ナイショの夏〜お稽古カカシシリーズ過去編2:カカシside by真也







ACT4



 暗部アレルギー。
 半年前、俺はそれに気付いた。イルカが体中にブツブツを出す。それは、決まって暗部の者と接触を持った後だったから。かゆみは任務に支障をきたす。結果。自然と第一線の任務から、イルカは外されるようになっていた。
『俺のせいだ』
 理由はわかりきっていた。あの時、俺がイルカにしてしまった事。それ以外、あり得なかった。
 一年前、俺はあの術と写輪眼でイルカの記憶を封じた。でも、身体は覚えていたのだ。俺が与えた恐怖を。それが暗部アレルギーと言う形になり、今もイルカを苦しめている。
『なんとかしなくちゃ』
 そう思った。本当はもっと成長するまで、イルカの前に現われる気はなかった。だけど。
 このままじゃイルカは忍としてやっていけない。イルカの未来を封じてしまうこと。それだけは何としても避けたかった。
 自分の持てる力を尽くし、イルカの暗部アレルギーを治す。
 その為に今回の計画を打ちたてた。避けてるだけじゃ、いつまでたっても治らない。少しずつ、被害の小さい形で接触しなければ。そして、イルカの中の『暗部』を変えなければ。
 その為俺は、いくつかの芸を会得した。





「よおし、各自決められた部屋へ行けよ。何かある奴は、早めにおれん所来い。いいな」
 アスマの声に、忍達がばらばらと散らばっていく。決められた部屋で引き継ぎを受ける。一晩過ごして、やっと任務開始だ。
 木の葉の里を出て二日、おれたちは高坂の砦に来ていた。ここでイルカの任務が始まる。
「おい」
 聞き慣れた声に振り向く。アスマだった。
「何よ」
「部屋のことだが。お前の言う通りにしたけどよ、その、大丈夫か?」
 言いにくそうに訊かれる。本当、身体に似合わず心配性だねぇ。
「ダーイジョーブよ。俺、うまくやるから。バレないって」
「それを言ってるんじゃねぇ。坊やのほうだ。おめえといると、あれが出んだろうが」
「だろうね」
「・・・・いいのかよ」
 ぼそりと問われた。ちょっとおかしくなる。俺も成長したねぇ。こいつの気遣いがわかるようになったんだから。
「いーのよ」
 あっさりと返した。アスマの色素の薄い瞳が見開かれる。俺は言葉を継いだ。
「あれが出るのは当然なのよ。ソレだけことがあったんだから。それと、坊やはないでしょ。あの人、俺より年上なんだから」
 一応牽制する。仲間は肩をすくめた。
「へいへい。ま、がんばんな。おりゃあ、打ち合わせ行くからよ。じゃな」
 くるりと踵を返す。俺は手を振って見送った。アスマが小さくなったところで心を切り換える。さあ、これからだ。
 うまくできるかわからない。でも、うまくやってみせる。これ以上、失敗は利かないのだ。
 俺は俺の舞台に向かい、床を蹴りだした。





「あの・・・・すいません」
 死にそうな声。イルカが謝る。赤い顔。ブツブツとまばらに発疹。模様みたいな。
「その、医療部からもらった薬はあるんですが、眠くなるんで飲んでないんです」
 今日は会って二秒後に反応がでた。
「もしお気に触るようでしたら、オレ、別の部屋にっ」 
 焦ったように背を向ける。扉の前に行こうとした時、俺は用意したものをイルカの足元に投げた。イルカの足が止まる。
「イカナクテ、イイヨ」
 チャクラでそれを動かしながら、腹話術で話をさせた。イルカの目が点になっている。
「オレハ、アノヒトノ僕デ、『パックン』デス。アノヒトノ代ワリ二、アナタトオ話シシマスネ」
 俺が投げたもの。それは、両手で抱えられるほどの犬の人形だった。俺の髪の毛を仕込んでるから、チャクラで自由に動かせる。
 何が起こったかわからない。そんな顔で、イルカが俺とパックンを交互に見る。ま、当たり前だよね。
「アノ人ノクレタ薬ハ、効キマシタカ?」
 パックンに自分を指差させ、イルカに訊く。イルカは少しの間呆然としていたが、思い出したように口を開いた。
「は、はいっ、ありがとうございますっ!ええ、もう、あの薬はよく効きましたっ」
 こくこく。米つきバッタみたいに首を振る。なんだか可哀想になってきた。俺は印を組む。傀儡の術。チャクラの糸を操って、パックンをこっちに来させた。トテトテ。パックンが俺のほうに歩いてくる。
「わあ・・・・なんか、本当に生きてるみたいですねぇ」
 目を顔の半分くらいにしながら、イルカがパックンを見つめている。痒いのも忘れているようだ。生き生きとした瞳。あの夏の日、最初に出会った時みたいな。よかった。俺は嬉しくなった。
「ハイ、ドウゾ」
 パックンに先日渡した薬を持たせ、イルカのもとへと運ばせた。イルカが恐る恐る手を出す。パックンが薬を手に落とした。
「効クナラ飲ンデクダサイ。痒クナイ方ガイイデショ?」
 パックンに竹筒を運ばせる。イルカがまだ信じられないと言った顔で、薬を飲んだ。水で流し込み、ホッとひと息つく。
「ありがとうございます」
 やっと落ち着いた声を聞いた。普通の声。イルカの声。
「アナタノ身体ガ『暗部』二慣レルマデ、『パックン』ヲ通シマショウ。イイデスカ?」
 できるだけ接触の少ない方法を考えて、こうした。『パックン』は『暗部』じゃない。だから、反応も少ないはずだ。ただのこじつけかもしれないけど、『暗示』にはなる。
「はい。あの、宜しくお願いしますっ」
 ペコリ。イルカが頭を下げた。俺とパックンも丁寧に、四十五度のお辞儀をした。



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