ナイショの夏〜お稽古カカシシリーズ過去編2:カカシside by真也







ACT7



「やーな予感って大抵、当たるんだよねぇ」
 龍髯近くにある猟師小屋で、俺は独りごちた。足元に転がる男を見やる。男は意識を失っていた。
「ここがやられてるってことは当然、町の『草』達もやられてるな」
 そこは、もっともわかりにくい『草』の潜む場所だった。猟師に扮していたこの男は、一定の位置には留まっていない。常に移動し続けている分情報量も多く、正体がバレにくいはずだった。
「問題はいつ、術をかけられたかだねぇ」
 俺は写輪眼を見開き、そいつの呪印を確認した。まだ新しい。ということは、つい最近暗示をかけられた可能性が高い。
「案外、じーさんに情報送った後だったりして」
 三代目火影は龍髯の動きの気配を掴んでいた。その前から操られていたのならば、わざわざ高坂の戦力を増強させる情報は流さないはずだ。
「ま、取り敢えず、調べてみようか〜」
 言いながら印を組んだ。緊縛術をかけた上で意識を戻す。目覚めた男は、眼球だけを動かし様子を伺おうとした。
「気付いたの〜?」
「・・・・・・ひっ!」
 男の目が大きく開いた。その中に恐怖を見つける。ああ、そう。知ってるんだ。今は髪の毛だって元どおりだものねぇ。
「あちらさんに遠話送っても無駄だよ。結界張ってるからね」
 にやりと不敵に笑ってやる。男の額に汗が流れた。
「アンタ、俺が誰だか分かってるみたいだし、手っ取り早くていいよ〜」
「・・・・う!ううっ!」
 男がもがこうとした。駄目だねぇ。オマエに術が解けるわけないじゃん。『写輪眼のカカシ』の緊縛術だよ?人形は人形らしく、もっとお行儀よくしなきゃね。
「さーあ、始めるよ」
 のんびりと宣言して、男の髪を掴んだ。こちらを向けさせる。脅えた両眼を写輪眼で見据えた。


 簡単だよ。
 暗示には暗示。
 前にかけられたものより、更に強力な暗示をかけてやればいい。
 先の分を打ち消してしまう位のものを。


 紅い眼を通し、男の頭を覗きこむ。雲の術者は『草』自体の人格を破壊していた。その上で、操りやすい人格を植えつけたようだ。 
 災難だったねぇ。でも、やられたお前も悪いんだよ。『草』なら、バレないようにしなきゃ。
 そんなことを考えながら、俺は写輪眼を回した。


 瞳術。
 男の脳を塗り替える。
 従順な、木の葉の僕に。
 見開かれたままの男の目が、完全に焦点を失った。


「雲の奴らの情報は全部、流してよ」
 戸口で振り向き、俺は僕に言った。男がこくりと頷く。
「また来るから」
 男の返事を確認して、俺はその小屋を出た。行く先は龍髯の砦。夜明けには間に合う。この目で確かめなくては。どのくらい、コトが進んでしまっているのか。
「ほーんと、こき使ってくれるよ。イルカの護衛だけだったのにさー」
 これは別口のボーナスを請求しなくちゃ。
 そんなことを思いながら、俺は木々を駆けた。





「やばいとは思ってたが、そりゃ頂けねぇな」
 差し込む朝日を受けながら、アスマが言った。嫌そうに溜め息をつく。
「でしょ?かなりこっそりコトを運んでたみたいだから、分かりにくかったかもそれないけどさ〜。ちょっと油断し過ぎ、だったよね」
 だらしなく卓にもたれながら、俺は言った。
 龍髯の砦には、物資や人が次々と運びこまれていた。いかにも、である。
「とにかくさー。やっこさん達、相当溜め込んでるみたいよ」
「けっ、めんどくせぇ」
 ぼやきながら忍服を探っている。煙草を探しているらしい。
「で?三代目はなんて?」
「増援くれるってさ」
「妥当なとこだな。いつ着くんだ?」
「二日待てって」
「二日、ねえ・・・・・」
 煙草をくゆらせながら、同僚が呟いた。白い煙が漂ってゆく。窓の外へと流れ出た。しばらく沈黙。
「どうすんのー?」
「お前こそどうするよ」
 ぼそりとアスマ。薄い色の目が俺をとらえる。
「あのねぇ、お前が隊長でしょ?」
「まあ、そうだな」
 小首を傾げて訊くと、他人事のような返事が戻ってきた。
「二日待つもよし。あっちの準備が整わないうちに、仕掛けちゃうもよし。どっちでもいいんじゃないの?」
「まあな。で?」
 じっと見られる。気持ち悪くなって口を開いた。
「何よ」
「この隊に正式に所属してない、お前はどうするんだよ」
 何かやるだろ。漂う言外の意味。見透かしたような表情で、仲間は俺を見ていた。人が悪いねぇ。
「どうでもいいでしょ。俺はおまけだもーん」
「そうはいかねぇ。おまえさんの動き次第で、おれ達はなんとでもなっちまうからな」
「いやん。アスマちゃんたら買いかぶりー」
「うるさい。さっさと言え」
 じろりと睨まれた。まったく。ちょっとくらい遊ばしてくれてもいいのにねぇ。ま、つきあいも長いし、仕方ないか。俺は大きく息を吸い込んで、言った。
「ちょっとね、面白いこと仕入れて来ちゃったのよ。これをもとに、ちょっと突いちゃおうかなーって」
「そんなことだろうと思ったぜ」
 目の前で盛大にため息を落とされる。あらら、苦労性ねぇ。
「もともと龍髯の内部は一大結束ってわけじゃないのよ」
「と、いうことは・・・・」
「そう。どこでもいるのよね〜、力がないくせに頭になりたがる奴って。そういう奴って、功を焦るんだよね」
「なるほどな」
 にやり。仲間が笑う。紛れもなく、それは上忍の顔だった。
「でもね、この計画をやるには若干一名、面倒な人がいるんだよねぇ」
「面倒?誰だよ」
「アスマ、のる?」
「おれがのろうがのるまいが、お前はやんだろうが」
「先に返事くれなきゃ、イヤ〜」
 首をプルプル振って、上目づかいに見つめた。同僚がこめかみを押さえる。諦めたように口を開いた。
「・・・・・・・何すりゃあいいんだ?」
「うふふ、ありがと。交渉成立ね」 
 満面の笑をたたえながら、俺はその人物の名を言った。  



ACT8

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