『燃える椿の下で』
by真也
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その者はやっとの状態でそこに正座していた。
顔は紙のように白く、大きな碧眼は隈で縁どられている。
いつもは鮮やかに変わる表情も、今は皆無に等しかった。
彼は、敢えてそれになったのだ。
友に巣食うモノの、慰みに。
ACT7 〜慰み〜
どこからか僅かな光が入ってきている。遠くに聞こえる、鳥の声。
「横になってもいいのよ。つらいんでしょう?」
端正な顔が覗きこんだ。漆黒の目。深くて引き込まれそうな色。おれは首を振った。
「案外強情なのね。さっきはあんなに素直だったのに」
困ったように歪む顔。その顔はよく、あいつがしていた。大抵おれが無理を言った時。「ウスラトンカチが・・・・」などとぼやきながら助けてくれた。
「でも、予想外によかったわ」
囁き。薄めの形いい唇が告げる。ゆるく弧が描かれた。おれは目を閉じる。
あいつの顔。でもあいつではない。サスケではないのだ。
「当分、楽しめるわね」
おれはこいつに身体を供した。サスケの中に棲む男に。こいつは一晩中おれを嬲り、貪った。解放されたのはつい一刻程前。夜は明けようとしていた。
朝が来る。
軋む身体を無理やり動かした。何か、着なければ。
朝が来てしまう。
こんな姿、イルカ先生やカカシ先生に見せられない。きっと心配している。これ以上、迷惑を掛けたくない。
おれは普段の何倍もの時間をかけて忍服を着た。気の遠くなるような作業だった。
「来たわね」
奴が言う。天井にある出口のほうを見上げた。
「お迎えの登場よ。おお恐い。殺気で部屋が壊れそうね」
くすくすと笑いながら呟く。その時。出口の鉄板が引き上げられた。流れ込んでくる気。カカシ先生のものと、イルカ先生の。ふと気付く。いつものイルカ先生の気じゃない。刺すようなそれ。いつだったか、同じものを感じた。あれはたしか、おれが骨折した日。
ぎしり。誰かが降りてくる。体重を受けた階段が鳴った。
「ナルト」
イルカ先生だ。階段を降り、ゆっくりとこちらにやってくる。格子の前で止まった。後にカカシ先生が続く。
「先生・・・」
「大丈夫か?」
蒼い顔。目の下にくっきりと隈。きっと寝てないのだろう。それでも、いつものように柔らかに笑った。
「うん」
微笑んで返す。イルカ先生、平気だよ。おれは大丈夫だから。
「約束通り、ナルトを連れて帰らせてもらおう」
カカシ先生が言った。固い声。
「いいわよ。連れて行きなさい。そうそう、一つ言っておくわ」
「何だ」
「これで終わりじゃないわよ。その子、明日の夜にはここに来させなさい。今日は初めてだったみたいだから、一日休みをあげる。明日からは、そんなに甘くないわよ」
ぎりり。奥歯を噛み締める音。イルカ先生から聞こえた。前へと進み、格子に手を掛けた。
「・・・・よろしいでしょうか」
低い声。全身から絞り出したような。奴が頷き、牢の出口が開けられた。
「行きなさい」
奴が促す。
「そいつが入って来るんじゃなくて、アンタが行くのよ。ナルトちゃん」
「!」
「先生!」
瞬時にイルカ先生の顔が締まった。おれは叫ぶ。イルカ先生、駄目だ。
「・・・・ナルト」
先生が大きく目を見開いている。おれは笑んだ。精一杯、明るく。
「イルカ先生、そこで待っててくれよ。おれが、行くから」
言いながら立ち上がろうと試みる。背筋に、腰に痛みが走る。ぐっと歯を噛み締めた。
「・・・く・・・・」
膝ががくがく言ってる。でも立たなきゃ。立ってあそこまで行かなきゃ。先生が心配する。なんとか立ち上がり、よろよろと出口へ歩いて行った。格子を出る。
「それでは、連れていく」
カカシ先生が告げた。がちり。錠が降ろされる。
「明日の夜よ。忘れないでね、ナルトちゃん」
奴が言う。おれはこくりと頷いた。前を向く。
「ナルト」
イルカ先生が呼ぶ。イルカ先生だ。手を広げている。いつもみたいに飛び込みたいけど、身体が上手く動かない。変だな。よく見えなくなってきた。聞こえにくくも。まるで、膜が掛かったみたいだ。
ただいま、先生。
一歩を踏み出そうとして、おれは床へと崩れた。
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