 
 つのる不安を隠して歩いた。ぴたり。イルカが立ち止まる。俺も足を止めた。
「訊いていいですか?」
 強ばった表情。俺は頷いた。語が継がれる。
「『草』たちの情報ですが・・・・暗部さんが調べたんですか?」
 震える声。素直に「ハイ」と告げた。イルカがやっぱり、という顔をする。
「アノ、コレダケハ聞イテクダサイ。俺ハアナタヲ疑ッタワケジャ・・・」
「わかっています」
 俺の言葉を遮り、言った。黒い瞳が見据える。ふっと視線が落とされた。
「何となくは気付いていたんです。暗部さんが昨夜いらっしゃらなかった時点で、確信しました」
 困ったような笑み。何も言わなかったことを、後悔した。 
『すみません』
 遠話。イルカの声が頭に響いた。
『オレがちゃんとしていれば・・・・・こんなことには』
 完全に会得出来たそれが、胸を打つ。
「先に、部屋へ帰ります」
 それだけを言い捨て、イルカが走り出した。背中が小さくなってゆく。
 俺は何も言えず、そこに佇んでいた。

 その日の午後、砦の者が一同に集められ、新しい作戦が発表された。



ACT9

戻る