ナイショの夏〜お稽古カカシシリーズ過去編2:カカシside by真也







ACT10



 操られていた『草』達から俺が得た情報。それは、龍髯内部の分裂についてだった。
『では、その騎虎という男に会いに行くんですね』
 枝を蹴りながらイルカが訊く。遠話にも慣れてきたようだ。
『そうです。そいつが龍髯のナンバー2という奴みたいです』
『その人を動かすんですね』
『ええ、まあそういうことです』
 足を止めて答えた。もうそろそろ、必要だな。
『どうしたんですか?』
 イルカが隣にやって来た。小首を傾げ、俺を見つめている。
『ここで待っててください。様子を見てきます』
 言い捨て、木々を渡った。防御結界をはり、もっとも高そうな木のてっぺんに登る。前方に龍髯の砦が見えた。
「イルカにみせるわけには、いかないからね」
 苦笑して面を外した。写輪眼で見渡す。砦の構造。警備の薄い所。結界の強さ。
「あれ?結構簡単じゃん」
 意外さに声が出る。てっきり『草』達を操っている術者がいると思っていた。だが、そう大きな気は感じない。
 やっぱ、罠かねぇ。
 そんなことを考えながら、再び面をつけた。下へと降りる。イルカの元へと戻った。
『お帰りなさい』
 イルカは枝で待っていた。
『どうでした?』
『結構おとなしめでしたよ。今頃会議中ってとこですね』
『これからどうされるんですか?』
『灯が落ちるのを待って、砦に潜入します。もうすぐだと思いますよ』
 闇が深くなってきている。いくらおいしい情報でも、奴ら今夜は動かないはずだ。たぶん、今夜は情報確認と作戦会議だろう。そこを狙う。
『こちらを向いてください』
 隣のイルカに言った。イルカが俺のほうを向く。俺は左手で印を組んだ。右手の人差し指を噛み、血の出た指をイルカの目の前に向けた。
『あなたを俺の結界内に入れます。じっとしててくださいね』
『はい』
 イルカが目を閉じる。額に印を書いた。これでよし。
『あっ』
 ぱちり。イルカが目を開いた。驚いた顔をしている。
『どうしたんですか?』
『出てないですっ!』
『はあ?』
『ブツブツですよっ!暗部さんが触ったのにっ』
 言われてしげしげとイルカを見た。確かに発疹は・・・・・でてない。
『本当ですね』
『ありがとうございますっ!暗部さんのおかげです。あなたがいろいろよくしてくれたから・・・』
 笑顔。イルカが笑っている。目の端にちょっと涙。もったいないよ。
『違いますよ』
『へ?』
 今度は大きな目になった。びっくりした顔している。ほんとにめまぐるしいよ。飽きないねぇ。
『アンタの努力の成果です。俺が『暗部』であっても、アンタは逃げずに接してくれた。だからです』
『暗部さん・・・・』
 自然と俺も笑んでしまう。面でイルカからは見えないけど。
『でも、よかったです。これで、もっとアンタと仲良くできる』
 本心を言う。だってこれが目的だった。アレルギーが治らなけりゃ、未来の俺がアンタに近づけないもの。
『そうですね』
 告白に驚いていたイルカが、真っ赤になって言った。
『オレも暗部さんと、もっと仲良くなりたいです』
 無邪気な言葉。なんの警戒心もなく言う。駄目だよ。そんなこと言っちゃ。俺の言う意味、わかってないでしょ。


 それでもいいと思った。
 イルカには俺の想いがわかっていなくても。
 俺の想いは、消えやしないから。


 気配が変わった。砦の方を見やる。灯が消えたな。
『じゃあ、行きますよ』
 結界を二重に張りながら、俺は砦へと向かった。





 迷路のような通路を行く。砦は静まり返っていた。
 これだけ静かだと、気持ち悪いねぇ。
 そんなことを考えながら、俺は目的の気を探した。さて、どこかなと。
 後ろのイルカを振り返る。イルカは黙ってついて来ていた。気配もうまく消せている。やっぱり実戦ってスゴイねぇ。訓練なんて比べ物にならないくらい、忍たちは成長する。当たり前だ。力が及ばなかった場合、そこに待つのは己の死なんだから。
 気配を感じた。誰か来る。伝令役だろうか。男が一人。
『飛びますよ』
 イルカの腕を掴んで窓へと飛んだ。チャクラで外壁に貼りつく。息を殺した。
 男は何がしかの違和感を感じていたようだ。俺達のいる窓の近くに立ち止まる。こちらにやってきた。
 ありがと。
 窓を覗きこんだ瞬間に男の喉を掴む。目の前で片手印を組んだ。
 幻術。男の目が焦点を失った。
 かかったねぇ。当分、悪夢でも見ててよ。
「騎虎はどこだ」
 窓から中に入り、耳元で囁いた。手を放す。男がゆっくりと背を向けた。通路を先へと歩き出す。
『行きますよ』 
 イルカを砦の中に入れた。男の後に続く。程無くして、ある一室の前に立ち止まった。ここか。
 扉を見やって思った。たぶん、気付いてるだろうねぇ。
『あなたはここで待っていてください』
 イルカに指示を与え、俺は扉のすぐ横に潜んだ。顎をしゃくって合図を送る。男に声を掛けさせた。中から応ずる声。男が扉を開けた。
 やっぱりね。
 数本の小刀が飛んでくる。真っ向からそれを浴びた男が崩れた。今だ。
 印を組む。風遁。壁際に中の住人を貼り付け、部屋の中に入った。『草』達の記憶にあった顔。騎虎だ。
 見つけたよ。時間がないから遊びは省略。
 俺は仮面を脱ぎ捨てた。写輪眼を見開く。


 瞳術。
 相手の目を通して頭の中を覗きこむ。意識を操作して、こちらの意志を本人の意志として刷り込む。
 絶対やり遂げるべき使命として。
『高坂を落とす絶好の機会は、今』と。


『終わりましたよ』
 面をつけ、外にいるイルカを呼んだ。イルカがそろそろと部屋に入ってくる。
『大丈夫ですか?』
『ええ。結構簡単でしたよ』
『はあ・・・・』
 ほぼ人形状態で直立不動する男を、イルカはしげしげと見つめた。
『かなり強力に暗示をかけましたからね。朝には動き出しますよ』
『なんか、すごいですね』
 しみじみと感心しながら、イルカが言う。
『怖いですか?』
 少し不安になって尋ねた。イルカが目を見開く。やんわりと笑った。
『まさか。どうしてオレが怖いって思うんですか』
 あの夏の笑顔。懐かしくて嬉しくて切なくなるそれ。
『暗部さんは、いい人です』
 胸が痛くなる。ごめんね。アンタこそそんなにいいヒトなのに、俺はひどいことしてしまった。
 返せるだろうか。否、返したい。
 たとえほんの少しでも、アンタがくれたものを。
『長居は無用です。行きますよ』
 イルカを促す。窓を蹴った。イルカがそれに続く。
 深い深い闇の中に、俺達は降りていった。



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