■『燃える椿の下で』ACT15 対応作品■


暁月
byつう

 森羅を動かすことに成功した。
 カカシからそれを聞いたとき、イルカは希望と不安を同時に感じた。
 時限印の解術。それを為すのは、ナルトである。大蛇丸に近づけるのは、いまのところ彼だけだから。
 だが、はたしてそれが可能なのだろうか。
『信じましょうよ』
 カカシの言葉が木霊する。
 そうだ。信じなければ。ナルトは、あそこまでしてサスケを取り戻そうとしているのだから。
 サスケに会えたと言ったときの、ナルトの顔。五里霧中の中で、やっと見つけた一筋の光。それを信じて、ナルトはいまも戦っているはずなのだから。
 かたん。
 座敷の襖が開いた。銀髪の上忍が、額宛てを外しながら入ってきた。
「遅くなりまして」
「……なにか、変わったことでも」
「ええ。ちょっと、ね」
 カカシはどっかりと腰を下ろした。
「やつがあした、三代目を連れてこいって言いまして」
「火影さまを?」
「ええ」
 交渉を再開する。大蛇丸はそう言ったらしい。なにをするつもりだろう。もしかして、ナルトが印を見つけたことがばれたのか。だとすれば、ナルトの身が危険だ。
 立ち上がろうとしたところを、強い力で止められた。
「はなしてくださ……」
 皆まで言う間もなく、唇がふさがれた。反射的に顔を背ける。
「カ……カカシ先生!」
 どういうつもりだ。こんなときに。
「駄目だって、言ったでしょ」
 カカシは畳の上にイルカの体を押しつけた。
「そんなんじゃ、ナルトに笑われるって」
「しかし、大蛇丸は……」
「大丈夫ですよ」
 イルカの抵抗を見事に封じつつ、カカシは言った。
「上機嫌でしたもん。ナルトは、立派に自分の仕事をしています」
「……あんなこと!」
 吐き捨てた。頭では理解していても、感情は許していない。それでも、やっとわずかながら道が見えてきたのだ。そんなときに、万が一にもナルトの身になにかあったら。
 先日はかなり執拗に責められたようだ。一日休みはあったが、ちょっと目をはなした隙に、ナルトは庭に出て体術の稽古をしていた。焦っているのだろうか。本当に、おまえは十分すぎるほどのことをしているのに。
「どんな形であっても、それがあいつの『仕事』です」
 カカシはイルカを見据えた。
「あんたが揺れてちゃ、駄目ですよ」
 ふたたび、言われた。
「あしたから、もっと大変なんだから」
「森羅からは、だれが……」
「煉は動けないでしょうから、あの男でしょうね」
 理寧。龍尾の砦を裏で仕切っている男。
 優秀な術者であることは承知している。イルカ自身、理寧に解術してもらったこともあったから。が、その厳しさは半端ではない。
 夜は大蛇丸の相手をし、昼間は術の訓練。たしかに、いままで以上に大変になるだろう。
 カカシの体が重なってきた。唇が耳元から首筋に降りる。
「あげますよ。俺を」
 低い声。それだけで、思考が停止した。
「だから……」
 ええ。そうですね。
 イルカは両の手をカカシの背に回した。
 封じよう。いまのおれを。
 あなたを身の内に得て、おれは強くなる。あなたのほしい、おれになる。
 仄暗い灯明の明かりの中で、ふたりは儀式のように体を繋いだ。




 どれぐらいの時間がたっただろう。
 夜具の中にひんやりとした風が通った感じがして、イルカは目を覚ました。
 あのあと、きっちりと夜着を着て、ふたりで床に入った。少しでも眠っておくこと。それがいまの自分の「仕事」だと思ったから。
 横にいたはずのカカシがいない。厠にでも行ったのだろうか。そう思って、上体を起こしたとき。
 屋敷に張った結界が、わずかに揺れた。
 だれか、いる。さすがに、まだ結界の中にまでは入ってきていないが。
 それにしても、カカシの結界に触れることができるなんて。いや、カカシだけではない。大蛇丸の一件以来、イルカもこの屋敷に結界を張っていた。
 カカシとイルカとでは、結界の性質が違う。といって、決して反発しあうものではないので、互いに防御、攻撃、封印の三種の結界を張り、部外者を完全にシャットアウトしてきたのだ。
 その強固な結界を、越えようとしている者がいる。
 カカシはその「気」を察したのだろうか。ならば、自分も加勢しなければ。
 手早く着替えて、廊下に出る。
 庭だな。細くチャクラを練りつつ、進んだ。
 外は、すでに白々としてきていた。東雲色の空には薄い色の暁月。
 さわさわと木々の葉が揺れている。その向こうに、長身の人影がふたつあった。
 ひとつは、カカシ。そしてもうひとつは……。
「ずいぶんと早いご到着で」
 のんびりとした口調で、カカシが言った。
「時間は有効に使わねばな」
 ぼさぼさの赤茶色の髪。濃い鈍色の単衣。
 能面のような顔のその男は、森羅の術者、理寧だった。



 駒は揃った。
 あとは。



 信じるしかない。見守るしかない。
 彼は、いや、彼らは、木の葉の里の忍なのだから。



(了)



『燃える椿の下で』ACT15へ

戻る