封じられた夏
〜お稽古カカシシリーズ過去編:カカシside by真也






ACT5



 どうしてだろう。イルカが助かった時、嬉しいと思った。
 仲間の代わりに毒虫に咬まれるなんて。
 死んだって自業自得なのに。弱い奴がやられるなんて、当たり前なのに。
 それでも、俺は、嬉しかった。
 あの人に頭を撫でてもらった時と同じくらいに。





「なあ。訊いていいか?」
 イルカが言った。あれから、一週間が過ぎていた。
「なによ」
「あのさ。おまえ、先週のこの日、オレんち来なかったか?」
「どうして」
「いや・・・・見たような気がしたからさ」
「何で俺がイルカんちに行くのよ。そっちこそ、来なかったくせに」
「悪かったよ。毒虫に咬まれたって言っただろ」
「どんくさいな」
「うるさい」
 イルカは先週のことを、殆ど覚えていなかった。誰かに助けられたことは分かったらしいが。
 熱も高かったし、仕方ないか。
 まあオレとしては、まだバレないほうがいいけど。
 目の前のガキが上忍だって知ったら、びっくりするかもしれない。それだけならいいけど、たぶん、今みたいには笑ってくれないだろう。
 いつでもバラせる。だから、今はいいの。
「よかったじゃん」
「なにが?」
 イルカが怪訝そうに見つめる。鈍いねぇ。
「死んだ方がよかった?」
「こら。でも、誰なんだろうな」
「さあ」
「目が覚めたら、誰もいなかったんだ」
「ふうん」
「お礼くらい、言いたかったな」
 そう言って、イルカは遠くを見つめた。俺はくすぐったく思いながら、その横顔を見つめた。
 いいんだ。
 イルカが死ななかったんなら、それでいいんだよ。
 俺もあんな思い、イヤだから。






 イルカは訓練を始めた。中忍試験が迫ってきているらしい。
 大変だねぇ。でも、どうするかな。このままじゃ、また落ちそうだしねぇ。
 下忍の方が長生きしそうだけど、本人は中忍になりたいみたいだし。
「変化!」
 イルカの声が響く。今日は変化の術だった。
「へえ」
 思わず声がでた。イルカにしては、見事な出来だったから。
 人物も動物も。実に安定して、上手く変化出来ている。
 あるんだねぇ。誰にでも、取り柄ってのがさ。
 でも、これって戦闘むきの技じゃないしね。
 ふと思い当たる。そうでもない・・・か。
 俺はにやりと笑い、イルカの練習を見つめた。



「イルカってさ、変化得意?」
 昼飯の時、握り飯を頬張りながら俺は訊いた。
「うん・・と。ま、そうかな。化けるの、好きだし」
 頬を掻きながら、照れ臭そうに笑った。
「小さな虫とか、化けられる?」
「え?やったことないよ。猫位までならやったことあるけど。何でだよ」
「いや、虫だったら見つかりにくいし。懐に入ったら攻撃しやすいかなと。土遁と組み合わせてもいい。まあ、蟲使いには効かないけどね」
「なるほど・・・・虫、か」
 イルカは何か考えているようだった。他の技は使いこなせてないし、体術や投法もやっと形になりだしたばかりだ。少々卑怯な手だけど、変化に惑わされるほうが馬鹿なんだし。力が伴わないんだったら、頭で戦うしかない。チャクラが大きければ見つかりやすいけど、イルカのは大したことないから。逆に見つかりにくいかも。
「飛ぶの、早い虫がいいよ」
「どしてだよ」
「トロかったら、潰されるよ。蚊みたいにさ」
「カカシ!」
 イルカの声を背に、俺は駆けだした。
 空が巡る。青くて、遠くに入道雲。
 風を受けながら、俺は走りつづけた。






ACT6へ続く




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