ナイショの夏〜お稽古カカシシリーズ過去編2:カカシside by真也







ACT11



 波乱の種は蒔いた。
 あとはそれが芽生えるのを待つだけ。


 朝が来た。
 俺達は龍髯の砦近くに潜み、様子を伺っていた。
 砦に残した鏡のかけらを媒介に内部を探る。騎虎は順調に動いている。思ったとおり独断で動くつもりらしい。
 なるほど。ほんとーに頭足りないねぇ。演習と偽って攻め込みますか。
 欠けた鏡の残りを見ながら、俺は薄く笑った。やっぱりお前、人の上に立つ器じゃないよ。その場しのぎばっかりでさ。お前の上官も優しいねえ。俺なら即刻始末してるよ。
 ともかくはもともと攻め込む為に用意していたのだ。昼すぎには全ての準備が整うだろう。
『どうですか?』
 イルカだった。
『やっこさん、既成事実作りにはりきってますよ。昼には準備が整います』
『じゃあ、うまくいったんですね』
『今の所はね』
 苦笑して答えた。まだ全てが終わったわけじゃない。馬鹿が動き出すのを見届けて、それをアスマに報告する。あとはアスマがやってくれるはずだ。
『もしよければ、どうぞ』
 何か手に渡された。黄色い物体。もしかして、団子?
『簡易食の粉を水で練りました。あれって、パサパサして食べにくいから』
 デコボコだった握り飯を思いだす。団子もやっぱり、いびつな形だった。
『あの、すみませんっ。見栄えよくないですし、お気に召さなければオレ食いますからっ』
 無言になっている俺に、イルカが狼狽して言った。妙におかしくなる。今さら、だよ。
『頂きます』
『えっ?ほんとうですかっ』 
『はい。すみませんが後ろを向いてくれますか?俺暗部だから、顔を見られるわけにはいかないんです』
『わっ、わかりましたっ。ありがとうございます』
 くるり。まるで機会仕掛けの人形みたいにイルカが後ろを向いた。俺は面に手を掛ける。


 振り向くかな。
 振り向かないよな。
 イルカだもの。
 でも、ちょっとだけ、振り向いて欲しい気もする。


 チャクラを緩める。暗部の犬面を外した。手の中の団子にかぶりつく。
『あの・・・・どうですか?』
 後ろを向いたまま、イルカが訊いた。
『うまいですよ。団子だから食べやすいです』
 心の底から答える。本当だよ。イルカが作るものは、何でもうまい。
『ほんとうですかっ!よかったです』
 弾む声。背中を向けていても、どんな顔をしているかわかった。胸が、温かい。
 いつもそうだ。イルカは温かさをくれる。今回もたくさんくれた。俺はいい。いっぱいもらったから。今までもらった分で、これからも頑張ってゆける。だから、これからは分けてあげてよ。あの子に。
『この任務が終わるまで、俺の指示を聞くっていう約束は覚えてますか?』
 意を決して訊いた。イルカがこくりと頷く。
『実は、里に帰ってからも頼みたいことがあるんです』
『なんでしょう。オレでよければ・・・・・』
『木の葉の里に、ある子供がいます。愛してくれる両親はいなくて、笑うことも出来ない。けれど、じっと待っているんです。手を差しのべてくれる誰かを。名前を呼んでくれる誰かを。あの子には温かさが必要だ。アンタなら、あの子も笑えるようになると思うんです』
『暗部さん・・・・・』
『俺には無理なんです。どうか、お願いします』
 イルカに出来ることはいっぱいある。それは人を思いやること。慈しむこと。育てること。
 アンタは俺さえも温めてくれたんだ。里にはアンタが、必要だ。
『わかりました』
 背筋を伸ばし、イルカが答えた。真摯な声。
『未熟なオレですけど、やってみます』
『ありがとうございますっ』
 思わず背中から抱きついた。イルカの身体が跳ねる。流れ込んでくる熱。堪能した。これくらい、いいよね。 
『あのっ・・・・・恥ずかしいですから・・・・』
 消え入りそうなイルカの声。項が真っ赤になってゆく。駆け回っている鼓動。そうだね。これ以上は駄目。俺も抑えられなくなるよ。
『すみません。はずみでやっちゃいました』
 言いながら身体を離した。残りの団子を全部平らげ、再びチャクラを練った。面を吸着させる。
『もうこっちを向いていいですよ』
 俺の声に、イルカが向き直った。顔がまだ赤い。心持ち嬉しくなる。
『それじゃあ、俺から里に話を通しておきますね。宜しくお願いします』
『はい。その、こちらこそ・・・・』
 ぺこり。俺たちは二人、しゃちほこばってお辞儀をした。その時。
 ギギギギギギッ。
 砦の門が開いた。中から兵が次々と出てくる。砦の勢力の半分弱という所か。演習とは比べ物にならないほどの重装備。大将が全面に立つ。騎虎だ。
『暗部さん、これは・・・・』
 イルカがこちらを見る。
『決まりですね。行きましょう』
 そう告げ走り出した。イルカが後に続く。一路、高坂へ。


 芽は出た。
 あとは繁ってきたものを、根こそぎ刈り取るだけ。


 イルカを振り切らないよう気をつけながら、俺は森を走りぬけた。





 高坂の砦へと急ぐ。俺達は順調に進んでいた。あと一刻半程駆ければたどりつく。
 うまいこといったねぇ。
 内心苦笑した。こんなにすんなりといくとは思っていなかった。ましてや、俺はイルカを連れている。正直、見つかる可能性も少なくないと考えていた。
 こううまくいっちゃうと、なーんかおまけがある気がするよね。
 気になることがないと言えば嘘になった。龍髯には、『草』達を洗脳するような術者がいたのだ。それほどの奴が、俺達の侵入に気付かないはずがない。
 結局、龍髯にそんなでっかい気はなかったしねぇ。やっぱ、どっかに潜んでるってのがオチかな。
 そんなことを考えていた時だった。ぐらり。景色が歪む。まずい。結界か。
『暗部さんっ』
 イルカが隣に並んだ。さすがに気付いたらしい。凶々しい気を感じる。みるみる大きくなった。
『お客さんが来たようです』
 大きくなった気が黒い影になる。だんだん人型を帯びて。出たな。
 影の中から男が現れた。目を閉じている。まさか。
『目を閉じてください!』
 隣に叫んだ。イルカがとっさに目を閉じる。俺も面のまま、写輪眼を開いた。
 奴の目が開く。縦長の瞳孔。瞳術使い。
 そうだと思ってたけど、まずいねぇ。
 僅かに口の端を歪めた。冷静に考える。イルカを抱えたままの戦闘は不利だ。高坂に情報も伝えねばならない。ならば。
 俺は印を組み、イルカのまわりに防御結界を張った。
『今からこの結界に穴を開けます。穴を抜けたら目を開けて、高坂に行ってください』
『えっ』
 目を閉じたまま、イルカが顔を向けた。
『残念ですが、アンタがいるとこっちが不利だ。情報も届けなくちゃいけない。だから、アンタが行ってくれ』
 イルカがギュッと唇を結ぶ。こくんと頷いた。俺はパックンを取り出し、イルカに手渡した。
『お守りです。きっと役に立ちますから』
『わかりましたっ。暗部さんもご無事で』
 パックンをイルカが胸に抱く。俺は頷き、印を組んだ。
 火砕術。奴と結界両方に放つ。爆発音と共に結界が破れた。
「今です!」
 合図する。イルカが走り出した。防御結界をはり、奴の逆襲に備える。
 立ちのぼる黒煙の中、ゆらりと人影が現れた。なるほど。あれくらいの攻撃くらい、防ぐのわけないってことね。
 イルカの気配は、ない。かなり離れたらしい。
「さあて、こっちも本気でいくからね〜」
 つけていた面を放り投げ、俺は不敵に笑った。



ACT12

戻る