『燃える椿の下で』
by真也
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その男は滅された。
木の葉の里で最強と歌われた一族の男に、滅ぼされたはずだった。
数年前、ある少年に施した呪印以外は。
ACT5 〜滅された男〜
うちは屋敷からひた走り、おれは火影屋敷にたどり着いた。三代目火影に直接会う権限がなく、カカシ先生を通じて報告した時はもう、真夜中になっていた。
「サスケが操られるとしたら、おそらく首の呪印が使われるでしょうね」
カカシ先生が言った。
「だとすれば、それを施したのはあやつじゃ。大蛇丸」
「ええっ!大蛇丸ってば中忍試験のときのっ」
「しかし火影様。たしか大蛇丸は数年前に滅されたはずです。普通、施された呪印はその術者の死をもって消えるはずでは・・・・」
「普通はね。でもイルカ先生、印の中には残って発動の機を待つものもあります。例えば、時限印のような」
「時限印ですって!」
イルカ先生が乗り出す。顔が、蒼白だった。
「先生、それってなんだよ」
気になって訊いてみる。イルカ先生の顔が固くしまった。しばし、沈黙。
「印の一種だ」
ぼそりと、カカシ先生。
「カカシ先生!」
「ナルトも一人前です。それにもしサスケが時限印を受けていたのなら、こいつはもう関係者だ。今さら隠しても仕方がないでしょう」
カカシ先生が淡々と言う。イルカ先生が唇を結んだ。
「イルカ、仕方のないことじゃ」
「・・・・はい」
いつにない複雑な顔で、イルカ先生が下を向く。
「とにかく、まだこれは推測の域を出ていない。原因を確かめないとね」
「そうじゃな。まずは、奴に会わねばのう・・・・」
呟くように三代目のじっちゃんが言う。おれたちは皆、頷いた。
翌朝。
木の葉の上層部で緊急会議がなされた。そして正午。おれの案内で三代目のじっちゃんと側近、木の葉の首脳陣がうちは屋敷を訪れた。もちろんカカシ先生やイルカ先生も一緒だった。
「遅かったじゃない」
地下にある牢の中で、サスケの中のそいつが言った。昨夜は暗くてわからなかったけど、座敷牢と言うのであろうか、その牢の中には畳が敷かれ普通の部屋のようになっていた。
「あんまり遅いから、そこの小僧が逃げたかと思ったわよ」
「おれは逃げたりしない。サスケを見捨てるもんか」
「いい子ね。サスケ君は大事なお友達だものね」
あいつの整った顔が酷薄そうに微笑む。ひどく嫌な感じがした。
「やはり大蛇丸か」
「お師匠様、お久しぶり。いえ、三代目火影と呼んだ方がいいかしら」
「おぬしの目的は何じゃ」
三代目のじっちゃんが訊いた。
「せっかちね。まずはこの身体に何か食べさせなきゃ。サスケ君、ここでアタシと心中するつもりだったみたいよ。おかげで、ひもじいったら・・・・何か、持ってきてくれたんでしょ?」
奴の言葉に、イルカ先生が立ち上がった。用意されていた膳を運ぶ。格子の前まで来た。
「待って」
奴が言う。イルカ先生が動きを止めた。
「アンタじゃいろいろ小細工しそうね。小僧、お前が持ってらっしゃい」
先生が眉を顰める。おれは膳を受けとった。鍵を開け、格子の中に入る。近寄り、奴の前に膳を置いた。
「まずお前が毒見しなさい」
「なにっ」
「毒なんかは入れてないと思うけど、痺れ薬や眠り薬とか入れられてたら困るものね」
奴がにやりと微笑む。おれは憮然として毒見をした。中に何も入ってないことを証明する。それを確認して、奴が料理に手をつけた。
「まあまあね。さあ、なんの話だったかしら」
食べながら奴が話を続ける。
「お前の目的はなんじゃと訊いておる」
じっちゃんが答えた。
「ああ、そうだったわね」
奴は興味なさげに頷き、料理を口に運んだ。
「目的は、サスケの身体か?」
「カカシちゃんか。次期火影候補だってね。偉くなったのねぇ。まあ、それもあるわ」
「ということは、他に目的があるんだな。何だ」
「お黙り。そんなに簡単に言うわけないでしょ。まずはゆっくり行きましょう」
「なんだと」
カカシ先生が眉を顰める。
「先は長いのよ。今日のお話しはこれでおしまい。せいぜい、皆で話し合っててね」
奴がひらひらと手を振る。後は取り合う気はないようだ。人々が顔を見合わせる。三代目のじっちゃんがため息をついた。諦めたのか申し合わせ、皆が出口へと向かう。その時奴が口を開いた。
「そうそう。くれぐれもサスケ君を見捨てないようにね。アタシを消しちゃったら、里にばらまいた時限印のありかも分からないわよ」
にたり。切れ長の目が細められる。皆の顔が硬直した。背筋を冷たい汗が走る。
「・・・・・そういうことか」
強ばった表情のまま、じっちゃんが呟く。奴が嬉しそうに頷いた。
人々が地上へと上がってゆく。血の気の退いた、能面のような表情で。
「待ちなさい」
用事が済んで牢を出ようとした時、奴に呼び止められた。
「お前が里とのつなぎ役になるのよ。これから誠心誠意、アタシに仕えなさい。でないと、わかるわね?」
唇を噛み締め、無言で睨みつける。「返事は?」と訊かれ、押し殺した声で「はい」と答えた。格子に手を掛ける。一刻も早くここを離れたかった。
「まだよ」
奴の声。おれは振り向いた。
「おまえの仕事は終ってないわ。むしろ、これからよ」
「ナルトに何をさせるんですか!」
イルカ先生が乗り出す。格子に近づいた。
「何でもいいでしょ。早くお行き。お前に関係ないわ」
「しかし」
「いいんだ」
「ナルト!」
「先生、おれは大丈夫だから。だから、早く」
おれの言葉に、イルカ先生の顔が苦しそうに歪む。唇が白く噛み締められた。
「イルカ先生、行きましょう」
カカシ先生が促す。こちらを睨み付けたまま、イルカ先生が出口へと引きずられて行った。
「朝になったらこの子を迎えに来なさい」
奴が言う。イルカ先生の目が一瞬大きく見開かれて、ギュッと閉じられた。カカシ先生が肩を抱く。ゆっくりと階段を上がっていった。おれはぼんやりと見つめる。先生、だいじょうぶかな。そんなことを考えていた。
「いらっしゃい」
奴が呼ぶ。
「おまえにはしてもらうことがいっぱいあるのよ」
微笑み。あいつの顔で、おおよそあいつがしないような妖しいそれ。
大きく息を吸い込み、おれは奴の所に進んだ。
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