『太陽の呼ぶ声』
by真也
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ACT4
『それはできない』
死を願った俺に、かつての師は言った。内心驚く。それ位、十分やってのける男だと思っていたから。
『いい加減にしろ』
ぴしりと断じられた。厳しい声。それまでとは比較にならない冷気。だが今の状況では、俺が滅されるのが一番いいと思った。
『ナルトがどうしてこんなに頑張ってると思う。全てお前を取り戻す為だ。なのに、お前は逃げるのか?』
戸惑う俺に、カカシはそう告げた。藍色の目が俺を射貫く。反らせない気迫。
全ては俺を取り戻す為。
意外だった。いくら俺が『うちは』の生き残りであるとはいえ、里に優秀な血族はたくさんある。里がそこまでするとは思えなかった。それに、俺は上忍試験中に逃走している。抜け忍として始末されても仕方ないと思っていた。だのに。俺が逃げる、だと?
『お前は何をしている』
言葉が耳に焼きつく。俺はこれでいいと思っていた。自分が死ねば、奴も滅びる。それで全てが解決すると。そうすれば、あいつも苦しまなくてすむと。
『もう一度訊くぞ。こいつがこうまでしている間に、お前は何をしているんだ』
再度訊かれる。自問した。あいつが俺を取り戻そうとしていたのに、俺は何をしていたのかと。
逃避。
そうかも知れないと思った。真実も知らず兄を恨み続けた自分。間違いをおかしていたことに耐えられなくて、ナルトに救いを求めた自分。そして、あいつに拒絶され、奴に乗っ取られた不甲斐ない自分。
俺は俺を棄ててしまいたかった。棄てることで、自分と自分の犯した事から逃げ出してしまいたかったのだ。でも。
これだけは本心だった。あいつを守りたい。傷つけたくない。苦しませたくなかった。だけど。
違ったのだ。
ナルトが求めているのは、それじゃない。苦しみからの解放ではないのだ。
あいつが求めていたのは、俺。
俺だったのだ。
改めて思う。間違っていたのだと。
俺は自分にとって、都合のいい方法を考えていただけだった。それでは何の解決にもならない。あいつのしてくれたことを、無駄にするだけだ。
応えなければいけない。そう思った。
ナルトが俺を必要としている。その事実だけでいい。あんなに多くを強いた俺なのに。力ずくで抱こうとした俺なのに。それでも、取り戻そうとしてくれているのだ。
おそらく、あいつは友人や相棒と言う形の俺を欲しているのだろう。でもいい、形などどうでもよかった。
『よく考えろ』
目で促し、カカシがナルトを連れてゆく。玄関から口呪が聞こえた。あれは遠駆けの術。たぶん、あの人のもとへ行くのだろう。
考えなければいけない。今、本当の意味で。あいつに応えるには、俺は何をすればいいのか。何が出来るのか。
奴と入れ代わることが出来たのだ。身体を取り戻すことも出来るはず。いや、必ず取り返すのだ。
固く意を決しながら、俺は考えを巡らせた。
奴に圧力をかけ、入れ代わること。
一度それをこなした俺は、俺を取り戻す為に動き始めた。
外壁に穴を開けた事により、俺を捕らえていた場所はなくなった。幸い術は自由に使えたから、己の意識の中の一部分に攻撃結界を張り、その内側に防御結界を張った。奴に入ることのできない、安全地帯を作ったのだ。ここを根城に力をつけてゆき、ついには身体の支配権を完全に握る。そういうつもりだった。が、しかし。
さすがに奴も手ごわく、ちょっとやそっとの圧力では身体の支配権を譲らなかった。俺のほうも力を取り戻しきれなくて、最初は僅かな時間しか表に出ることができなかった。でも。
閉じられた空間を出たことにより、俺はナルトの言ってることや奴の言動を把握できるようになった。
そして翌日。
ふと、奴の意志を感じた。奴はナルトに危害を加えようと考えている。俺は抵抗を払い除けながら、意識の表層へと駆け上がった。大蛇丸に圧力をかける。一度目よりも少ない力で、奴はその場を譲った。
「・・・・あ・・」
目の前に空色。見開かれたそれに俺が映っている。きらりと光った。
「サスケっ」
名を呼ばれる。正直、嬉しいと思った。
「・・・・・ナルト」
思いを込めて名を呼び返す。跨がっていた姿勢を正し、あいつの目の前に正座した。これだけは、最初に言うつもりだった。
「すまなかった」
心から謝罪する。ナルトの顔に血が上った。
「何謝ってんだよっ」
おろおろと言い返される。でも、それは俺の素直な気持ち。俺がしてしまったことへの、精一杯の謝罪だった。
「今の俺には謝るしか出来ない。・・・・・お前に迷惑をかけてしまった」
目を閉じて言葉を継ぐ。ナルトが更に困惑した顔になった。
「おまえ、そういう言い方・・・・・」
「事実だ。俺のせいで、お前はあいつに・・・」
言いかけてその先をやめた。唇を噛み締める。ただ申し訳なかった。あいつは望んでいたはずはないのだ。男に抱かれることなど。
沈黙。重くのしかかった。ナルトが顔を歪める。何やら考えた様なそぶりの後、大きく息を吸い込んで言った。
「そうだよ」
反射的に、顔が強ばった。
「おれはなぁ、おまえのせいでひどいメに合ったんだからな。だから、このままじゃ済まさないぞ」
目の前に詰め寄られる。殴られるか決別か。覚悟を決めた。
「・・・奢れよ」
何・・・・・だと?
「一楽のラーメン。一ヶ月分だからな」
びしりと指を差された。思考が止まる。しばらくして、徐々にあいつの言葉が飲み込めてきた。それでいいのか?でも、ナルトらしい。
「わかった」
微笑んだ。上手く笑えてなかったかもしれない。それでも、その時精一杯の笑みだった。
「絶対だぞ」
ナルトが念押しする。いつもの表情。俺は頷いた。
確信する。
俺は俺に戻っていいのだ。俺を取り戻してもいいのだ。俺の望む形ではないにせよ、あいつは求めている。
迷いはもう、なかった。
「ナルト」
意を決し、あいつの肩に手を置いた。ナルトが目を見開く。思いきって言った。
「俺は必ず、奴から身体を取り戻す」
「うん」
微笑みと頷き。肯定をもらった。体中に力が湧き上がってくる。
「おれも頑張るな。だから、おまえも負けるなよ」
ナルトの言葉。何よりも俺を強くするそれに、はっきりと答えた。
「もちろんだ」と。
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