封じられた夏〜お稽古カカシシリーズ過去編1〜 by真也 ACT8 気付いた時には、遅すぎた。 俺はイルカを、求め過ぎてしまっていた。 少しのズレも許せないほどに。 足早に森を抜ける。ただひたすら、身体を動かした。 頭が痛い。酷く疼いている。戻りたい。何処に。 帰るとこなんて初めからないのに。でも。 里へ行けば、イルカがいる。中忍試験は終わってないけど。 あの森やイルカの家を探せば、イルカのかけらがあるかもしれない。衣服や練習に使った的なんかが。 イルカが帰ってくるまで、それを抱いていよう。そうしたらこの痛みも、楽になるかもしれないから。 ただ一点を見つめて、俺は夜を駆けた。 里についた時はもう、昼を過ぎていた。 夕暮れにはまだ早い。吹き渡る風と鳥たちのさえずり。いつもと変わらぬ森。 イルカの使っていた的に手を触れる。最初は全く当たらなかったけど、最近では的の中心にも、かなりの確率で当たるようになっていた。 イルカはいない。当たり前だ。中忍試験は終っていないのだから。 俺は木の根元に座り込んだ。膝を抱え、腕の中に顎を埋める。少し休んで、受付に行こう。任務の復命を終えて、休みをとるんだ。今まで取ったことなかったから、有休も貯まっている。一気にイルカが帰るまでとってしまおう。それからイルカの家に行くんだ。息を潜めて気配を消して、そこに潜んでいよう。イルカの匂いのする場所で。そして、イルカの顔を見たら、ねぐらに帰るんだ。 「カカシ」 誰かが呼んだ。聞き覚えのある声。俺の名を呼ぶのは、ただ一人。 「おい、カカシだろう?」 ゆっくりと振り向く。イルカが立っていた。 「ひょっとして待ってたのか?ごめんな。でも、これでも早めに帰って来たんだぞ」 小さく笑いながら近寄ってくる。俺は立ち上がって、イルカの方を向いた。 「イルカ」 「聞いてくれよ。オレ、中忍になったんだぜ。おまえの言ってた作戦、バッチリだったぞ」 そこまで言って、イルカは立ち止まった。眉間にシワを寄せる。 「血の臭いだ」 イルカは辺りを見回した。俺の前でその視点が止まる。黒い瞳が見開かれた。 「おまえ・・・・どうして・・・。それは、暗部の装束じゃ」 「そうだよ」 「カカシ?」 「今日は、任務だったから」 「なんだって」 「殺して来たんだ。いっぱいさ」 イルカは喋らない。言葉を忘れたみたいに。 頭が痛いんだ。 イルカ、抱いてよ。この間みたいに。そうしたら、よくなると思うから。 「ねえ」 俺は手を伸ばした。血糊が乾いて、茶色くなった右手を。イルカの目が見開かれる。 一歩。二歩。 イルカが後ずさった。 怖いの? 殺して来たから? もう、笑ってくれないの? 手を取ってくれないの? あの人みたいに「おいで」って、言ってくれないの? 俺から・・・・・逃げるの。 俺が一歩を踏み出す。イルカの身体が、びくりと震えた。 風が薙ぐ。草が踊った。甲高い声を上げて、鳥たちが一斉に飛び立つ。 瞬間。イルカが背を向け、走り出した。 駄目だよ。 もう、遅い。 地を蹴り、揺れる背中を捕らえる。項を一掴みにして、地面へと叩きつけた。 イルカの身体が転がる。 起き上がろうとしたところを、再び後ろから押え込んだ。ざり。片頬を大地へと押しつける。 「無理だよ」 耳元で言った。イルカの身体が強ばる。 「中忍成り立てと上忍。何したって、無駄だ」 数回、イルカは逃れようと身体を揺すった。俺の右手は、微動だにしなかった。 逃がさないよ。 たとえ、俺を恐れていても。 離れるなんて、許さない。 背中に乗り上げ、膝で両腕を封じる。襟首を掴んで、引き裂いた。 イルカの肩が顕になる。思ったより細い項。 いらなかったんだよ。全部。 容易く手に入ってしまったから。 俺には意味を成さないものだったから。 肩を押さえて、束ねた髪を引き上げた。 畏怖される上忍。 殺すための能力。 あの時、開かなかった写輪眼。 みんな、みんないらない。 イルカが小さく呻く。右の首筋をぺろりと舐めて。 待ってたのは。 望んだのは。 欲しかったのは。ただ一つ。 一つだけなんだ。 イルカの肌が震えている。 躊躇うことなく、牙を落とした。 ACT9へ続く |