真っ赤な景色の中に、イルカがいる。
 風に吹かれて立っている。
「イルカ先生〜!」
 思いっきり呼んだ。帰って来られたことが嬉しくて。イルカに会えた事が嬉しくて。
「ただいまです〜」
 全力で駆けた。イルカがだんだん大きくなる。困ったような顔。それが驚きを表すものになる。その時。


『暗部さん』


 唇が動いた。確かにそう言っていた。俺はとっさに飛びつく。誤魔化す為に。
「愛してまーす!」
「うわっ!」
 枯れ草の中に雪崩れ込む。慌てまくったイルカの顔。真っ黒な目を覗き込み、頭の中を探る。


 バレたかな。
 そんなことないよな。
 でも、覚えててくれて嬉しい。


「何すんですか!」
「え?何ってアレを・・・」
「場所をわきまえてください!」
 襲われたショックでイルカの頭からその名は消えた。ほっと胸を撫で下ろす。
 覚えてなくていい。それでも俺は、忘れないから。


『暗部さんって、いいひとですね』


 あの時、精一杯努力した。
 アンタに近づけるために。
 アンタといられる未来のために。
 そして何より、アンタに恥ずかしくないように。







ナイショの夏〜お稽古カカシシリーズ過去編2:カカシside by真也







ACT1



 一年前、俺はイルカを壊した。
 だから、イルカの前になんか出られない。
 だけど、イルカを守りたい。



「だからってよ。おれを巻き込むのはよせ」
 アスマが嫌そうに言った。もう短くなった煙草をもみ消す。
「いいじゃない。イロイロ借りもあるでしょ?」
「ばかやろう。お前も同じくらい、おれに借りがあるだろうが」
「そんなこと知らなーい」
「ちっ。愛想がよくなったんだか、性格がよくなったんだかね」
 ブツブツとぼやいて肩をすくめる。俺はにっこり微笑んだ。
「うふふ。誉めてくれてありがと」
「よせ。気持ち悪い」
 吐き捨てるように、言う。今も昔もただ一人の、俺の仲間が。
「で?何をすればいいんだよ」
「受けてくれるの?」
「仕方ねぇだろ。『写輪眼のカカシ』のご指名だからな」
「わーい。だからアスマちゃんって好き〜」
 胸で指を組み、ちょっとしなって言ってみた。
「やれやれ。その言葉もやめろよ」
「だって、おねぇさんたち喜ぶのよ〜。いっぱい着物着せてくれるし。太夫姿の俺、きれいよー」
「ったく。連れてくんじゃなかったぜ。もういい、本題に入れ」
 大きくため息をつき、髯の仲間は煙草を咥えた。俺は一枚の紙を取り出す。
「はい」
「何だよ。中忍の資料じゃねぇか。『うみのイルカ』?知らねぇな」
「だろうねー」
 アスマの言葉に、俺はうんうんと頷いた。すっぱり切り出す。
「実はね、お前にこの人の上司になって欲しいのよ」
「はぁ?中忍のお守りか?おれの管轄じゃねぇぞ。それに、おりゃあ近々遠征に・・・ってまさか!」
「そうなの。この人も選ばれてるのよー」
「なるほどな」
 ため息混じり、仲間は煙を吐き出した。
「この人ねぇ、大きな任務初めてなのよ。今までC級任務や文遣い専門だったし。ちょっと忍術がアレでね。俺としても心配なのよ」
「思いだした!」
 ぱちん。アスマが膝を叩いた。さも楽しそうな顔になる。   
「こいつ、去年お前が遊んでた下忍じゃねぇか!よく中忍なったなぁ」
「やなこと覚えてるね」
「おおよ。ある意味有名だったからな。たしか、戦闘に難ありって奴じゃなかったっけ?」
「残念ながら、そう〜。でも、今回の任務には大抜擢よ。暗号解読と連絡要員としてね。いや、努力が実ったねぇ」
「本当かよ。だが高坂の城だぜ。あんな最前線、こんなの行ったら死ぬぞ」
「死なないよ〜」
「へっ?」
「だって、俺が守るもん」
 自信たっぷり、俺は告げた。アスマが狐につままれた顔になる。
「お前、作戦会議いたっけ?」
「いたよー」
「嘘ツケ」
「いたもん。ほら」
 言いながら印を組んだ。ぼすん。白い煙が上がる。
「あー!」
 指を差し、アスマが叫んだ。
「お前、あの暗部だったのか!どーりで見慣れねぇ奴がいると思った」
 納得したような顔。煉瓦色の髪を一振りして、俺はにやりと笑った。
「変わるもんだねぇ。それって変化か?」
「違うよ〜。変化じゃバレちゃうからね。ある印に反応する薬を使ってんの。便利よ」
 赤茶色の髪をひっぱりながら、俺は答えた。アスマが思いついた顔をする。
「おめぇ、それってあれか?あの、何とかいう変な坊主の・・・・」
「まっさか。あいつが教えてくれるわけないでしょ。これは俺のオリジナル。まあ、奴ならこれくらい知ってるかもしれないけどさ」
「へっ。お前がお前なら、坊主も坊主だよな。あんな偏屈どうして懐くんだか。おりゃごめんだね」
 頭をガシガシ掻きながら、アスマがぼやく。
「懐いてなんかないよー。懐くってのはこういうこと」
「わっ、やめろ!」
 抱きつくと頭を押された。むりやり引き剥がされる。
「いいじゃなーい」
「いいことあるか!わかったよ。とにかく、このうみのイルカってぼっちゃんをおれの隊に入れりゃあいいんだろ?」
「そゆこと。俺フォローつくから。ヨロシクね〜」
「まったく。こんなことよく上が許したな。里随一の忍が一介の中忍のガードかよ。世も末だな」
「なに言ってんのよ。この任務の為に、俺がどれだけ火影のジジィにこき使われたか。頑張った正当なご褒美なんだからー」
「はいはい。一年前の無愛想なガキが懐かしいよ」
 ぶちぶちとぼやきながら、アスマは紙を手に取った。ぴらりと振る。
「じゃあな。手続き行ってくるわ。副官にも知らせないとよ」
「いってらっしゃーい」
 背中を丸めて部屋を出る仲間を、ピラピラ手を振って見送った。これで準備完了。
「イルカ、頑張ろうね」
 ぽそりと呟き、俺は印を組みはじめた。


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