封じられた夏〜お稽古カカシシリーズ過去編:カカシside by真也








ACT4



 心臓がドキドキと波打っている。
 こんなこと、あの時以来だ。
 イルカの、白い顔。掴んだ肩が細かく震える。だんだん冷たくなってきた。
 呼んでもその目は開かない。
 分かってるの?
 アンタ、このままじゃ死んじゃうんだよ。
 下手なくせに。
 中忍試験落ちたくせに。
 どうしてそんなことするの。





 その日も、俺は先に来て待っていた。
 別に遅れてもよかったけど、なんとなく来てしまったのだ。
 ため息をつくイルカ。なんだか寂しそうだった。
 九尾の時、イルカは両親をなくした。それ以来、ひとり暮らしをしてると言う。
 俺も同じだ。あの時から、俺と一緒に歩いてくれる者はいなくなった。
 だからいつも、一人。
 寂しいとは思わない。あの人に出会うまでの俺も、一人だったから。
 元にもどった、それだけだった。
「遅いな」
 爪を咬みながら、俺は一点を見つめた。イルカはいつも、その方向からやって来ていた。 
 イルカは忍術が下手だ。でも、その分熱心だった。時間にもきっちりしていて、大抵同じ時間にここに来ていた。
 寝坊でもしてんのかな。
 退屈だねぇ。
 木に座ったまま、ブラブラと足を揺らす。俺は待ちつづけた。しかし。
 半刻が過ぎてもイルカは来なかった。おかしい。いくらなんでも、イルカに限って。
 こんなの、らしくないねぇ。
 このまま帰ってもいいけど・・・・この後、予定も無いから。
 帰るついでに寄ってってもいいかな。
 イルカの住んでいる場所は知っていた。暗部だから。
 つらつらとそこまで考えて、俺は枝を蹴った。





 イルカは下町の隅っこに住んでいた。小さな、おんぼろの小屋に。
「いるかな」
 気配を殺して、中を伺う。
 小屋は静まりかえっていた。気配は、一つ。微かな、切迫した呼吸音。まさか。
 音なく窓を開け、俺は中へと入った。目を見張る。
 イルカはいた。台所の板の間に倒れていた。
「イルカ!」
 仕掛けが無いか確かめ、身体を抱き起こす。熱い。発熱している。
「イルカ」
 もう一度呼んだ。うっすらと、黒い目が開く。
「あ・・・・れ?おまえ、ど・・・して」
「そっちこそ何よ」
「ごめん・・・な。昼飯・・・落とした」
 見渡すと、いつもの握り飯が一つ、転がっていた。
「何言ってんの。アンタ、どうしたのよ」
「何でも、ない。ちょっと手がでてさ。・・・刺された」
「どこ?誰にやられたの」
「違う・・・・木の葉、どくむ、し」
 木の葉どくむし。木の葉毒虫だって?
 小さいけど要注意な虫。木の葉に住むものなら、誰だって知ってる。
「昨日、仲間が刺され・・・そうだったから。オレがクナイ投げたら・・・あたるかも・・・・しれないし」
「馬鹿!」
 思わず怒鳴っていた。仲間が刺されないように、自分の腕を出したって?
「ごめ・・・・もう」
 イルカの目が閉じられる。熱で朦朧としだした。





 心臓がドキドキと波打っている。
 こんなこと、あの時以来だ。
 イルカの、白い顔。掴んだ肩が細かく震える。だんだん冷たくなってきた。
 呼んでもその目は、開かない。
 分かってるの?
 アンタ、このままじゃ死んじゃうんだよ。
 下手なくせに。
 中忍試験落ちたくせに。
 どうしてそんなことするの。 




 
 解毒しなきゃ。
 傷口を焼かなきゃ。



 俺は左目を開いた。写輪眼でイルカの両腕を見る。あった。ちいさな痕。昨日のうちに処置しておけば、ここまで酷くならなかったのに。
 火遁印を組む。小さな火炎を傷口に押しつけた。イルカの顔が歪む。解毒剤を取り出して、傷口へと貼り付けた。あとは、丸薬を。
 イルカが咳き込む。薬が上手く飲めない。歯を食い縛ってしまっている。



 何してるの。
 飲まないと死んじゃうよ。
 アンタにゃ毒物耐性なんてないだろ?
 俺みたいに、放ってていいんじゃないだろう?
 ほら、飲んで。
 飲んでよ。
 イルカ。



 気持ちが甦る。あの人が九尾へと飛んだ、あの時へ。
 不安。
 漠然とした恐怖。
 死んでしまうかもしれない。
 いなくなってしまうかもしれない。
 イルカが。
 あの人みたいに。



 そんなの、イヤだ。



 丸薬を口の中に放り込み、噛み砕く。水を一口含んだ。顎を掴んで口を開けさせ、口移しに薬と水を注ぎこむ。
 ごくり。
 イルカの喉が上下した。なんとか、飲んだみたいだ。
 息が零れる。やっと、肩の力が緩んだ。
 俺は布団を敷き、イルカを抱き上げて運んだ。寝かせて様子を見る。
 イルカの呼吸が、少しずつ楽になってくる。即効性の解毒薬。効きはじめたらしい。



 楽になっただろ。
 もう、大丈夫だから。
 早く目を、覚まして。


 ねえ、イルカ。


 朝になり解熱するまで、俺はイルカを見守りつづけた。







ACT5へ続く




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