ナイショの夏〜お稽古カカシシリーズ過去編2:カカシside by真也







ACT12



 辛気くさい戦いだねぇ・・・。
 そんなことを考えながら、緊縛印を弾いた。攻撃結界をはる。本当、やってられないよ。
 目の前の奴が瞳術使いだと知った時、俺は認識した。こいつはおそらく、『草』達を操作していた術者だろう。
 斬り合いとか爆砕とかの方が、好きなんだけどねぇ。
 そう思いながら、相手の結界を押す。相手が忍でなく術者であるため、術中心の戦いを余儀なくされたのだ。
 お互い瞳術使いってのも、まずかったよね。
 瞳術さえ使えればもっと早く決着がつくはずだった。でもそれは無効。お互いがお互いの瞳術を跳ね返している。俺が『うちは』で両眼写輪眼だったら、もっと楽だったかもしれないが。
 ああもう、しつこいねぇ。
 半分呆れながら、距離を取った。印を重ねて術を立て直す。また同じことの繰り返しだった。数種の術をぶつけ、体勢を整える。そして他の術で攻撃。それはまさに、持久戦だった。
 しっかし。こーんなことしてたら、雲側の兵に見つかっちゃうよね。
 徐々に近づいてくる、大勢の気。龍髯の雲の国軍は、こちらに向かって来ていた。正直、こいつが現れた時点で、騎虎は打って出ないかもしれないと思った。
 ひょっとして、こいつを飼ってたのが騎虎だったりして。
 それならつじつまが合うと思った。騎虎は俺が焚きつけなくても、高坂攻めの首謀者だったとしたら。時期の前後はあったとしても、こいつにとっては予想通りの結果だったのかもしれない。
 だとすれば、俺をねらったのは『草』のことでの仕返しというところだろう。
 そろそろ決着つけないとね。
 戦いに費やした時間を考える。イルカは高坂の砦に無事ついたろうか。俺の目前にいる奴以外、高坂付近に怪しい気は感じなかった。それに、パックンも持たせている。
 んじゃ、とっときいくよっ。
 いきなり防御結界を解いた。おびき寄せて待ち構える。気付いた奴が迫ってきた。印を組んで、タイミングをはかる。


 もう少し。
 もうちょっとだけ。
 今だ。


 口呪と共に右手を振り下ろした。銀色の結界。奴を捕らえた。
「よーし、かかったねぇ」
 結界の中で奴がもがく。どうやら緊縛術をかけるつもりだったらしい。俺にかかるべき術が、術者自身にかかっている。みるみる奴の肌が蒼白になった。
「よく効くでしょ〜。お前達の国の術だよ」
 苦しげに歪んだ目が向けられる。
「これ、反結界っていうの。普通はここで弱らせてから仕留めるんだけどね。俺には時間がないから」
 左手で反結界を維持しながら、もう一つ術を上乗せする。破砕印を組んだ。
「破!」
 反結界ごと中にいる者を破砕する。大きく光が走り、キンという金属音と共に銀色の結界が破裂した。  
「おっと」
 大きく飛び上がりながら、防御結界をはる。光が完全に消え去るのを確認して、敵のいた位置に降り立った。
 仕留めたかな。
 あちこちに飛び散った残骸を確認する。頭はつぶれている。他に大きな部分は。
 その時気付いた。手。手首から指先まで残っている。何か握って。爆砕符。
「暗部さんっ!」
 その時誰かに突き飛ばされた。防御結界をはっていたから、逃げなくても爆発から身を守れる予定だった。なのに、誰が・・・・・・。
「うわっ!」
 吹き飛んでゆく姿を見て納得した。ああ、そうだよな。こういう状況でこんなことやるのは、一人しかいない。
「イルカ!」
 追いかけて抱き留めた。少し離れた所に寝かせる。抱き起こした。右目で確かめて。外傷は、ない。
「しっかりしろ!」
 左眼で体内も確認する。内臓も無事だ。全身を打撲はしているけど。
「すみませ・・・ん。オレ・・・・・暗部さんの顔・・・」
「何言ってるの!」 
「でも・・・・ちゃんと・・・情報・・・届けました・・・から」
 やんわりと、困ったようにイルカが微笑む。
「安心して!大丈夫だからっ」
「よかっ・・・・た・・・・・暗部さんが・・・・無事で」
 振り絞るように言って、イルカは意識を失った。不安になってイルカの胸に耳をあてる。規則正しく打つ鼓動。よかった。気を失っただけなんだ。
「叶わないよ」
 ぽつりと言葉が漏れる。俺を心配して砦から引き返してきたのか。砦に残っておれば、危険な目に合うこともなかったろうに。
 助けてくれたのだ。例えその必要はなかったとしても。俺のために、命をかけて守ろうとしてくれたんだ。
 イルカの忍服は胸元が大きく裂けていた。見慣れた布の切れ端。パックン。粉々の紙屑と布きれになっている。


 よかった。
 パックン渡しといて、本当によかったよ。


 固くイルカを抱きしめながら、俺は込み上げるものを必死で抑えた。



〜エピローグ〜



 俺達が高坂についた時、戦いは終盤を迎えていた。イルカから情報を受け取ったアスマは早々に撃って出て、予定より早くついた増援と共に雲側の軍勢を討った。龍髯は兵の約半数を失い、かなり有利な条件で一時休戦の交渉に入ることができた。
 作戦は成功したのだ。
「しかし、よく助かってよな。それも無傷とはね。爆砕符の直撃、くらったんだろ?」
 窓側の壁にもたれ、アスマが言った。
「助かって当然よ〜」
 俺は寝台わきのイスに腰かけ、ぴらぴらと右手を振った。
「何でだよ。イルカは結界なんてはれねぇのに」
 眠るイルカに目をやり、同僚が言う。
「だってパックンがいたんだもん」
「パックン、だぁ?」
 アスマは殆ど呆れ顔をしている。俺はそれをちらりと見やり、イルカを覗きこんだ。穏やかな息音。閉じられた瞼。やっぱりイルカっていい。とても安心する。
「あれはね。『写輪眼のカカシ』が半年かかって作った人形だよ。中身は護符の塊。全てイルカのみを守るために書いた符なのよ。だから、あれがイルカの身代わりになる」
「はあ、御丁寧なこったね」 
 ため息をつきながら、仲間は感想を漏らした。
「それに、あの時イルカは俺の結界内に入っていたからねぇ」
「イルカを守りながら戦ってたのか!」
「もちろんよ〜」
「そうかい。やってられんよ」
 両手を上げながら、アスマは降参を示した。悪かったね。それだけイルカは大切なのよ。わかった?
「さあて、そろそろ行くかな」
 時間を見計らい、俺は椅子から立ち上がった。こきこきと首を回す。
「いいのかよ」
 煙を吐き出しながら、アスマが言った。俺はイルカを見ながら、答えを返した。
「いいのよ。作戦が終わった時点で、フォローとしての俺の役目は終わり。あとは、お前が隊長としてイルカを守ればいい」
「けっ、押しつけやがって」
「それにさ、俺は先に帰って根回ししないといけないのよ。火影のじーさんとか、長老たちにね」
「根回し、ねぇ・・・」
 不審そうな目で仲間が見た。どうせ、俺が悪いことすると思ってるんでしょ。疑り深いねぇ。
「一人さ、イルカに育てて欲しい子供がいるのよ。俺みたいなさみしい奴。俺はあの人みたいに、注げるだけの心はないから」
「おめぇ、それってもしかして・・・・」
 目を見開く同僚に、俺は口元をひき上げ、微笑んだ。
「アスマ。あっち向いててよ」
「何だよいきなり」
「いいから向くの。出歯亀はイヤでしょ」
「へいへい。それじゃ向きますよ」
 ぶちぶちと呟きながら、アスマが背を向ける。俺はそれを確認して、イルカの上に屈み込んだ。


 ありがと。
 そして、またね。
 また会えるように、頑張るから。


 イルカの唇。思った通り温かい。ちょっと表面は荒れてるけど、柔らかかった。
 ご褒美をもらった俺が顔を上げる。後ろを向いたはずの仲間がこちらを向いていた。
「エッチ」
「相場暴落だな。『写輪眼のカカシ』の仕事料が、口づけ一個なんてよ」
「大きなお世話よ。出歯亀に言われたくないね」
 言いながら上体を起こした。戸口へを進む。振りかえり仲間を見つめた。言い忘れていたことを言う。
「そうそう。イルカが目を覚ましたら、誉めてやってね」
「ああ?」
「形はどうあれ、『写輪眼のカカシ』を救ったんだから。忍として、立派に任務をやり遂げたってね」
「わかったよ。めんどくせぇけどな」
 面倒くさそうにアスマが頭を掻く。それを確認して、俺は部屋を後にした。



 あれから幾年かが経ち、俺はイルカの隣にいる。
 それは、今までしてきた努力の結果とは言えないけれど。
 でも、努力してきた事実は消えない。
 まだまだ足りない所ばかりの俺だけど、イルカ、これからも一緒にいてね。
 日々、精進してゆくから。



 終わり



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