封じられた夏
〜お稽古カカシシリーズ過去編:カカシside by真也






ACT3



 それは、いつもの気まぐれだった。
 その日俺は早朝に復命した。何でもない、いつもの暗殺任務だった。
 森に着き、辺りを見回す。イルカと約束した時間にはまだある。すこし、眠っておこう。前の時みたいになってしまったら、かっこ悪いから。
 そう思って、俺は木の上に上がった。余程のことがない限り身体を横にして眠らない。それは、長年染みついた習慣だった。
 今日はイルカ、なにすんのかな。
 投げ技はアレだし、水遁はねぇ・・・。毎回いろいろ見てるけど、あれじゃ今年も危ないねぇ。
 まあ、下忍で単純な任務やってた方が死ぬ確率は低いだろうけど。でも、本人は中忍になりたいみたいだしねぇ。
 ふと思いだす。
 俺が中忍になったのは6才だった。
 あの時、火遁の調節がまだ出来なくて、焼いてしまった。
 足元に転がる人型の炭。俺はぼんやりと見つめていた。何も、感じなかったから。
 弱い奴はやられる。
 それは、当たり前のことだった。
 まわりを見回すと、誰もが身を退いた。目を合わそうとしなかった。
 なんだよ。これくらい。
 そう思って去ろうとしたとき、俺の腕を引いた奴がいた。
 白い肌。碧眼。金の髪。
 穏やかな笑顔で「おいで」と言った。
 おいで。
 それ、俺に言ってるの?
 俺と、いてくれるの?
 怖くないの?
 俺はその人についていった。
 初めてそんなこと言われたから。
「一緒に頑張ろう」
 その人は言った。
「調節の仕方を教えるよ。おまえなら、すぐ出来る」
 そう言って、彼は俺の頭を撫でた。





 気配で目が覚めた。イルカだ。
 キョロキョロと見回している。
 探してるの?ひょっとして俺を?
 なんだか楽しくなった。
 イルカは気付かない。気配は消してるし、よしんば表に出してたってイルカには感じられない。
 いるんだよ。ここにさ。
 俺は、ここだよ。
 イルカが特訓を始めだしても、俺は木の上から降りなかった。
 今日は火遁の術だった。
 炎が出ない。一生懸命やってるけど、マッチで出したみたいな小さな火。
 チャクラはちゃんと練られてんのにねぇ。
 ありゃ、配合が悪いんだよ。同じくらいに出さないとね。
 もうちょっとなんだけどなぁ。
 そうだねぇ。俺のチャクラものせてみるかな。
「うわぁ!」
 いきなり、炎の渦が出た。イルカが目を白黒させている。危ないよ。それじゃ自分も燃えちゃうよ。
 でも、それでコツがわかったでしょ?
 俺は口元を緩めた。





 昼になった。
 イルカが両手をだらりと降ろす。またキョロキョロしている。
 まだ探してるのか。ヒマだねぇ。
 諦めたのか、イルカは木陰へと歩いていった。自分の荷物を手に取り、ごそごそと中を探る。
 あった。いつもの握り飯。ちゃんと、二つある。
 イルカは握り飯を竹の皮ごと膝に置いた。何故だか溜め息をつく。
 たべないの?
 今日は二つ、食べれんだよ。
 いつも一つで、足りなかっただろ?
 帰りに腹が鳴ってたの、俺は知ってるんだよ。
 イルカは食べない。握り飯を見つめて、また一つ、ため息をついた。
 なんだろう。何だか痛い。胸の辺りが、締めつけられてる。
 おかしいな。任務ではかすり傷一つ、つけなかったのに。
 どうして?
 俺は木から飛びおりた。イルカがびっくりしている。
「コンニチハ」
 ほら。挨拶だよ。
「遅かったな。握り飯、食べちゃうところだったぞ」
 そう言って一つ差し出す。
 知ってるんだよ。食べなかったくせに。
 俺は手を出して受け取った。握り飯をほおばる。
 やっぱり、所々辛かった。でも。
 胸の苦しさは消えていた。 





「なあ。そろそろいいだろ?」
 イルカが訊いた。意味がわからず、目を向ける。
「その、名前がわかんないとさ。呼びにくいだろう?いつまでも「おい」じゃかわいそうだし」
 なに言ってんの?
 俺はあの人と出会うまで『おい』だったよ。
 それで、不自由はなかったし。
「な。教えてくれよ」 
 イルカが見つめる。ま。イルカならいいよな。
 ぼそりと、名前を言った。
「カカシかぁ!いい名だな」
 イルカが笑う。
 そうだろ?
 あの人もそう言ったんだ。
 握り飯を食べた後、イルカは火遁の術を練習して、俺はそれを見ながら寝そべった。
 そのあとウサギを掴まえて、イルカの火遁で焼いて食べた。
 ウサギは殆ど炭だった。
「カカシ!またな!」
 イルカが手を振る。
 耳に残る俺の名前。
 いつまでも反芻して聞いていた。





ACT4へ続く




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