触れられる太陽〜燃える椿の下で 序章1〜 by真也
最初は、光。
金色に光る髪の毛。ふさふさと風に揺れる。収穫期の稲穂のようだった。
次は、空。
新緑の季節にみる碧い色。くるくるとよく回る。透き通って。そこには偽りなど、存在しない気がした。
最後に知りたくなったのは、熱。
よく動く身体は熱いのだろうか。意外と冷たいかもしれない。どうしても確かめたかった。
だから、あいつに触れた。
うずまきナルトは不可解だった。
おおよそ無謀だと思える方法で、力任せにごり押ししてくる。どんな障害があっても諦めない。しつこいと思えるほど試練に臨み、いつの間にか事態が好転してしまっている。
それは俺にとって、信じられない現象だった。
俺と同じく、あいつも孤独だ。同じように嫉まれ、疎まれ、恐れられている。それでもあいつは他人に関わり続ける。酷い中傷や視線を浴びながら。
最初はただ鈍感なだけの馬鹿だと思った。が、しかし。
あいつはそれらを人並み以上に感知している。でも、傷つくことをやめようとしない。全身で訴え続け、ついには相手を陥落させている。
ひたむきだな。
自分にはなくなってしまったものを見つけて、おれは観察し続ける。いつしか、それは自分への救いになった。
おれができなくても、あいつにはできる。
だから、あいつの近くにいたいと思った。そして。
『近くにいたい俺』は、『あいつを近くに置きたい俺』となった。
近づく為には何でも使う。好意でも、策略でも、取り引きでも。
弱い部分につけ込む。揺れる心のスキを突く。
そんなことに、何ら罪悪感は抱かなかった。
初めて触れたのは、あいつが混乱している時。自分では理解できない対人関係の形を、必死で解ろうとしていた。その対象がイルカ先生だったから。
触れた唇の温度は、俺より僅かに高いものだった。でも、それより。
俺はその柔らかさに虚をつかれた。これが、あいつ。
口づけが終った後の、まったく無防備な顔もよかった。敵意も、なにもない真っ白な思考。そのなかに、俺を叩き込んでやりたかった。
二度めは力の差を見せつけた。抑え込んで。抵抗を全て封じて。
向けられる表情は屈辱に満ちていた。悔しそうな目尻に薄く光るものを見つける。明確な感情が伝わってきた。
敵意でもいい。
嫌悪でもいい。
それが強い感情であれば、それだけ大きな領域を占める。何も感じないのが一番始末に負えない。
だから、俺は満足だった。
一度触れたら、二度目も欲しくなる。それどころかもっと触りたくなる。より多くの満足を求めて。
触れるだけの口づけは、時間を経てその奥を求める口づけとなった。深部に引っ込んでいる舌もいい。引っ張り出して、思い切り絡める。目に見えて余裕のなくなってゆく身体も更に惹かれた。
『抱きたい』
心がそう要求し始めて、三年の月日が経った。未だ、それは果たされていない。
掠め取ってしまうのも、力づくで奪うのも容易い。
打たれ強いあいつが、それで壊れてしまわないことも分かっている。でも、一つだけ。
今の俺達、それだけは維持できない。別の関係を築かなくてはならなくなる。
あいつが俺に向けているものは、俺があいつに向けているものとは本質的に違う。だからその関を越えてしまえば、俺の望むあいつは消えてしまうことになる。
「おい」
「わかってるよ。任務フォローの分だろ。援護二回、防御一回だっけ?」
「その後のラーメン代も入っている」
「けっ、細かいな。またあれすんの?」
「他のやつがいいか?それだと一気にたくさん借りが返せるぞ」
「いい。なんか嫌な予感がする。さっさとやれよ」
「・・・・・・目、瞑れ」
「はいはい」
閉じられた睫に時々思う。
見てみたい。
俺を受け入れるあいつを。乱れるだろうか。耐えるだろうか。憎むだろうか。それでも。
ナルトは超えるものとして俺を見ている。俺があいつに屈するまでは。一番感情を注ぐものとして。
俺は、その存在を気に入っている。
「・・・んっ・・・も、いいだろ?長過ぎるぞ」
「好きにやらせろ。約束だろが」
「だって・・・・。息できねぇし。なんか・・・」
「うるさい。口、開けろ」
「・・・・・」
しぶしぶ開いた口を捕らえた。味わう。表層が満足するまで。
まだ抑えられる。
欲しい気持ちよりも、今はその存在でいたい。
まだ壊したくないのだ。
だから、俺は演じ続ける。
内側にあるものを綺麗に押し隠して。
時々、己の中の獣をあやしながら。
太陽が太陽でなくなってはいけない。
それは、世界が終わる時。
太陽に触れられるうちは、渦巻く闇は地中に埋めて。
いつか、噴き出すと分かっているけれど。
それまでは、このまま。
end
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