時々、思う。
 おれは馬鹿じゃないかと。






太陽の憂鬱〜燃える椿の下で 序章2〜  by真也






「・・・んっ・・・も、いいだろ?」
 あんまり長い時間貪ってるから、いい加減イヤになって逃れた。
「好きにやらせろ。約束だろが」
 低い声。自分の権利を主張してきた。それに見合うことはしたと。だから、ちゃんと代価を差し出せと言っている。
「だって、息できねぇし。なんか・・・」
 苦し紛れに言い訳する。おれの方が悪いみたいだ。なんやかんやこじつけて、あいつがおれに強いているはずなのに。
 もうやめてくれないかな。
 一抹の期待を胸に、サスケを見上げた。漆黒の瞳が見据える。その中に、情けない顔のおれ。
「うるさい。口、開けろ」
 更に低い声で言われた。観念して口を開く。項が掴まれ、逃げられないように拘束された。あいつが息を奪う。舌が内部を暴れ回った。
 あーあ、怒らせちゃったな。
 文字通り、好きにされながら思う。この状況じゃあ、きっとぎりぎりまで離してくれないだろう。人の口ン中探って何が嬉しいのかわからない。でもあいつは求めてくるのだ。この、おれが一番苦手な行為を。
「んっ・・・・・うう」
 さすがに息が苦しくなってきた。抗議にサスケの腕を掴む。待ち望んでいたように、内部のあいつが奥へと進んだ。刺激で一瞬、咽せそうになる。
 もうやめて欲しい。
 泣きたい気持ちでそう思った。だってこれ以上は変な感じになる。酸素の足りない頭はぼうっとなるし、身体の奥深いところで、何かがむくりと起き出すような気がする。それが何かはわからないけど。
 何故だろう。そんな時、いつもひどく不安になるのだ。
「んんっ!」
 我慢できなくて本気で暴れた。やっとサスケの腕が緩む。唇が離れた。
「長過ぎるってば!」
 口を拭いながら抗議した。あいつが無表情に見つめる。濡れた唇を開いた。
「それは俺の自由だ。息が続かないのは、お前の鍛錬が足りないからだろ?」
 言葉に血が上る。だけどそれは正論。ぐっと奥歯を噛み締めた。
「俺は今ので今回の任務フォロー分と、昨日のラーメン代をもらった。そうだよな?」
 更に畳み込まれるように言われる。でもそれは事実。言い返せない。
「だから、文句はないはずだ」
 確認。闇色の目が覗き込む。握りこぶしをしたまま、おれはしぶしぶ頷いた。サスケが口の端を持ち上げる。
「じゃあ、明日遅れるなよ」
 言葉と共に姿が消えた。肩の力が抜ける。大きく息を吐き出した。諦めと情けなさが入り交じって襲ってくる。
「・・・・わかってるよ」
 ぼそりとこぼした。それに答えるものは、もういない。
 ずっとこんなことを繰り返している。任務が終った後。あいつとおれとの間で、密かに。
 どこがいいのか皆目わからない。でも、あいつは要求してくる。
 何故だかわからないけれど、それはいつも口づけ。
 名目は任務フォローやバックアップの代償。ラーメン代や作ってくれた飯の代価。相談料や賠償料の時もあった。
 おれも嫌なら拒否すればいいのだ。
 あいつを拒み、フォローやバックアップされなければいい。食事を作ってもらったり、奢ってもらわなければ、こんなことしなくて済むのだ。そしておおもとは、任務を一緒に組まなければ、この厄介な事からきれいに身を退けるのだ。なのに。
 この三年間、おれはそれが出来ないでいた。
 我ながら変だと思う。どうして出来ないのか、ずっと考えてきた。
 あいつはお世辞にもいい奴とは思えない。どちらかと言うと、人のあげ足をとるやな奴だ。力の差を見せつけられて、ひどく落ち込むことさえある。が、しかし。
 いざそれをしようとした時、いつも、おれの中の何かがそれを引き止めていた。
 慣れちゃったからかな。
 そうとも思った。どんなに苦手なことでも、回数をこなせばそれなりに慣れる。それに、あいつは口づけ以上は要求しない。いくらおれでも、その先があることくらいは知っているのに。それでもサスケは求めなかった。むろん、これから求められるかもしれないけど。
 ともかく、今のところイヤな時間は五分以内、それも二、三日おきの頻度だ。それくらいならばと妥協してしまったのだろう。その行為さえなければ、サスケは相棒として申し分なかったから。
「やっぱ、だめかなー」
 ボリボリと頭を掻く。自分に苦笑して歩き始めた。ぼちぼちと家への道をゆく。風に吹かれながら歩いた。
 中忍になって三年、日々順調におくっている。任務の数もこなしたし、実績も少しずつ上げていた。火影になるって夢も捨ててないし、今もそれに向かって進んでいると思う。結構それが遠い道だとは、さすがにわかってきたけど。
「ま、いいか」
 途中までの思考を頭の端に押しやる。とにかく腹が減った。食べてから続きを考えればいい。今日は何味のラーメンにしようかと考えながら、更に足を速めた。その時。
「よう」
 嬉しい声に振り向いた。イルカ先生だ。
「イルカ先生!」
「元気そうだな。頑張ってるか?」
 にっかりと温かい笑み。とたんに気分が晴れてしまった。
「うん、あったりまえだってばよ!」
「そうか。たのもしいな」
くしゃくしゃと頭を撫でられる。子供扱いされてるけど、全然嫌じゃなかった。
「先生こそ忙しいんだろ?って、もう先生じゃないんだっけ」
 先生は現在、次期火影候補補佐だ。火影候補のカカシ先生を助けて、奥殿の表方を取り仕切っている。
「かまわん。今は二人だけだからな」
「へへ、やった」
「でも、公の場所ではちゃんと役職名をいうんだぞ?」
「わかってるってば!」
 イルカ先生らしくて微笑んだ。やっぱ、変わらないよな。そこまで考えて、ふと思いだした。
『あの人は、カカシのものだ。そして、あの人自身もそれを望んでいる』
 サスケはそう言っていた。そしてそれはおれにもわかっている。なぜなら確かに、カカシ先生とイルカ先生の間には、絆のようなものを感じているから。
 ということは、やっぱり、好きなんだろうな。
 ぼんやりと思う。
「これから帰りか?」
 先生が訊く。形のいい唇が開いた。目が離せなくなる。好きってことは、先生達も口づけ位、してるんだよな。驚きに足が止まった。
「・・・・・ナルト?」
 イルカ先生も立ち止まる。再度訊かれた。まずい。顔に血が上がってくる。ちょっと想像してしまった。
「どうしたんだ?顔が赤いぞ。熱でもあるのか?」
 先生が近づいてくる。額に手を当てられそうになって、慌てて飛び退いた。イルカ先生が首を傾げている。
「な、なんでもないってば!ちょっと、熱いかなーって」
 慌てて打ち消す。先生が一瞬眉にしわを寄せたが、すぐにもとの表情になった。
「変な奴だな。まあ、いいか」
 苦笑しながら言う。おれは笑って誤魔化した。先程の想像を頭から追い出す。バレなくてよかった。
「久しぶりに、ラーメンでも食いに行くか」
「やったってばよ!」
 先生の問いに、おれは大きく頷いた。二人、肩を並べて歩き出す。地面に映る影はもう、同じくらいの長さになっていた。



 たしかに。
 ちょっと馬鹿じゃないかと思う時もあるけど。
 おれは結構、今の毎日を気に入っているから。
 だから、まだこのままでいいと思う。
 そうだよな。
 いつもいい事ばかりじゃない。
 太陽だって、雲に邪魔される時もあるんだから。
 今は、まだ。



end



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