■『燃える椿の下で』ACT8 対応作品■
修羅
byつう
戻る
ナルトは言った。教えてくれと。
どれほどの痛みと苦しみと悔しさの果てに、そう決意したのか。
座敷牢にナルトひとりを残してきたあと。壊れてしまうと思った。もう戻らないかもしれない。たとえ体はあったとしても、心はぼろ布のようになってしまうだろう。
そのときは迷うことなく、あれを滅しよう。たとえ差し違えてでも。
身も世もなく泣き崩れるナルトを抱いているあいだ、イルカはどうやればあれを完璧に潰せるか、そればかり考えていた。ナルトを寝かしつけたら、行こう。カカシや三代目に気づかれぬよう、最大限の注意を払って。
格子の前までは行ける。そのあとは。
教え子の身を案じている親馬鹿な元教師。ナルト可愛さのあまり、「うちは」の結界を解くような。
そんな人物になりきろう。実際に結界を解いてもいい。そうすれば、あれは油断するだろう。そのときがチャンスだ。
印を探す手間などかけない。器ごと、屋敷ごと消してやる。灰すらも残らぬほどに……。
心を決めた直後。
まるで計ったかのように、ナルトは膳を引いてひざを進めた。そして……。
信じられなかった。ナルトの言葉を脳が理解するまで、かなりの時が必要だった。
そうか。それほどまでに、サスケを取り戻したいか。
ナルトの瞳に迷いはなかった。戸惑いも怖れも窺えない。それしか道はないのだ。そう悟っているかのようだった。
「おまえの知ってるおれじゃないぞ」
念を押した。それでもいいのか、と。
ナルトは頷いた。唇を結んだままで。
「わかった」
そう、言うしかなかった。
寝息が聞こえる。やっと眠ったか。しばらくは無理に目をつむっていたようだったが。
イルカは枕辺を離れた。厨に入って粥の椀や匙を洗う。明日もこの類の食事になるだろう。ナルトは嫌がるだろうが、できるだけ体調を整えておかねばならない。
たぶん、あれはこれから毎夜、ナルトを要求するはずだ。里に対する牽制と、時間稼ぎのために。
体力の消耗を抑え、できるだけすみやかに事を行なえるようにしなければ、とてもじゃないが身が持たない。色子や陰間のような手管を教えるつもりはないが、気の散らしかたや、相手の気分を和らげる方法、あるいは一歩先を読んですりぬける技術などは、忍術に通ずるところがある。
対人関係においてそういう操作をしたことのないナルトに、どこまでできるかはわからないが、とりあえず、知識だけは頭に入れておいてもらわねば。
あとは。
閨のあれこれは、自分の体で覚えていくしかない。こればかりは、相手のあることだから。
「恐い顔ですね」
上がり口から、声。
「いまから出かけるつもりじゃないでしょうね」
カカシはイルカを見据えた。
「行きませんよ」
洗い終わった椀を水切り籠に置きながら、イルカは言った。
「行こうとは思っていましたが」
「ほう」
意外そうに、カカシ。
「どうして、気が変わったんです?」
「闘う、と……」
「え?」
「ナルトが、闘うと決めたからです」
サスケのために。
たとえなにがあろうとも。なにをされようとも。
サスケを取り戻すまではあきらめない。決して逃げない。ナルトがそう決めたから。
「だから、おれも腹をくくりました」
イルカはナルトとの会話をかいつまんで話した。
いちばん知られたくなかった自分。いちばん見られたくなかった部分を、ナルトにさらす。ナルトの中で、これまでの自分は消えてしまうだろう。嫌悪されるかもしれない。それでも、それがナルトの願いならば。
「それは……また、思い切りましたね」」
ため息まじりに、カカシは言った。
「本当に、いいんですね」
「ええ」
短く答える。もう、心は決まっていた。
未明。
「俺はいない方がいいでしょう」
そう言って、カカシは屋敷を出ていった。
「じゃ、夕刻に」
「はい」
イルカは縁からカカシを送り出した。
まもなく夜明けだ。新しい闘いが始まる。ナルトの。自分の。そして、里のみんなの。
もう戻れない。引くわけにはいかない。一歩を踏み出すしかないのだ。ナルトの命と心のために。
人の情など、いまはいらない。
今日からおれは、修羅になる。
(了)
『燃える椿の下で』ACT8へ